13 寝場所
「それで?相談も無しに勝手に許可したと......」
私とシロは只今ディオン様のプライベートルームで正座をしていた。
ディオン様は椅子に深く腰掛け足を組み、頬杖をついて私たちを見下ろす。
その瞳は冷たく無表情が怖い。
「はぁ~......部屋に入れたのはシロだな」
溜息を零してシロを見やる。
シロはというと、ディオン様の冷たい視線も何のその。
素知らぬ顔で大きな口を開けて欠伸をしている。
ディオン様から怒気を孕んだ空気を感じ取り、慌てて口を挟む。
「ディオン様、弟が申し訳ございません。わたくしが家に帰るように何とか説得致します」
「いや、いい。彼は家を出て来たと言ったのだろう?」
「はい。わたくしの事で両親と揉めたようでして......」
「ルナリアのことで?」
ディオン様は顎に手を添えて思案する。
その表情は険しく首を傾ぐ。
「ディオン様?」
「あ、いや。なんでもない。二人が寝る場所をどうしたものかと考えていただけだ。」
今まで何を問いかけられても我関せずだったシロが、ベッドを指さす。
「ベッド広い。三人、一緒寝れる」
確かに、ディオン様のベッドはキングサイズで大きい。
だが、主人のベッドに弟たちを寝かせるなど烏滸がましくてそんな事出来るはずもない。
「じょ、冗談です。ノエルとレイモンさんにはわたくしの部屋で寝て頂きますのでご安心下さい」
直ぐにシロの腕を下ろさせ、慌てて訂正する。
「シロたちのベッド......」
「シロ、ごめんなさい。少しの間ノエルに貸してくれる?」
「......ルナが言うなら」
こくりと頷き、シロの理解を得たことに安堵する。
「ノエルたちにルナリアのベッドを貸すならお前たちはどこで寝るつもりだ?」
「シロにはソファに寝て頂こうかと思ってます。私は一日寝なくても大丈夫です!それくらい出来なくては侍女は務まりませんものっ」
拳を作って力強く言う。
そうだ、いついかなる時も主人をお守りする立場であれば、2、3日寝なくても大丈夫なようにしなくては。
クロエさんなら一週間近く寝なくてもアネット様を守ることなど朝飯前だろう。
これも修行よ!
そう自分に言い聞かせやる気を出す。
「それならルナリアは俺と寝たらいい」
やる気に満ちていると、思わぬディオン様からの提案に一瞬思考が停止する。
「そっ......」
「ダメ!!!ルナはシロと寝るの」
そんな事出来るわけがないと断ろうと口を開く。
言葉を発する前に、シロに抱き着かれ言葉を阻まれた。
「ルナリアは俺の侍女だ。どうしようと俺の自由だ」
「じゃあ、シロも一緒に寝る」
「お前は邪魔だ」
「ディオン様邪魔。君がソファに寝たらいい。シロ、ルナと寝る」
ディオン様とシロの間で不穏な空気が流れる。
ああ、もう。
如何して、二人はこうも仲が悪いのか......
シロは、アネット様、クロエさん、私の言うことならば素直に聞くのだが、何故かいつもディオン様には突っかかる。
「わたくしなら大丈夫です!これも修行のうちですから」
場の空気を変えようと試みたのだが、あまり効果はなかった。
結局、寝る場所に関する結論は出ぬままメインルームへと向かった。
メインルームでは、ソファで寛ぐノエルと傍らに控えるレイモンさんが待っていた。
「遅くなってすまないな。二人の寝場所などがなかなか決まらなくてね。狭い部屋で申し訳ない」
ディオン様は謝罪しながら、ノエルの向かいの席に腰掛ける。
「いえっ、急に来た僕たちが悪いんです。姉上がグラニエ公爵家に仕えている事は聞き及んでいたのですが、まさかディオン様と同じ部屋で暮らしているとは知らず。すみません」
「ルナリアとアングラード家の縁が切れたとはいえ、君とルナリアが姉弟である事にはかわりない。気が済むまでここにいるといい」
「ありがとうございます。それと、寝る場所でしたら僕は姉上と一緒の場所で大丈夫です。レイモンなら2、3日睡眠を取らなくても大丈夫ですし」
ノエルは申し訳なさそうに謝罪をした後、ディオン様の寛大な返答に笑顔で返した。
「ね!姉上、一緒に寝てもいいでしょ?」
無邪気な笑顔で私を見て問いかける。
ディオン様とシロからピリピリとした空気を肌に感じるのだが気の所為だろうか。
「わたくしは構わないけれど......」
「ルナ、シロと寝る」
私の腕を掴んでピタリと横にくっつくシロ。
「僕はシロさんも一緒で構わないよ。三人で寝るなんて楽しそう!あ、でも、三人も一緒に寝れるかな?」
シロもノエルも小柄だから寝ようと思えば、三人一緒に寝れる。
が、先程からディオン様から不穏な空気を感じる。
「問題ない」
返答に戸惑っていると、シロは親指を立てて即答した。
「良かったぁ!じゃあ、シロさんも一緒に三人で寝よう!」
シロの真似をして親指を立てるノエルにシロは頷き返す。
先程まで、ノエルに対しても敵対意識を全面に出していたシロだが、すっかりとなりを潜めた。
「三人だと流石に狭いだろう。ルナリアのベッドは私のものよりも小さい。シロと弟君で丁度なんじゃないか」
「問題ない」
ディオン様の問いに即座に返すシロ。
二人の間で再び鋭い視線が交わされる。
「無駄な足掻き」
ぽそりとシロが呟いた言葉は聞かなかったことにした。
とりあえず、ノエルは私のベッドでシロと私の三人で一緒に寝ることが決まった。
レイモンさんにはメインルームのソファを使ってもらうこととなった。




