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怪物、大地に立つ

登場人物紹介

【“怪物”】


HP:1300

MP:58000


 筋力:5600

 体力:560

 魔力:4000

防御力:320

魔防力:2400

素早さ:400

器用さ:200

 知性:230

 知識:1200

精神力:----


所有スキル

【言語の加護】

異世界のあらゆる言語が読み書きできるようになる。


【世界地図】

脳内に地図情報をいつでも呼び出せ、周囲の地形や街や村の場所と、現在位置を把握できる。


【捕食】

あらゆる生き物を食べることができる。食べれば食べるほど、その生き物を“理解”できる。鋼くらいの硬さなら噛み砕ける。


【人間化】

人間の姿になれる。思うがままに人間の声を出せる。


【爪の触手】

強い力でなんでも動かせる。尖端の爪は装甲車くらいなら引き裂く。


【棘の触手】

強い力でなんでも動かせる。鋭い棘がびっしり生えていて、捉えた獲物を激しく傷付けて弱らせる。


【進化】

進化できる。進化するたびに強くなる。進化するごとに新しいことができるようになる。


ほか、不明なスキルがいくつか





[情報]

転生したばかりで、全体的にはそこそこ、強めの野生魔獣程度のスペック。ただし筋力だけは異様に高く、人間程度の捕食は簡単に行える。知能はヒトよりも高いので要注意。魔力も女神の恩恵により魔人レベルに高いが、それを扱えるスキルを有していない。


飢えている熊の群れレベルの危険度。


討伐は魔導騎士団に任せよう! 少し犠牲が出る可能性がある

 風がそよぐ草原に、一人の精悍な顔立ちの男が立っていた。かつての“顔”とは違い、シュッとした印象を抱く整った顔立ち。若く健康的な風貌。だが不自然なまでのニコニコ顔が、それを不気味なものに変えてしまっていた。


 あまりに非人間的な雰囲気で、リアルな仮面でも付けているかのようだ。よく出来たロボットのように歩いている。草原という不安定な場所を歩いたのは初めてだった。




 見たことのない新しい存在、知らない風景。風に乗って、匂いがする。人より遥かに嗅覚のすぐれた“それ”にとって、今まで嗅いだことのない匂いが遥か彼方のあらゆる方向から漂ってくる。


 だが、それは全部、肉の匂いだ。


 “それ”の歩調が早まった。




 聞き慣れた甲高い声が聞こえる。これは人間が危険に晒されたときに出す声だ。そちらの方を見る。ずっと遠く、林の方に何か居る。そこからは、人の匂いと、今まで嗅いだことのない肉の匂いがした。


 少々臭みの強い、生きた豚に近い匂い。


 茂みをかき分ける。すると奇妙な生き物が、まさしく人間を襲っている最中だった。一台の馬車が横転しており、急襲でも受けたのが一眼で分かる。人の格好は甲冑を纏った騎士が二人。片方は折れた剣を杖に膝を折り、もう片方は地に伏してピクリともしない。赤い液体が地面へ流れ出て溜まっている。他には軽装な革鎧と粗末な木の盾、そして見窄らしい剣を備えた従者らしきものが六人。全員がへっぴり越しになっており、構えた剣も形だけなほどに戦意が失せてしまっている。今まさに奇妙な生き物に引きづられ出されようとしている、身なりの整った金髪のドレス少女が一人。その少女に手を伸ばそうとしている、少女ほどではないがこちらも身だしなみのしっかりした若い女性が一人。妙な杖を持っている。


「いやあ! 助けて、ロザリー! いやあ! こんなの……誰か、誰か助けて! 誰か……」

「ああ、お嬢様! く、蛮族め! お嬢様は、貴様らのような醜い蛮族が触れて良いお方ではないのだぞ! 今すぐその手を離せ、さもなくば……」


 そして一転して奇妙な存在はというと。二足歩行の人型で縦も横も人の1.5倍程度はある脂肪と筋肉の巨体、緑色の肌に丸太のような棍棒を手にしている。その頭部は豚のものを貼りつけたかのようなもの。そう、これはいわゆる[オーク]と言う生き物だ。

