8 彼の本性
前世の私、彼氏いない歴=年齢。
今世の私、元婚約者との進展一切無し。
全く持って生粋のウブ女。
呆気なく奪われた私の初めて。
別にロマンチックとか夢見てたわけでは無いけど、無いんだけど…
初めては、好きな人と両想いで
なんて、淡い夢を見ていたのは事実。
「私の…ふぁーすと…きす…」
そう呟いて、朦朧としていた意識がハッキリする。
そういえば、私…ディオン様にキスされ…!?
一気に記憶が流れ込んでパチリと目を開け慌てて起き上がる。
ゴツンっ
「いうっ…たぁ~」
勢い良く起き上がったせいで額を何かにぶつけた。
ぶつけた反動で起こした身体は再び後方に倒れる。
あまりの痛さに涙目で額を抑える。
「…………っ。(怒)」
痛さに耐えつつ薄らと目を開けると、顎を抑えて負のオーラを纏うディオン様が目の前にいた。
言わずとも分かる怒りの波長。
私が起き上がった際に額を打ち付けたのはどうやらディオン様の顎だったようです。
「ももも申し訳ございませんっ、」
彼に膝枕されていたとか、そんな事吹っ飛ぶ程に動揺して慌てて起き上がる。
しかし、後方に倒れること三度目。
ディオン様に起き上がろうとする肩を押されて、再度ディオン様の膝上に戻される。
「なぁ。さっき言ったことって本当?」
私の顔を覗き込んで問う。
さっき?
私何か言ったっけ?
問い掛けの意味が分からずにキョトンとしていると、鼻先が触れるか触れないかの距離までディオン様との距離が縮まる。
「ファーストキスって」
低音の囁きにゾクゾクとした感覚が背筋を這う。
そういえば、起きる瞬間そんなことを言ったような言ってないような…?
もしかしなくても聞かれていた!?
急速に頬に熱が集まり耳まで紅潮する。
「その反応をみると事実のようだな…」
薄らと口角を上げて機嫌が良さそうな声が聞こえたかと思えばまたも唇を奪われた。
チュッ
耳に届くリップ音。
見開かれる私の双眸とは裏腹に、此方を見下ろす彼の双眸は薄く細められる。
初めて見るしたり顔。
不覚にもその表情に胸が鳴るのをひた隠して、眉宇を思い切り寄せて頬を膨らませる。
「何その顔」
「怒りたいのに怒れない顔です」
「不細工」
「ブサっ!?」
私が侯爵令嬢のままだったら怒っていただろう。
しかし、今はディオン様の侍女として仕える身。
人が我慢していると言うのに彼は容赦無く毒を吐く。
まさか、彼がこんな性格をしていたとは!!
ゲームではクーデレキャラが売りだったはずなのにこれじゃあ、ただの二重人格じゃないか!!
「フッ…その百面相は変わらないな」
目元を細めて笑う自然な優しい笑みに数年前を思い出す。
私と殿下とディオン様がまだ幼き日のこと。
私達三人は幼馴染で仲が良く、よく一緒に遊んでいた。
その時のディオン様は今のような冷たさなど一切なく、表情も今よりは豊かだった。
それから、何時しかディオン様はあまり顔を見せなくなり、私と殿下の二人で遊ぶ事が増え私は次第にパトリス殿下に恋心を抱くようになっていった。
今思えば初めはディオン様はクールでも無表情でも無かった。
「…ディオン様の笑った顔。久し振りに見ましたわ」
彼の頬に手を伸ばす。
無意識に口をついて出た言葉。
彼の双眸が見開かれる。
!?
「わ、わたくしは何を!?申し訳ございませんっ。って、膝枕まで!?ひゃああ、本当にっ、本当に申し訳ございませんっ!!」
正気に戻った私は慌てて謝罪し、未だ彼の膝上に頭を乗せている事に気付き即座に立ち上がり何度も頭を下げる。
ううっ、穴があったら入りたい。
恥ずかしさのあまり顔を上げられない。
「ルナリア」
「はい……」
名前を呼ばれて漸く赤いままの顔を上げる。
「俺は君を手放す気はない。…いいな」
彼はそれだけ言うとプライベートルームへと姿を消した。
手放すも何も私は既にグラニエ家に仕える身だ。
グラニエ家の所有物として扱われても特に文句など今更無い。
恐らく彼は、私が他のお屋敷に務めたり辞めたりする事を案じたのだろう。
だけど、私はアネット様やグラニエ家の者達から要らないと言われない限りは御奉仕させて頂く所存だ。
後日、グラニエ家全員が揃った時にでも改めて決意表明をしようと心に決めて私は出されたままのティーセットを片付けた。
そして、この日からメインルームに置かれたソファを見る度、今日の事を思い出し赤面してしまい日々頭を悩ませる事となる──




