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天使業、代行します!  作者: 秋木水希
第1章
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第2話 天界から来た天使様!?

 すっかり日が暮れた放課後の天文部部室。星野紘は、たった今目の前で起きた出来事を現実と受け止めきれずに動けないでいた。

 なぜなら、


「天使の羽が生えた・・・女の子?」


 部活を終え戸締まりをしていた紘の眼前に、天使のような金髪美少女が突然現れたからだった。

 天使のように可愛いという意味ではない。どこの学校のものかは分からない制服の上に、本当に背中から白い羽が生えているのだ。


「・・・疲れてるのかしら、俺」


 文明が発達し、幽霊だとか神様だとかいうものが迷信だという考えが一般になった現代において、星野紘という男もその例外ではない。

 きっと自分は疲れているのだろう。

 先週から通学路の激坂でジェットコースターと化したブレーキ故障自転車に乗ったり、異世界転生トラックに轢かれそうになったりと散々な目に遭い、先程まで先輩とファンタジーな話題をしていたおかげで知らない間に想像力が刺激されてしまっていたらしい。


「よし、帰ろう。早く帰って妹の作った美味しいご飯を食べて汗を流し布団に入る。これで解決だ」


 疲れを癒すため、紘は途中まで進めていた帰り支度を再開し鞄を持ってドアに手をかける。


「お疲れ様でしたー」

「無視は酷くない!?」


 どうやら幻覚じゃなかったみたいです。

 帰宅をキメる一部始終を眺めていた見た目天使のコスプレ少女が話しかけてきました。面倒な予感しかしない。

 さすがに無視して帰ろうとしたのは悪いと思ったので声をかける。


「で、どうして君は天使のコスプレをして机の上に立ってるのかな」

「コスプレじゃないんですけど・・・」

「じゃあ何?この科学が発展した時代に本物の天使様ですとでも言うんですか不法侵入者さん?」

「辛辣!?そう言われて仕方ないんだけどなんかなあ」

「もう完全下校時刻も近いし、君うちの生徒じゃないみたいだから早く帰ったほうがいいよ」

「あ、はい。ってそうじゃなくて!とりあえず話を聞いてほしいの!」


 まだ何かあるのだろうか。正直、このコスプレ少女は見た目すごく可愛いと思うし衣装もかなり似合っているとは思うのだが、それよりも今は疲れた身体を労りたい気持ちが強い。頭のおかしい残念美少女に付き合う元気はないのだ。なので用があるのならさっさとしてほしい。というかなぜ彼女はここにいるのだろう?


「とりあえず話は聞くから、外に出よう。着替えは?見た感じ手ぶらみたいだけど」

「それは大丈夫。私の姿はあなたにしか見えないようになってるから」


 謎設定を出してきた自称天使だったが、見られて恥ずかしいのは彼女の方なのでまあいいか、と思い学校を出た。



************************************************************

「で、俺になんの用なわけ?」


 部室を後にして校門を出た紘と謎の自称天使は、家への帰り道を歩いていた。


「そうだね、まずは自己紹介をしようかな。私はフルル。天界からやって来た天使で、あなたの命を守りに来ました」

「いきなり訳が分からないんだけど」


 自己紹介をした金髪美少女の話はいきなりぶっ飛んでいた。

 明らかに日本人じゃなさそうな名前もそうだし、天使なんて存在、信じられる訳がない。

 しかし・・・


「今、俺の命を守りに来たとか言ったよな?」


 目の前の少女は確かにそう言った。真偽の程はさておき、そこは気になる。実際、最近はあまり良くないことが続いていた。先輩にも心配をかけているし、話は聞いておいて損はないかもしれない。


「うん。私は星野紘君、あなたの命を守りに来ました。本来の仕事は亡くなった人の魂をお迎えに来る事なんだけど、今回はちょっと事情が複雑なの」


 話を聞くに、この子は天国からやって来た天使であり、その仕事は亡くなった人の魂を迎えに来ること。空想上の天使がそういう役割を持っていることは○ンダースの犬などを見たことのある紘も知っている。

 しかし気になることが1つ。


「俺はまだ死んでないぞ?確かに死にかけるような経験はしたけど」

「そこが重要なんだよね」

「と、いいますと?」

「昨日の夜、君がトラックに轢かれそうになったのも、その前に自転車のブレーキがきかなくなったのも、仕組まれた事件だったの」

「は!?」


 驚愕の事実が発覚した。ここ最近の自分を酷い目に遭わせていたのは運命のイタズラなどではなく、人為的なものだったということらしい。

 そして、初対面のはずの彼女が紘についてやたら詳しいことから、どうやら彼女は本当に天使なのかもしれないことがわかってきた。


「だ、誰なんだそいつは!?自分で言うのもあれだけど、人から恨まれるようなことは絶対にしないように生きてきたつもりだし心当たりもないんだが・・・」

「そういうわけではないから安心して。ここ最近の君の生活を観察させてもらってたけど、どこにでもいるようなへたれ高校生でしかなかったから。えっちな本の隠し場所はもう少し考えた方がいいかなって思います」

