妄想
「あっ!ヒコーキ雲」タマちゃんが空を見上げてつぶやいた。軌跡だ、軌跡だ。
「奇跡ってーー 白いすじ」。虚像やね。ヒコーキの通ったあとにヒコーキ雲の白い筋だ。
「じゃ、うろこ雲は? 」「いわし雲は? 」タマちゃんが続けてたずねる。
「魚の通ったあとにうろこ雲。鰯の通ったあとにーー いわし雲」。軌跡だ、虚像の軌跡だ。
「奇跡って、白い筋」、「ひつじ雲はひつじの通ったあとだね」と言いながら、タマちゃんはなにかをさがすようになおも空を見上げていた。通る、通る。人だって、まだらに通る。
「まだら雲だ」とボクは言う。
「ユウの妄想がまた始まった」タマちゃんが言う。
「俺は妄想によって現実との距離を縮めているんだよ」。人は妄想という自分の物差しで
人を測る。また自分の秤で人を量る。「ーー 妄想秤」と言う。
「そんな秤あったっけ」、「意味ちゃいまっせ」。ボクはタマちゃんに笑いながら答える。
妄想って居心地いいから、でもつかの間やから。妄想のなかで人は現実との距離を測っていくんだ。距離間違って、人は知らず知らずのうちに人を傷つけてーー 救われんね。
人は人と行き交う。いつだって行き交う。社会の仕組みだ。あの人とはこの距離、この人とはあの距離、絶対距離ってある。普通の距離、サークル距離、ジャンル距離、ライク距離、ラヴ距離、ラウンド距離、デイアな距離、ラスト距離。距離の概念のない世界って、居心地いいやろね。
「それが妄想やんか」とタマちゃん。
「多分、ニャンニャン距離っていうんやろ」。
ボクは消え入りそうなヒコーキ雲を見上げながら言った。




