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03.『本当』

読む自己。

 なにも問題なく約1週間が経過した。

 ただ、接していて分かったことがある。

 それは、金井さんのガードが固いということだ。

 攻略しようとしているわけじゃないけど、お友達としてもあまり一緒にいてくれないのだ。

 そして、一緒にいてくれないということは、加藤さんに近づくための協力ができないということで。


「はぁ……」

「あははっ、おっきなタメ息だね~!」

「はい……だって金井さんが全然仲良くしてくれなくて……」

「凪ちゃんは京子ちゃんのことが好きなんだ?」

「そういうことじゃないですけど、どうせなら仲良くしたいなって」


 転勤族と言われる人たちほどではないけど、転勤で引っ越しは初めてというわけではない。

 その度に感じるのだ。仲良くしたところでどうせ引っ越すのにと。

 けれどだからってなにもしないということもできなくて、いっつも中途半端な気持ちで挑むことになっていた。

 そういう点から金井さんも避けている可能性もある。……でも、捨てられないんだよぁこれは。


「みなさんに優しいって聞きましたけど、コツってありますか?」

「凪、人に聞くならそんな表情はやめなさい」

「ひゃ、ひゃい……」

「ん~別に特にないけどね~名前で呼ぶとか~?」


 名前で呼ぶ、か。

 金井さんみたいな人は踏み込まれたら拒絶反応を示しそうだ。

 それに前の学校でそれをやったら……うん、嫌われたし。

 敬語はもう2度と同じような結果にならないようにと考えた自衛策で。


「やっぱりいいです、このまま平和なまま過ごしたいですから」

「それが1番だよね、私も同じこと思ってるよ~」

「はい」


 休み時間が終わって授業が始まる。

 レベルも特別違うというわけではないため、ついていけないということはなかった。

 板書して、先生の話を聞いて、窓際のため外を向いたりして時間をつぶす。

 うん? あれ、外にいる子が手を振ってる。振り返してみようと小さく振ったら、もっと大きく手を振られた。

 だからどんどん楽しくなってぶんぶん振ってたら、うん、先生に怒られてしまい周りの子に笑われてしまう。

 いけない、こういう目立ち方は良くない。

 気をつけつつ外に視線を向けると、今度はこちらをジッと眺めている女の子。

 め、目を逸らしにくい……けど、先生に怒られてしまうのでやめておいた。


「ふぅ……終わったぁ……」


 最後の授業も無事、少し無事に終わって鞄の中に教科書とかをしまっていく。


「あんたなにやってんの」

「あはは……手を振られたので……」


 気づいて無視はできない。

 無視される悲しさというのを私は知ってるから。


「木下、敬語はやめてよ」

「ごめんなさい、怖いので無理です」

「……あたしが信じるなとか言ったから?」

「違いますよ、これは私にとっての自衛策なんです」


 新しくできたお友達にも嫌われて、本当のところは転勤で嬉しかったんだ。

 みんな言ってた。私が調子に乗るところが嫌い、大して可愛くもないのにって。

 前の学校は男の子とも同じクラスだったので、普通に接しているだけだったのに『おかしい』判定をされた。

 いや、確かに調子に乗ってた。男の子を不機嫌にさせないよう言葉を選んでいたから。

 それが同性の子からすれば気に入らなかったのだろう。


「木下、なにかあっ――」

「やっほやっほー!! おー君はさっきの可愛い子ちゃんじゃーん!」


 あ、さっきの子だ。

 髪の毛は肩くらいまでで、色は水色。目の色も同じで、なんか綺麗だなと内心で呟く。


「おー? どうしたどうしたー?」

「あ……初めまして、木下凪です」

「知ってるよーん! 僕の名前は佐々木麗ささきうらら、よろしくねー!」


 知ってるって誰から聞いたんだろうか。


「麗、邪魔するなよ」

「あ、ごめーん! なになに? 大切な話?」

「いや……そうじゃないけどさ」

「ふむ、じゃあ帰ろっか!」


 これまたすごい人に出会ったのかもしれない。

 下駄箱で靴に履き替えて外に出ると、中途半端な気温が私を包んだ。

 学校から出て歩いて、ふたりが楽しそうにしているのを後ろから眺める。

