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01.『転校』

「凪ー行くよー」

「うぅ……だってぇ、この家とお別れ嫌だよぉ……」

「仕方ないでしょ、お父さんが転勤なんだから」


 私、木下凪きのしたなぎは柱に抱きつくのをやめて車に乗り込む。

 どうせ引っ越しで他県に行かなければならないなら、高校開始前からそうなってほしかった。

 どうして絶妙に微妙な5月の中盤にそんなことをしなければならないんだろう。

 新しくできたお友達だっていたのにぃ……。

 ただ――


「えっ、めっちゃ家広い! あの家よりよっぽどいいじゃん!」


 家に着いて速攻で意見を変えた。

 大きなリビング。洗面所及びお風呂場。そしてお部屋。

 トイレなんか1階と2階で別々にあるし、なにより自分の部屋があるのは最高だ!


「引っ越して良かったー!」

「げ、現金ね……」


 なんて喜べたのは家についてだけだった。


「は、はじ、初めまして……き、木下凪です……」


 その翌週から新しい高校に通うことなったんだけど……。

 みんなの視線が辛いっ、突き刺さるぅっ。

 いや、正直に言えば誰も興味を抱いていなかった。

 ふぅん、転校生が来たんだぁ、くらいにしか思われていなかった。

 だから席に座っていても群がることなんて1度もなく、とにかく突っ伏して時間を潰した。

 それでもお腹は減るものでお昼休みにお母さんが作ってくれたお弁当を食べていたとき。


「やっほー木下さん!」


 可愛い女の子が近づいて来て慌てた私は、大好物である卵焼きを床に落としてしまった。

 それを慌てて拾いつつ、「は、初めまして……木下凪です……」と挨拶をする。

 挨拶は重要だ。これと敬語を組み合わせれば敵を作ることは一切ない!


「あははっ、面白いね! 私の名前はねー木下凪ー」

「それ私のじゃん! あ……私のですよね?」

「ごめんごめん! 私の名前は加藤翆かとうすい、よろしくねー!」

「よ、よろしくお願いします」


 話が終わりだと思って食べるのを再開しようとしたら……。


「あいつうるさ……」

「だよね、善人アピールなんじゃない?」

「友達を作りたいから転校生を求めてるんでしょ」


 と、聞こえてきて。

 私が加藤さんの方を見ると彼女は苦笑を浮かべていた。


「ここだけの話ね、私は嫌われてるんだ~」

「なんで……」

「なんでだろうね、特にないんじゃないかな」


 髪の毛だってピンク色でふわふわしてて可愛らしいのに。

 瞳だって大きく丸っこくて優しい感じで好きになったのに。

 む、胸だって大きい……身長だって私より大きくてスタイルもいいのに。

 前の高校だっていいことばかりではなかったけど、こんな堂々と悪口を言う人は存在していなかった。

 それがたまらなく許せなくて、その人たちの所に言って私は叫んだ。


「か、加藤さんは魅力的ですよ!」


 と。

 文句を言われることは分かっていた。

 そりゃ来たばっかりの人間にこんなこと言われたらむかつきもする。

 けれど後悔はしていない。

 せっかく話しかけてくれた女の子を悪く言われて許せるわけがない。

 

「は? そんなんあんたに言われなくても知ってるんですけど」

「だよね~あの胸とかマジヤバイって感じだし」

「あれで全員に優しいんだからね、ヤバイよね」

「あの……悪口を言っていたわけじゃ……」

「はぁ? それは……翆が違う子に近づくのが嫌なだけですけど~」


 えぇ……しかも加藤さんだって似たように驚いてるし……。


「あんたなんかに翆はやらないからね」

「そうそう、新参者は黙って見ておけばいいの」

「ちょっと翆が優しくするとこうやってすぐに勘違いしちゃうんだよね」


 ……なんだこれ、違う意味でやりづらかった。

 ま、みんなが加藤さんのことを好きなら別にいいか!


