表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生あるモノへ  作者: 雄すけ
66/112

花火、コロナ禍

 家に花火の写真がある。妻がとった二Lサイズの写真、額におさめられ、出窓に飾ってある。色彩感溢れる花火だ。そうだ、八月の初め、妻と一緒に花火を見に行った。コロナ禍では遠い昔のおとぎ話みたいだ。

その時、撮った写真だ。

 僕らは電車に乗った。花火の見物客でラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、フラッシュだ。日本人はやっぱり行列民族だ。電車の中、押すな、押すな、触るな、押すな。コロナ禍では信じられない。

ボクの後ろに若い女。もう一回言うよ、僕は心の中で言う。

<まだ触る、これが最後だよ、、、、 >。

 僕は電車が揺れた時、咄嗟に振り返る。返り討ち、返り討ちだ。でも、僕のお尻を触っていたのは彼女のカバン。世界一エロなカバンやんか。

妻は、妻はどこへいった。あっ、いた、いた。妻はここにいるよと人生の必然みたいな卑屈さで笑っている。

 僕らは汗だくになりながら最寄駅へ。人は改札口へ、改札口へと流れていく。さながらゲルマン民族の大移動のように。時を超えて、溢れんばかりの人、人、人。

「あぁ、最悪や」

浴衣ゆかたがこれ程暑いとは思わなかったよ」と、リアルな若いカップルの会話。あとは無口、強者(つわもの)のように行く男。あぁ、人、人よ、構内のアナウンスさへ通り過ぎてしまった人生みたいに。君たちは改札口を通り抜けて何処から何処へ行こうとしているの。花火に人生を託して、花火って泡沫うたかただよ、それでもいいんだと、饒舌な人たちの群れ、僕と妻は寡黙、ただただ人生の拠り所を探るように色彩を求めて歩く。 

 山の方まで坂道を上っていくと高揚感。僕らはやっと人混みの中の饒舌家に変身した。とりとめもない話をする。それもこれも人生の必然だ。今、コロナ禍、人生の必然さえ奪われてしまったのかな?

 その日は少し前に夕立があった。僕の心と一緒でいささか大気不安定だ。今は小雨、もうすぐやむにちがいない。ホラ、やんだ。

どど、ど~ん、一番花火があがったよ。

「わぁ~い」、「わぁ~い」。

人々が感嘆の声をあげた。

「ヒャー」妻の声。僕は笑った。

夜空にパッと咲く、大きく咲く、打ち上げ花火。エネルギーの権化みたいに咲く。時に、百日紅(サルスベリ)のように咲く。

 ビールを飲みながら夜空を見上げた人、人、人。人は何を凝視みつめているのかな? 現在、過去、未来、そんな流行り歌あった。夜空に、紅、黄色、青、それぞれの花火が輪唱みたいに湧き出ていく。追っかけこ、次から次へと火の玉小僧が上がっていく。爆発音が心まで響く。どん、どん、どん、時に、ドドドド、ドンドン、さながら市街戦。これでもか、これでもかと胸に容赦なく打ち入るドドドド。僕らは胸を撃たれた戦場の赤いバラよ。若いカップルの女が私を優しく抱いて、抱いて、と言わんばかり、男にしだれていく。しだれいく花火って嗜虐的に。花が咲いて赤、青、黄色、僕らは被虐的に光りの滝に打たれていく。これでもか、これでもかと、、、 光りは、いつの間にかしだれ柳みたいに。

「わあ~金魚みたい」子供が叫んでいる。

真っ黒な空に無数の赤い金魚が泳いでいく。そして、留めは白い光りの雨。

「うわぁ」、「うわぁ」、「うわぁ」。

輪になって広がる声。

「やばい」、「やばっ」。

歓喜の声だ。大人たちは子供たちにかえる。子供たちは少し背伸びして。大人の元気、子供の元気。そして老若男女の元気、それぞれの元気があった。

「やぁ、」、「やぁ、」、「やぁ、」。

 留めの花火はすごい、すごい、どすごい、どすこい。アンコールも言わせない迫力だ。

「ファンタジック」、「ブラボー」、「サンキュー」様々な声が飛び交う。

決定的な声は、「おおきに、おおきに、死に土産や」隣で見ていた爺さんが言った言葉だった。

その花火の色鮮やかな写真、コロナ禍の僕は、そんな事を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