00話
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誰かが歩いてくる音で目覚め、上半身だけ起こし眠気まなこをこすると、正面から近づいてきた者の足が見え、見上げるとおじいさんがいた
「目が覚めたかね? 崇雄君や」
(えっとー 誰だこの人?)
初対面のはずなのに、自分の名前を呼ばれ、怪しむ
「そのとおり、初対面ですよ」
と、笑顔で答えるおじいさん
きっといい人なんだろうと、感じさせてくる爽やで穏やかな笑顔
執事服じゃなく、スーツを着ているが、雰囲気は優秀な執事そのものである
心を読まれたのに、気付かずスルー
「それで、なにか御用ですか?」
一応、来た理由を聞く
「私、野区所の者ですが手続きの件で参りました」
若干、棒読みのような気がしたが、話しが進まないので、スルーした
「役所の人?
何の手続きです?」
「改めまして、私こうゆう者です」
と、名刺を差し出すおじいさん
それを受け取り視線を落とす
日本 福岡地 野区所 水先案内課
とだけ、書かれていた
(野区所?役所じゃなくて?
しかも、水先案内って…
………ヤな予感)
周りを見ると見たことがある景色が広がるが、どこか夢のような気分で、意外にも冷静であった
「ここどこですかね?
夢ですか?
それとも、幻覚?
…………もしかして、死んじゃいました?」
「はい、死にましたね」
冗談のように軽いノリで聞いたが、さらりと即答するおじいさん
「いやいや、あまりにもあっけらかんと言うから、一瞬信じたじゃないですかー」
笑うように、あははご冗談をと、受け流す
「本当に死にましたよ
死んでここに来たのですよ」
ずっと真顔のおじいさんにビビる崇雄
「ここは天界
いわゆるあの世です」
「………あの世かぁ」
「おや?
受け入れるんですね」
「この景色、死神が主人公のアニメで見た寂しい荒野にそっくりだし、風も無ければ、臭いもないし、この世じゃない感じがする」
目の前に広がる大地は、ホントに死んだのではないか?と思えてくる
「ところで、あなたのお名前は?」
「理解が早くて助かります
私に名前はありませんので」
と、微笑みを浮かべる
「そうなんですね、わかりました」
(言えない感じなのかな?)
真顔に戻るおじいさん
「では、順を追ってご説明します
まずあなたは、先程もお伝えした通り、不慮の事故により死にました」
「事故ってどんなのですか?」
「その事故はこちらの些細なミスが原因です」
「なんてテンプレな……」
「詳細は規則によりお伝えできませんが、ミスをした本人の上司から謝罪の時間を、と言って来ていますが?」
「あーはい、いいですよ」
テキトーな返事をするが、今さら謝られてもと、ふてくされる
(って、上司かい
本人とかじゃないのか)
「ありがとうございます
伝えておきます」
軽い会釈をする
「ここは野外地区といいまして、理から外れてしまった魂たちが流れ着く場所です」
「えっ?マジで?理から外れたってことは輪廻の輪から外れたっこと?このまま消滅する感じ?」
「詳しいですね
ほぼほぼ、その通りです」
「マジか
なんて、嬉しくない正解……」
(さらにテンプレが増した)
「では、話す内容はご理解していただいたようなので、あなたに謝罪したい者に会いに行きましょうか?」
「そうですね」
(事故の事とかわかりそうだし、テンプレに進むかも)
ついつい、ニヤついてしまう
アニメで見た荒野を5分ほど歩くと建物が見えてきた
さらに15分歩いて、建物の前に到着
「崇雄くん連れてきましたよ」
と、中にいるであろう人物に声を掛けながら、中に入っていく
「失礼しまーす」
素直に着いていく
(日本のあの世だから、和風建築なのかな?
田舎のような、じいちゃんばあちゃんの家のように和むこの空気感・雰囲気)
ほっこりし過ぎな崇雄
玄関入ってすぐにある部屋に入っていくおじいさん
それを見て緊張する崇雄
中に入ると、着物を男性が手本のような土下座をしていた
「ほんっっっっとに申し訳ないっ!!!」
予想外の大声で、崇雄はビクッとなる
(声デカッ!びびったー)
「すまない」
ビクッとなったのがわかったのか、声量が下がっていた
「顔を上げてください
自分より年上の土下座は見たくないですし、見られることはないでしょうけど、見栄えがものすごく悪いので…」
(明らかに年上の人?が年下に土下座しているのは、なんとも……)
「そうか?
では、お言葉に甘えて」
よっこらしょと座る男性
「私の名は、高木神
ここの管理をしておる者の1人じゃ」
「たっ、たっ、高木神っ!?
ってことは、高御産巣日神っ!?