「へたれとか言うなよ!?っていうかそこまでバレてんの!?」


 面と向かって言われるとちょっとへこむ。というか日常生活を観察されていたのは少しというか、かなり恥ずかしい。


「巨乳のナースが一番好きなんだよね?」

「もうやめてぇ!」


 しかたないじゃない、男の子なんだもの。巨乳は全ての男の夢である。

 プライベートが丸裸にされていた事実にさらにへこむ。よりにもよってこんな可愛い女子に。恥ずかしくてもうお嫁に行けない。間違えた、婿だった。


「話を戻すけど、今君の命を狙っているのはね、天使なの」

「なんで天使が俺を殺そうとしてるんだよ・・・」


 今すぐ穴があったら入りたい気分だが、そうも言っていられないので仕方なく応答する。

 天国の事情が大きく関係してるんだけどね・・・といって金髪少女は話を続ける。


「私たちがいる天国は、亡くなった人の魂が集まってみんなが死後の生活を幸せに暮らしている楽園のような場所。欲しいものは何でも手に入るし、基本的には何の拘束もない自由なところなの。でも、その天国に魂を迎え入れる天使っていう仕事だけは必要なわけだけど、わざわざ天国に来てまで仕事をしたいお人好しは少ないから、天国の一番偉い神様が1つ決まりを作ったの」

「どんな決まりだよ?」

「天使としての役割を果たし、多くの魂を天国へ迎えたと認められた天使は、神様の力で1つだけ願いを叶えて貰えるっていう決まり」

「まあ、ご褒美の1つでもないとやってられないからな」

「人手不足解消のための苦肉の策なんだけどね」

「で、それがどうして俺の命がどうのって話につながるんだ?」


 今の話が本当かはさておき、紘はまだ高校生で、死後の世界などしばらく縁のない話だと思うのだが。


「その願いを叶えるために、本来死ぬ予定じゃない人の魂を狙う悪い天使が居るんだよ。残念なことに」

「?」

「天国では、これから亡くなる人たちの情報が集められてて、実際に亡くなった時に手の空いてる天使が魂を迎えに行くことになってるけど、そうすると迎えた魂の数は必然的に年功序列で増えていくわけ」

「まあ、誰かが際立って優秀とはならないだろうな」

「神様は長く働いてくれたご褒美として願いを叶えるわけだから、それでいいはずなんだけどね。中には早く数を稼ぎたくてこっそり自分で人を殺そうとする天使が居るんだよ。天国に迎える時点で性格に問題がないかはある程度見てるんだけど充分とは言えなくて」


 つまり、情報を整理するとこういうことだ。

 星野紘は、神様に早く願いを叶えてもらうためにルール違反を犯してポイント稼ぎしている悪い天使に命を狙われている。


「俺1つたりとも悪くない!?」


 思わず叫んでしまった。

 そんな身勝手な理由で命を狙われているとは思わなかった。


「俺はどうしたらいいんだ?えーと、フルルとか言ったっけ?」

「うん。だから私が来たの。紘君を死なせないために、ね」


 目の前の少女が力こぶを作って見せてくる。

 辻褄が合ってしまう以上、彼女の話を信じるしかあるまい。

 昨日トラックに轢かれなかったのも、フルルが直前で進行方向をずらしてくれたからだったらしい。

 知らなかったとはいえ、命の恩人に対して先刻まで酷い態度で接していた自分が恥ずかしくなってきた。


「なんか、ごめん。天使がどうとか、未だに半信半疑だけど、そう言われると納得のいくことばかりだし、お前を頼るしかないみたいだ」

「いいよ。いきなり言われて信じられる人なんて殆どいないと思う。わたしも・・・」

「わたしも?」

「ううん、なんでもない・・・」


 そう言ったときの彼女の横顔はどこか遠くを見ているようだったが、あえて触れないでいようと思った。


************************************************************

 翌日、紘は教室の窓側の席でうたた寝をしていた。

 時刻は午前12時10分。今は4時限目の古典の時間である。黒板の前では、国語教師の大内先生が源氏物語の解説をしている。

 昨日は大変だった。天使のフルルに自分の命を守ってくれと改めてお願いした後、当然彼女はうちに住み込みになるわけで。2人で帰宅(とはいっても1人は紘にしか見えないわけだけど)した際には時刻は20時を回っていたため、夕飯を準備して待っていた妹はご機嫌斜めだった。

