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生あるモノへ  作者: 雄すけ
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<ノモケマナ>

 人は彼のことを「ナマケモノ」と言う。

「南米に棲息せいそくするのが<ナマケモノ>なら、俺は日本の<ノモケマナ>だ」と、彼は逆さ言葉でうそぶく。なおも、

「<ナマケモノ>の進化形が<ノモケマナ>だ」と、とぼける。

ナマケモノはカメ(秒速七六㎝)よりも足が遅い。

ノモケマナはコアラ(秒速四四七㎝)と同じぐらいの足の速さだ。

 

 そんなノモケマナが歩いた。春を呼ぶ日、歩いてみた。昔、野をかけたところ、それが今は新興住宅地に「隔世の感を禁じえない! 」と、ノモケマナは歌舞伎役者みたいに見栄を切るよう言った。後ろは振返らない。外見は帽子にワクチン代わりのマスク、

「決して怪しい者ではありません。二十面相でも有ません。ちょっと徘徊しているのです」。彼の出で立ちは、彼にそう言わせる。

ノモケマナは記憶の糸を手繰り寄せていく。ここを曲がれば、確か? 幼馴染のサーチンの家。 

「あっ、ない、ない」左藤、田中、鈴木、歴代の首相の表札みたい。

「ないない、なくなった、いなくなった」むかし、むかしは思い出だけになっちゃった。

彼はステレオタイプに働いてきた。退職して徘徊、むかしを訪ねるように、だからあるって! 戸惑って、なお徘徊する。

「ああなってこうなって、こうなるよ」あれぇ、ならない、ならない。人生はままならない。彼は違和感ひとつ覚えていく。鬼は内へ、福は日常の外へ追いやられるような感覚だ。


 二月初旬の陽だまりのなかを行く。桜がちらほら? あれぇ! 「フライング! 一つ、二つ、三つも、、、 」河津桜かな? いや、桃? 桜の方がいいでしょう。彼は願望を込めて、歩き始める。

瀟洒なハイツだ。窓は南、部屋のなか、老人が座っていた。老人は丸い坊主頭に丸い背、重荷をおろしたようにすっきりした佇まいでシクラメンの先の陽だまりを見つめている。         

拒絶の果てにしがらみや束縛を忘却の河へ投げ捨てた姿? 記憶も何もかもそぎ落としたような佇まい? 丸腰の防御? それとも現実逃避? 「あれは在りし日の親父? 」霞のように風景が揺れていく。

 ノモケマナは歩く、歩く。父が亡くなった歳まで歩いていく。十三年先まで歩いてみる。そして日向ぼっこをする。彼はシクラメンの先の陽炎をみる、朧気ながら、少しは父のこと、わかったようなそんな気になった。

「決して怪しい者じゃ有ません。二十面相でも有ません。ちょっと徘徊しているのです」。


 あっ、在った、在った。それは野山の変遷を見ながら、今も在る。その佇まいは歴史にひそむしがらみさえ見てきたような趣きだ。

<お地蔵さん! >丸々坊主、優しさに満ち溢れた顔、寒牡丹のような真っ赤な前掛けを付けている。ノモケマナは嬉しくなる。幼い頃のままだ。今もアガペーの愛の眼差しでそっと在る。ノモケマナは幼い頃のようにお地蔵さんの頭を撫でた。鬼は外、福は内の感覚が戻って来た。

「決して怪しい者じゃ有ません。二十面相でも有ません。ちょっと徘徊しているのです」と、彼はまた歩き始めた。


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