いきなり天津神のトップ!?」
「詳しいのー
そういえばお主、神話とか好きじゃったな」
「まあほどほどにですが」
(まさか、本人、いや本神?に会うことになるとは)
「えーっと、自分の死因は教えていただけるので?」
「よいよい、普通に話せ
敬語を使ってくれるのは嬉しいが、きごちない」
ニカッと笑う高木神
「すんません
あはは」
笑ってごまかす
「君の死因だったな
詳しく話せないが、簡単に例えて言うと、ボタンのかけ違いをして、それを戻す時に慌ててしまったようで、確認を怠って君の存在に気付かず、死なせてしまったようじゃ」
「テンプレかぁー」
笑ってしまう崇雄
「もしかして、異世界に行ったりします?」
「よくわかったの
ああ、現世ではそうゆう物語が流行していたな
数名読んどる神がいたな」
「そうですかっ!
よかったっーー!
消滅しなくてすむ!」
(マジで助かった!)
「うむ、喜んでもらえたようで安心じゃ
異世界に行く際に、贈り物を渡そう」
「キターーーー!!」
大喜びのあまり、ガッツポーズ付き
「なにを望む?」
「では、母の両目を見えるようにしてください」
「ほう
自分ではなく、お主の母か」
「はい、5年ほど前から病気で両目が見えなくなりましたので、完治させて欲しいです
でないと、母1人なので
あっあと、できれば離婚して会わなくなった兄に、母のとこに行くように仕向けて欲しいですね」
「ふむ、よかろう
寿命を変えるわけじゃないし、母の事も心配じゃろうて」
「ありがとうございます!」
(よし!これでもし再会しても先に死んだ事を怒られずに済むっ!!
会ったりしたら、何を言われるやら)
一見、母思いの望みだったのに、一転して自分の保身であった
「んー、やはり自分の望みも言うといい
お主が行く世界は、命が軽く死に目に合うことも多い
謝罪のために、別の世界で生き返らせるのに、すぐに死んでしまっては、我らも心苦しからの」
「えっいいんですか?」
「構わん
死者たちと話すこともないしの
それに、お主は何かとおもしろい」
(何がおもしろいんだろうか……
もしかして、心の声が聞こえるのかも……
こう言ってくれてるし、まあいいか)
「えっえと、じゃじゃあ、お言葉に甘えて」
恐る恐る答える崇雄
「最強レベルがいいですね
せっかく異世界モノを体験できるのに、早死にしたくないですし」
「最強か
その世界には、謂わゆる魔力と呼ばれるエネルギーがある
ゆえに、その魔力の影響で魔物や魔獣と呼ばれる生態系ができておる
魔法とゆう技術もある」
「おお〜
まさに異世界モノ!
では、最強レベルの魔法と魔力、体術や武器を操る技術、運動能力の底上げなど、どれかをお願いします」
「ふむ、では魔法と魔力を贈ろう」
「ありがとうございます!」
(これだけでも、生きていられるな)
「よいよい
こちらが原因じゃ
気にすることはない」
「それでも、ありがとうございます!」
(なにせ、異世界転移できるのだっ!!)
心の中では、ウハウハである
「嬉しそうじゃのー
もう行くか?」
「そうですね
ほかに何もないのであれば」
(そういえば、連れて来てくれたおじいさん、いつの間にかいないな)
「よろしい
では、行くがよい」
高木神が右手を上げると、崇雄の足元が光り、そのまま包まれていく
「では、崇雄くん
達者でな」
「はい!
異世界や能力、母の事ありがとうございました」
光りに包まれ、消えていった
崇雄がいなくなると、どこからともなく、現れるおじいさん
「我が主人よ
よかったのですか?
言った望みを全て与えたりして」
「よかろう
あの世界は、この星がいくつもの枝別れして生まれた内の1つ
文明の進化も止まってしまった」
「しかし、何をしでかすかわかりませんよ?」
「大丈夫だと思うがの
口から出る言葉も心の声も、素直なもんじゃ
心の中では保身に走っていたが、奥底では母の事を心配していた
無駄に虐殺など悪い事はせんよ
良くも悪くも現代の子じゃ」
「まあ私も同意見ですが」
「できるだけ長く生きてもらって、死んだら母に会わせてみるかの?」
「それはまた酷な事を……
ですが、私も同席させていただきます
………執事服を着た方がいいですかね?」
「また会った時も、同じように思っていたら、着てみるといい」
「そうします」
「そろそろ休んでいいぞ
偶然、自分の孫の担当になるとはの
あの世も狭いもんじゃ」
ハッハハハと豪快に笑う高木神
「そうゆう事にしておきましょう
それでは、失礼します」
と、会釈をすると身体が薄れていき消えていった
宙を舞い畳の上に落ちる人の形をした紙切れ
「まったく、一言余計じゃ
式移しの従者達は、付き合うのもおもしろい」
と、式神に使われた紙を見る
辛辣なコメントは控えていただくとありがたいです
作者の心は弱いです
ぜひ、優しい言葉でお願いします(^^)