 コンビニのプリンで手を打ったのだが、天使もお腹は空くらしくこっそり夕飯の残りを自室に連れ込んだフルルに持って行こうとしたところを妹に目撃されて不審がられた。

 一応確認したけど、本当にフルルのことは見えていないみたいだった。

 しまいにはフルルが紘の部屋で寝るしかないため、すぐ横に同い年くらいの美少女が寝ている状況に緊張して寝られなかった。今の紘は絶賛寝不足中だ。

 ちなみにフルルは学校探検をしているらしい。悪い天使もさすがに人目が多いところで手を出してきたりはしないらしい。


 ようやくチャイムが鳴り、午前の授業の終わりを告げた。

 身体を動かす気力が湧かず机に突っ伏していると、弁当箱の包みを持った女子が近づいて話しかけてきた。


「どうしたの星野、今日は朝からやけにやつれてるじゃん」

「・・・東西か」


 ただでさえ短いうちの制服のスカートをさらに短くして着こなすクラスメート。彼女の名前は東西香穂。

 肩まで伸びる黒髪をツインテールにした彼女は、紘の数少ない会話ができる女子だ。


「お昼一緒に食べようよ。って、あんた今日は弁当持ってきてないの?」

「昨日色々あって妹を怒らせてしまったので弁当作ってもらえませんでした」

「珍しいね、あんたら相思相愛のブラコンシスコンなのに。よっぽど怒らせるようなことでもしたんでしょ?いくら仲が良くてものぞきとかはだめよ?」

「べつに覗いたりしたわけじゃ・・・」

「ま、どれだけ仲が良くても喧嘩くらいするしね。・・・そういえば購買行かなくていいの?既に地獄絵図だと思うけど」

「あ・・・」


 失念していた。昼になると購買には人が殺到する。腹を空かせたラグビー部や野球部のむさ苦しい連中がパンを取り合っている中に割り込んで昼食を確保する元気は今の紘にはない。


「仕方ないから今日は昼飯抜きだな・・・」


 もはや午後の授業を乗り切れる気がしないが、どうしようもないので溜息をついた。

 すると


「なんなら、あたしのお弁当少しあげよっか?」


 目の前の女神様からお言葉をくださった。


「でも、いいのか?東西もお腹空くじゃん」

「最近ダイエット中なんだけど、ママに言っても量減らしてくれないのよ。ちゃんと食べなさい!って」

「いいお母さんじゃん。うちなんか両親共働きだから、家のことは全部俺と妹に丸投げだし。最後に弁当作ってくれたのもいつだったか・・・」

「あたしは逆にその自由さが羨ましいけど・・・。まあ、そんなわけだから食べてよ」

「本当にくれるならありがたく頂くよ。ありがとう。でも、ちゃんと食べないと成長しないぞ?・・・胸とか」

「うっさい!どこ見て言ってんのよ変態!あたしは着痩せするタイプなの!」


 一言余計だったようで怒らせてしまった。

 本人は胸が無いことを気にしているが、彼女は紘の目から見てもかなり可愛いし、人当たりも悪くないから男子からの人気もあったりする。胸さえあればなお良いが。身を寄せて胸を隠そうとしてる姿も可愛い。


 その後、香穂と世間話をしながら恵んでいただいたお弁当を完食して次の授業の準備をしていると、ズボンの後ろポケットに入れていたスマホが短く震えた。

 画面には燈先輩からのメールが表示されていた。

 その内容は、今日も部室を開けるので部活はありますという連絡だった。

 天文部の活動は毎日あるわけではなく、なんとなく部室で本を読みたい人や家に帰りたくない人がいた際に鍵を職員室から屋上の鍵を借りてくる仕組みになっている。

 紘達が通う私立館山高校では、生徒は必ず1つの部活に所属しなければいけない決まりとなっているため、自由参加で実質帰宅部と化した天文部には幽霊部員が多く存在しているのだが、実際に活動をしているのは紘や燈ら少数といったところである。

 紘としては、今の状況で充分充実しているので別に何を変えようという気も無いのだった。


************************************************************

 放課後。部活動に向かう人達が席を立つ中、紘もゆっくりと立ち上がる。

 天文部に向かう前に自販機で飲み物を買っていくのが紘のルーティンだ。フルルとも、放課後になったらそこで落ち合うように約束している。

 2年生の教室がある3階から自販機のある1階に降りると、既にフルルが壁に背中を預けて待っていた。

 こうしてみると彼女は本当に美少女といった感じで、日本人とは違う青い瞳はより彼女の魅力を引き立てているようだった。


「お待たせ。学校探検は楽しかったか?」


 ぼーっと天井を見上げていた天使に声をかける。天使にも学校とかあるのだろうか?ちょっと気になったりもしたがあえて口には出さなかった。


「あ、紘君。学校お疲れ様でした。今日は部活ある?」

「ああ、先輩からメールでありますって来てた。フルルはどうする?部活終わるの夕方だけど」

「私も付いてく。放課後になって人も少なくなるから、警戒した方がいいと思う」

「了解」


 自販機でイチゴミルクを購入して部室棟の階段を上っていく。

 さっき職員室で確認したら部室の鍵は既に貸し出されていたので、燈は先に部室へ向かったらしかった。



 数分後、紘とフルルは部室のドアの前で立ち尽くしていた。

 彼らの眼前には、床に倒れて意識を失った燈と―――――大きく広げた羽を羽ばたかせて屋上に着地する天使の姿があった。


こんにちは!秋木水希です!

今回は筆が乗ったのと物語の流れを考えて分量多めでしたが、いかがでしたでしょうか?

次もよろしくお願いします!

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