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10 ラッセルの思い付き

留学生一行が馬場へと向かうと、更に黄色い声は大きくなった。



練習していた育成科の男子生徒達も、留学生のエリン殿下やクリスティーナ様を一目見ようと、練習の手を止めて注目を集めた。



「ブリス!クロード!」



リシャール様が乗馬中の二人に声をかけて呼び出す。



二人は、すぐにリシャール様の声に気付いて此方へと向かって来た。



「殿下方、この者たちは育成科の中でもトップを維持している優秀な人材です。彼等は今、騎士団への入団を目指して競技大会に向けて励んでおります」

「お初にお目にかかります」


リシャール様の紹介に続いて、ブリスさんとクロードさんは各々自己紹介を終える。



「ほう、二人とも騎士を目指しているのか!私も騎士を目指す身、是非とも宜しくしてくれ」



ジャスティン様は二人に歩み寄ると握手を求めた。



ブリスさんとクロードさんは、こちらこそと握手に応じた。



「折角、こんな所まで来ていただいたのです。よろしければ、少し手合わせしてみませんか?」

「よいのか!?」

「ええ。ジャスティン様は身体能力に優れていらっしゃると聞いていたので、是非ご教授願いたい」



クロードさんの誘いに食いつくジャスティン様。彼の食いつきように、ブリスさんが畳み掛ける。



ジャスティン様は硬派で脳筋だったジェルマン様よりは落ち着きがあるものの、好戦的なことろはよく似ている。



「いいね、面白そう。僕も参加してもいい?」

「ラッセル様、もちろんです」

「それでは、私たちは準備して参ります」

「んーん、今はしなくていいよ。今日は参加しないから」



ジャスティン様とラッセル様の衣服や馬の準備に向かおうとする二人をラッセル様は笑顔で止める。



ラッセル様は何を企んでいるのか、ニコニコと笑みを携えたままだ。




何故か、彼の次の発言を待つ時間が恐ろしく感じるのは、普段無表情のディオン様とよく似ているからだろうか。



何を企んでいるのかと、深く勘ぐってしまう。



しかし、それはディオン様も同じようだったようで、ラッセル様へと鋭い視線を向けていた。



「ラッセル、何を企んでいる」

「企むだなんて酷いなぁ。ディオン兄さんは。ね、ルナリア嬢」

「えっ」



突然同意を求められて思わず素っ頓狂な声が出てしまった。



「ルナリア嬢も僕が何か企んでるって思う?」

「い、いえ」

「だよねー。企んでるだなんて酷いご主人様だよね。僕は、ただ、競技大会がもぉっと面白くなるようないいことを思いついただけなのにねぇ」



何故かラッセル様が私の方へと一歩一歩近付いて来る。



今朝のこともあるため、警戒心が働き一歩後退る。



「あれ?なんで退るのさ。逃げられると更に追い詰めたくなっちゃうじゃないか」



可愛い顔から飛び出すS発言。



そういうの要らない。




ディオン様だけで十分間に合ってるから、こっちに来ないで。




笑顔は変わらないのに、何処か黒い雰囲気漂うラッセル様に走って逃げ出したい衝動をぐっと堪える。



近付くラッセル様との間に、白い影が割り入る。



その瞬間、横に腕と腰を引かれ、直線上にいたラッセル様の姿は斜め前に移動していた。



正確には、私が移動していた。



「ラッセル、私の侍女をからかうなと言ったはずだ」



頭上から降る不機嫌な声。



腕を引いた手は、頭部を包むようにして置かれ、腰に回った程よく筋肉のついた腕。



「からかってないよ。僕はルナリア嬢と仲良くなりたいだけだって言ってるでしょ?あ!わかった!ディオン兄さん、その侍女のことが好きなの?だから僕に取られたくなくて必死なんでしょーっ」

「おい、ラッセル。いくら、いとこ同士だからと言い過ぎだ」



すかさず、マイルズ殿下の叱責が入るが、気まずい雰囲気が漂う。



「それがどう──」

「ディオン様ッ、わたくしは大丈夫です。ディオン様はわたくしにもシロにも同様にお優しい方ですから。いち侍女に過ぎないわたくし達にここまでお心を砕いて下さってありがとうございます」



私は、ディオン様の言葉を遮って礼を述べる。




「シロも、心配してくれてありがとう。わたくしは大丈夫よ」



ラッセル様の前に立ちはだかり、殺気を隠そうともせずに彼を睨み付けているシロを呼び寄せる。




ディオン様の腕の中から抜け出て、飛び込んで来たシロの頭を撫でた。



「それで、ラッセル様は何か妙案でも浮かばれたのですか?」

「そうそう!そうなんだよ。妙案が浮かんだから、みんなに聞いてもらおうと思ってたんだ」



出来ることならば、何か企んでいそうなのは明らかなので、掘り返したくはなかったが、仕方ない。



すっかりと、気まずい雰囲気が漂うこの場を変えるには、言い出しっぺの本人が適任だろうと、彼が言いかけていた内容を尋ねた。



ラッセル様は、冷えた空気もものともせずに変わらぬ笑顔で、言葉を続けた。

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