 こちらの数は四。一匹はまさに少女を馬車から引き摺り出そうとしているもの。残りの二匹は周囲の従者とまだ生きている騎士に目を向けていたが、どこか嘲るような表情でぐるりと人間たちを眺めている。一匹は顔に傷があり、革の粗末なベルトに吊るした刃こぼれしまくった大剣を備えていた。おそらくこの一団のリーダー格なのだろう。




 と言うのが一瞬前の状況。突如として、無警戒にも茂みをかき分けて出てきた"奇妙な男"に、全ての目が注意を奪われて動きを止めた。その男はまるでコンビニでも寄るかのような格好……そう、現代社会の場違いな格好で、場違いな動きでその場に姿を見せた。


「き、君は……誰だ……?」


 倒れかけの騎士が突如として現れた男に、困惑したように問うた。男はその騎士をちらりと見るだけで、その横を通り過ぎて、興味深げにオークを眺めている。馬車の方もちらりと覗いた。男は少女と目が合う。オークに掴まれた彼女はブルブルと震え、男に助けを求めた。


「だ、誰か知りませんが、私を助けてください」


 男はただ興味深げに眺めているだけだった。そして再びオークの方を見る。


『ブルッヒャ、ブヒャヒャ(なんだ? 伏兵?)』

『ブヒー、ブヒブルルブヒャ(いや、それにしては無警戒すぎる)』

『ブッヒャッヒャ、ブルッヒャッハー!(マヌケなんだろ、殺そう!)』


 周りを警戒していたオークの一匹が、男に襲いかかった。棍棒がその頭に迫る。少女が悲鳴を上げた。血が走る。続けて、男の断末魔が聞こえる。はずだった。その声はいつまでも聞こえなかった。

 沈黙、誰一人として、オーク一匹とて喋らなかった。どすりと棍棒が落ちた。根本から切断されている。武器を切られたオークは動かず、じっと男に顔を向ける。


『ブヒ?(おい?)』


 たまらず、別のオークが声を掛けた。それと同時に。


 ずるり、男に襲い掛かろうとしたオークの腕が、いや、足も、腰も、腹も、肩も、顔もずれていく。壊れたようにそれぞれのパーツが滑り落ちると、その断面から中の『具』があたりに散らばった。同時に残ったオークは二匹とも一斉に武器を構え、残りの一匹は少女をぐっと掴むと盾のように体の前に持ってくる。


『ブルッヒャ……ヒト、ジチ! ヒト、ジチ!』


 動けば少女の命は無いというつもりか、少女の頭に棍棒をこんこんとぶつける。少女は、ひっ、と悲鳴を上げた。だがそれは遅すぎた。オークは『動くな』と喋ろうとして、次の瞬間空に飛んでいることに気づいた。いや、首が飛ばされたのだった。噴水のように血が飛ぶ。


 そこで初めて、オークたちは目の前の男が只の人間では——否、人間ですらないことを理解した。その手は、まるでほつれた糸のように肉がねじれて筋肉が露出し、長い鞭となって襲いかかるのだ。何よりその鞭にはダイアウルフですら逃げ出すほどの鋭い爪が前衛芸術のように叢生している。


『ブルルル! ブヒャ、ブルー!ブルヒ、ブルヒー、ブル!(ブルルル! 同時攻撃だ! 左右で挟撃するぞ!)』


 顔に傷のあるリーダー格のオークが『人間の形をした正体不明』から視線を外さずに、残った手下に指を突き出して指示を出した。回り込むように、距離を保ったまま横に移動する。棍棒を握る手に力を込め、攻める機会を伺っている。だがいつまで経っても、部下から返事が返ってこない。それどころか草を踏む音、息遣い、部下の気配すらない。


 ちらりとリーダー格のオークは部下の方を見る。薙ぎ倒された茂みと、誰もいない空間だけがあった。そう、彼はとうに逃げ出していた。


『ブル……(逃げた……)』


 リーダー格のオークが呟く。オークの視界が暗くなる。何かに顔を掴まれたのだ。ギリギリと凄まじい力がオークの頭蓋を圧迫する。その力は人間を遥かに凌駕していた。リーダー格のオークは半狂乱に棍棒を振り回す。その棍棒は何度も何かを殴打した手応えを感じさせた。だが顔を掴む手は意に介さないとでもいうのか、力がまるで弱まる気配が無い。