「よ、余計なことしてごめんなさい……」

「ううんっ、すっごい嬉しかったよ!」

「あ……あの抱きついたりするとみなさんの視線が……」


 朝はあれだけ興味なさそうだったのに、いまはマジでグサグサと突き刺してきている。


「ねっ、凪ちゃんって呼んでいいっ?」

「はい、大丈夫です……はっ!? できれば教室とかではやめていただけると……」

「なんでさ!」

「いや、だっていまだって……」

「翆、ちょっとこいつ借りてくねー」


 天然なのかもしれない。

 無意識にああいうことをして周りを虜にする魅力的なモンスター。


「おい、いい度胸だな木下っ」

「ご、ごご、誤解なんですぅ……」

「はぁ……まあいいけど。それよりあんた、本当に中途半端な時期に来たね、なにかあったの?」

「はい、お父さんが転勤になってしまいまして……○○県から来ました」

「えっ? めっちゃ遠いじゃん……ふぅん、あんたも苦労してんだね」


 な、なんか生暖かい視線を向けられている。

 それはまるで頑張ってる小学生を見るような感じで……。


「あたしの名前は金井京子かねいきょうこ、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「それと、あんまり翆にベタベタするんじゃねえぞ!」

「し、しませんよ……」


 ところで、髪色は黒で長く伸ばしてるんだけどボサボサというか全く手入れしていないというか。

 なんかクシで梳きたくなる! そうすれば格好良くなる、綺麗になるかもしれない。


「加藤さん、クシって持ってないですか?」

「あるよー? えっと……んと、あった! はい!」

「ありがとうございます! 金井さん席に座ってください!」


 彼女は大人しく座ってくれたので梳いていく。


「ひ、引っかかりますねぇ……」

「ちょ……やめてよ……」

「綺麗にすれば格好良くなると思うんですよ。いや、これもまた味があるというかいい雰囲気なんですけど、髪の毛を綺麗にすればそのまま金井さんが綺麗になるんじゃないかと考えまして」

「やめぇ……」


 そして完成し前から見てみると――


「うん、すごくいいですね! これからは毎日きちんとしてくださいね! そうすれば加藤さんだって振り向いてくれますからっ」


 やっぱり格好良いより綺麗だった。

 可愛いとか綺麗が揃っててこのクラスはレベルが高い。


「ちんちくりんのくせにむかつくぅ!」


 おぅぇ……確かに背は低いし出るところも出てないし、彼女が言いたい気持ちはよく分かるけど。


「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ……うぅ……」


 涙がだばぁと流れて私は膝から崩れ落ちる。

 正論はときに攻撃性を伴うことを金井さんは知った方がいい。

 

「京子ちゃんっ、だめだよそんなこと言っちゃあ!」

「うっ……わ、悪かったよ木下」

「こ、こちらこそごめんなさい……」


 けれど私は初日からいきなりいいことをふたつもしてしまったようだ。

 可愛い加藤さんが気持ちのいい笑顔を浮かべてるし、金井さんは素直に近づけて嬉しいだろう。


「ふふ、私のおかげですね~」

「あ? おい、調子に乗るなよ?」

「あ、はい……」


 大丈夫、なんとかやっていけそうだ。




「ただいまー」

「おかえりー学校どうだったー?」

「うん、多分大丈夫!」


 リビングのソファにダイブして寝転んだ。


「凪、パンツ見えてる」

「別にここには私とお母さんしかいないんだしさ~」

「はぁ……こんなんで恋愛ができるのかしら」

「男の子は怖いから無理~」

「じゃあ女の子?」

「そうだね~それしかないね~」


 加藤さんは可愛いし付き合ったらなんか甘々な感じで接してくれそう。

 金井さんはぶっきらぼうな言い方をしてくるけど、なんだかんだいって甘えさせてくれそうだし。

 まだあのふたりとしかお話ししてないし、魅力的な人はたくさんいそうだ。


「じゃあ凪、今週の土曜日までに誰か連れてきてね」

「えっ!? そ、そんな無茶な……」

「誘う練習っ、女の子を攻略しようとするなら積極的にいかないとね!」

「えぇ……」


 多分どっちを誘ってもどっちかが怒ると思うんだ。

 あれでいて加藤さんも金井さんのことを気に入ってるだろうし……。

 ……頑張ろう。連れて行かないとご飯抜きとか当たり前にしてくるから!

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