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7 ファースト・キス


何がどうなってこうなっているのでしょうか……



ふかふかソファに仰向けに倒れる私。



私をソファの上に引き込んだ右手を掴んだ手はそのままに、私の顔の横で片手をついて片腕を軸に上に覆い被さるディオン様。




遡ること数刻前。



アネット様に連れられて学園近くの店でディナーを済ませた私達。



「ルナリアちゃんと離れたくない~っ」


と、駄々を捏ねるアネット様をクロエさんが引きずって、二人はそのまま領地へと帰って行った。



取り残された私とディオン様は寮へと戻った。



取り敢えず、お仕着せに着替えてソファで寛ぐディオン様にお茶をお出しする。



沈黙が四半刻続いた。



何かの書類に目を通していたディオン様が漸く顔を上げた。



「ルナリア、此方へ」

「はい。如何なさいましたか?」



ディオン様に呼ばれて傍に寄る。


「此処に、君の冤罪を証明する証拠が揃っている」



咄嗟に言われた意味が分からずに目を瞬く。



「姉さんにも協力してもらって、君のアメリー嬢に対する今までの冤罪を主張するに十分な証拠が此処に揃っている」

「証拠…ですか?」

「ああ…。確かに君はアメリー嬢のイジメに加担しそれを指示する側であったのも事実。しかし、それは些細なこと」



確かに私が直接アメリーに手を出したのは教科書類を破いたり、難癖つけたりと言った程度で侯爵の権力があれば何とでも事実を握り潰せる些細なこと。


直接アメリーに危害を加えたことはない。



「この事実を証明し、信頼を取り戻すことが出来る。ともすれば、侯爵家に戻ることも可能だろう。」

「何故…それを今更…?」

「そう思うのも無理はないな。」



戸惑いがちに問う私に抑揚のない声で滔々と述べる。



「君があの場で抗うならばルナリアの冤罪を証明するつもりだった。だが、君はあろう事かアメリー嬢の虚言までも受け入れ直ぐに身を引いた」



あの場とは、私が婚約破棄を告げられた夜会のことだと理解した。



確かに、抗おうとはしなかった。



すぐに、諦めて身を引いた。



だけど、今となっては全てどうでもいいこと。



信用を取り戻したところで、今更あの家に帰りたいとも思わない。



それならば、将来アネット様の傍で彼女の役に立つ事が今の私の望み。



「お気遣いありがとうございます。しかし、それはわたくしには必要御座いません」

「…何故だ」

「わたくしはアネット様に拾われた身。それに、侯爵令嬢としてのルナリア・アングラードの人生は既に終了しました。これからは、第二の人生。ただのルナリアとしてグラニエ家に仕える者として生きていくと決めたのです」

「君はパトリス殿下が好きだっただろう。アメリー嬢の言葉が虚言であると分かれば殿下も目を覚ます可能性はある」



最後の言葉に自分でも反射的にビクリと肩が上がるのが分かった。


冤罪を晴らせばまたあの陽だまりのような笑顔を向けてくれるかもしれない。



……いや、ありえない。



それに、



「あの御方の笑顔が陰るところは見たくありませんわ」



眉尻を下げ、空笑いを浮かべた。



その瞬間、右手首を掴まれディオン様にソファの上に引き込まれた。



片手をついて私を見下ろすディオン様の顔は端麗な眉宇を眉間に皺が出来るほどに中心に寄せられていた。


その所為か、何時もは何者も映さず冷たいだけの眼差しが怒りや哀愁を帯びているように感じた。



「何故…お前はそんな顔で笑う…」

「え?…あ、あの…ディオン様?」

「お前は昔からそうだ。一人で耐え、心の内側に本音を隠してしまう」


薄い寒色の瞳の中に私が映り込む。


私を見つめる真っ直ぐな目。



キレイ……



場違いな程に目の前にある彼の瞳に意識が引き込まれてしまった。



「何故、助けを求めない。何故、俺を……頼らない。…ルナリア」



ドクンッ



あまりにも切なげに名前を呼ばれ、不意に心臓が鳴る。



ディオン様の瞳が僅かに熱っぽいものに変わる。



「ルナリア…。君がグラニエ家に仕えるこの現状を望むのであれば君は俺のものだ。姉さんにも誰にも渡さない」

「ディオン…さ…ンッ」



ディオン様の顔が近付いて来たかと思えば言葉の先を塞がれた。



重なる柔らかな感触。



見開く双眸。




「んんッ…」



軸にしていた腕は顔の横で折り曲げられ、右手は掴まれたまま。


顔を逸らそうとするも後を追って再び唇を奪われる。



左手で肩を押し遣るもビクともしない。



塞がれた口からチュッと妖しい音が漏れる。



強引だけど唇をなぞるように置かれる優しいキス。



唇と唇が離れると、また私を求めてやってきて優しく重なる。



彼の縋るような求めるような熱っぽい瞳にあてられて、私の体温も上昇する。



「逃がさない…」



その言葉と、蕩けるような接吻を最後に私の意識はショートした。



最後に見たディオン様の瞳は獰猛な鋭い光を宿していた。

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