 事実、オークの頭を掴んだ『男』は、何度も胴を強打されているが一層力を込めて握っていた。みしりと嫌な音を立てる。オークが身も毛もよだつような悲鳴をあげ、もう一度棍棒を振るった。それは男の頭に当たり、凹ませた。男の腕が揺れる。


 指の間のわずかな隙間からその光景を見たオークは、ついにやった、と安堵した。そして死んだ。


 男は凹み棍棒が食い込んだ顔のまま、さらに手に力を込めてオークの頭部を握りつぶしたのだ。かつて思考して、恐怖し、最後に安堵した器官が飛び散る。オークはまだ体は生きているまま、痙攣して崩れ落ちた。死んだのは襲ってきた魔物とはいえ、残虐すぎる目の前の光景に人間の少女や騎士、従者たちは血の気が引いた。


 男は食い込んだ棍棒を持って放り投げる。それに合わせて自然と凹んだ顔は何もなかったように元に戻った。そして周りを見渡した。この場で、生きているオークはもう居ない。一匹逃したがその気配は十分に感知できている。奇襲を考えている訳でもなく、どうやら本気で逃げ出したようだ。一目散に南へと走っている。振り返って、今助けた人間たちの方を見る。安全は確保された。そして口を開いた。


「危ないところでしたね、大丈夫でしたか?」


 躓いたところを心配するかのように、気軽に。その顔は返り血で汚れていた。少女と騎士、従者にお付きの女の誰一人として返事を返せず、警戒するようにじっと男を見ている。男は思った。疑われているのだろうかと。だがそれならまだ大丈夫だ。疑いのうちなら挽回できる。


「ああ、誤解しているようだ。君たちに危害を加えるつもりは無い。私は人間です。この体は特殊な——」


 少女が遮るように手を前に出した。


「いえ……信じます。むしろ、助けていただいたのにお礼も言わずにお見苦しいところをお見せしました。その……少々ショッキングな光景でしたので私やロザリー、あと従者たち皆言葉を失ってしまったのです。騎士のグラウも思い怪我で意識が朦朧としているようですし……あ、そうだ! ロザリー! グラウの手当てを!」


「あいよ!」


 騎士はどうやら棍棒で一撃喰らったようで、脇腹のあたりの鎧が大きく凹んでいる。おそらく骨も折られたのだろう。青い顔で苦しそうな息をしている。ロザリーと呼ばれたお付きの女性が駆け寄ると、『ヒール』と唱えた。淡い光が女性の手のひらに浮かんで騎士の脇腹あたりをさすった。すると騎士の顔に血の気が戻り、苦しそうな呼吸音もいくばくか和らいだ。


 なるほど、回復呪文とはこうなるのかと、男が興味深げにその光景を眺めて呟く。話や知識としては女神から得ていたが、実物を知るのが最も手っ取り早く確実と言える。ロザリーが騎士グラウの背中を叩いた。そしてもう片方の、死んでしまった騎士の方を見てグラウに語りかけた。


「さ、これで動けるはずだよ。まったく……。フィニーは……ここに埋めておこう。後でちゃんと連れ帰って、ちゃんとした墓に入れてやるためにも。 今は急がなくちゃいけないんだ……わかるね?」


「……う……あ、ああ……」


 グラウは呻くような返事をした。ロザリーが少女を見ると、少女も同意するように頷いて従者たちに指示を出した。


 少しして、死んだ騎士の体は埋められ、その上に石の小山が置かれた。ロザリーが『レムアトラ』と唱える。すると淡い光の柱が一瞬だけ立って、掻き消えた。


「あれは?」


 男が少女に問いかける。少女は少し怪訝な顔をして、男を見た。


「えっと……『座標記憶魔法』のことですか?」


「そう。いや、何でもないさ」


 少女の言葉と反応で、男は大体を理解した。すなわちどういう原理と使用法かはわからないものの、ああやって土かの地点を覚える魔法なのだろう。できれば色々詳しく聞きたいとその男は考えていたが、どうやらこの魔法は知っているのが当たり前のようだ。それなら『レムアトラ』という名前も知っている以上調べることは後からでも容易であり、今は少女たちの信頼感確保こそが最優先なのだろう。


「」

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