 どうやら佐々木さんと金井さんは仲良しのようで。

 ……加藤さんとか彼女みたいに積極的な子なら好むのかもしれない。

 でも、いまより積極的になったら多分嫌われる。

 またあの思いを味わいたくない。

 だったらお友だち以下でも構わなかった。


「どうしたんだよ?」

「大丈夫ですよ、ですから佐々木さんといてあげてください」


 明るいみんなを見ていられるだけで落ち着ける。

 前はそれができなかった。周りで笑ってたら自分が笑われてるんじゃないかって恐れてた。

 いまは違う。関わっていないからというのもあるだろうけど、馬鹿にしてくる人は全くいないから。

 

「そうか」

「はい、大丈夫です」


 そこで一旦私たちの間から会話がなくなる。

 こういう静かなのも嫌いで、ギュッと手を握った。


「木下ちゃん! 京子ちゃんはあんまり素直じゃないけど、優しい子だから甘えちゃっていいんだぞー? こんな風に、ぎゃぴっ!? ……あはは、今日は不機嫌なようだからやめておいた方がいいかなー」

「優しい子だとは分かっていますよ、本当にいつも声をかけてくれてありがたいですから」


 あのような状態に金井さんや加藤さんがなってしまったら……。


「あ、残念だけど僕はこっちだからばいばい!」

「はい、さようなら」


 賑やかな佐々木さんが去って沈黙に包まれる。


「麗はうるさいよね」

「いえ、ああいう子は好きですよ」

「……あんた、なんでそんな手を握ってんの?」

「無意識な癖ですかね、殴りたいとかじゃないですから安心してください」


 腕を掴んで無理やり緊張をほぐす。


「あはは、気を悪くしたならすみません」

「……なんかあったの?」

「ないですよ、特別なことなんて」


 ごく自然な流れと結果になっただけだ。

 そういう態度を取られてからやっと振り返って自分の愚に気づいた。

 だから今度は絶対に失敗してやらないぞ。


「1週間経っても敬語を使うのなんてあんたくらいだぞ」

「ふふ、そういう人もいるってことでいいじゃないですか」

「嘘だね、あんたはなにかを隠してる、違う?」

「人間は隠し事のひとつやふたつあった方が魅力的――いいじゃないですか、迷惑をかけてないんですから」


 怖い顔しないで……。

 はっきり言ってくれるのを望んでるけど、やっぱり怖い。


「こーら! また凪ちゃんを困らせないのー!」

「あ……翆……悪い、木下のこと頼むよ。それじゃあ」


 彼女は俯いたまま帰ってしまった。


「凪ちゃん、大丈夫?」

「はい。でも……金井さんを困らせてしまいました」

「ふぅ、やれやれ、どうしてあなたはそんなにすぐマイナス思考をするの?」

「マイナスというか……元からこういうのといいますか……」

「そういう子のところには誰だって来づらいわよ。麗ちゃんみたいにどんどん行ける子たちばかりではないのよ?」

「すみません……」


 金井さんや加藤さんも私がこんな感じだと来づらいんだろうか?


「でも、おふたりがいてくれればそれで……」

「残念だけど、私たちには他にもお友だちがいるの。だから、あなたにばかり構っている時間はないのよ」

「……た、たまに気にかけてくれればいいだけですから」

「少なくともそんなマイナスな考え方をする子のところには行きたくないわね」

「あ……そうですか、分かりました。あ、こっちなので、それでは」


 うん、嫌われてないのならそれでもいい。

 空気になりすぎず忘れられないなら十分だ。

 笑われるのだけが1番嫌なこと。

 こうしてはっきり直接突きつけてくれるのは嬉しい。

 前は一応いたお友だち経由で陰口を知ったから。

 それで実はその子も言ってたことを後に知ったから。


「ただいま……」

「おかえりっ。あれ、元気ないね?」

「うん? ううん、大丈夫だよ。お菓子ある?」

「あるよ~チップスとお煎餅どっちがいい?」

「チップスかなあ、ボリボリ食べてちょっと休むね」

「分かった! 用意するね!」


 ソファにもきちっと座って、他人が不快に思うかもしれないところを直していく。

 大丈夫、妥協して上手くやっていこう。

近づいて来て「来たくない」とか言う子いるのかね。

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