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3 狸寝入り

如何してディオン様が此処にいるのでしょうか。



彼は今、王都に詰めて二学期から私たちが通う学園に来校される予定の留学生といるはずでは。




突然の事に狼狽する私が最終的に取った行動は──




寝たふりをすることだった。




膝ではシロも寝ている為、動く事も出来ない。




それに、王都では働き詰めだっただろうディオン様の事を思うと起こすのも忍びなかった。



規則正しい寝息が耳元でして落ち着かない。




穏やかな時間が流れる中、一人動悸が早くなる。



「くっ、ふ……心音早くなってるぞ。ルナリア」




肩に寄りかかっていたディオン様の肩が小刻みに揺れ、くつくつと喉を鳴らす。



軽く持ち上げられた左手首には、ディオン様の手が添えられていた。



「なっ……!」



私は勢い良く目を開ける。



未だ肩に頭部を乗せたまま片手を口元にやって笑うディオン様が映る。



「そ、そーゆーのずるいと思いますッ!!」



まさか、脈拍で測られるなんて思わなかった。



狸寝入りをしようとした自分が恥ずかしい。




赤い顔で抗議すると、彼は更に噴き出した。



「こんな所で無防備に寝てる方が悪い」

「うっ……」




数週間振りに彼の笑顔を見ていると、些細な事などどうでも良くなって来た。




こんなに爆笑するディオン様を見るのは久し振りだ。




普段の仏頂面からは考えられない表情をしている。




「何故、ディオン様が此方にいらっしゃるのですか?」



顔を逸らし、未だ怒っている体を繕いつつ話題を変える。



「姉さんに用があってな。それと、王都での一件が落ち着いたから数日だけでも領でゆっくりしようと思ってな」

「そうなんですね。お疲れ様でございます」

「じいーっ」

「あら、シロ起きたの?」

「ん。さっき」



目を覚ましたシロが頭を上げて私とディオン様を凝視していた。



「誰」

「シロはディオン様とお会いするのは初めて?」

「初めて」

「この方はアネット様の弟君であるディオン様よ。ディオン様、此方はクロエさんの一番弟子でわたくしの武術の師匠でもあるシロですわ」



二人は無表情で見つめ合う。




沈黙が場を支配し、何だか重苦しい空気が漂う。



口出し出来るような雰囲気でもなく、訳がわからないまま黙っていると先にシロがディオン様から視線を逸らした。



「ルナ。シロまだ眠い」



言って、再び私の膝に顔を埋める。



「そろそろ中に戻らないといけない時間よ。クロエさんのところに行かなくちゃ」

「んーっ。少しだけ」



仰向けに寝直したシロは眉尻を下げて懇願してくる。



「分かったわ。じゃあ、あと少しだけね」

「やったあ。ルナ好きッ」


垂れた猫耳の幻影が見えて、ついつい容認してしまった。



「ダメだ」




シロを甘やかしてしまう自分を反省していると隣から厳格な声が聞こえた。



「君に聞いてない」



声を発したのはディオン様で、シロは寝転んだままディオン様を睨み付けた。



「起きろ」

「やだ」

「退け」

「やだ」

「何だと」

「シロの」

「俺のだ」



単語で交わされる会話に、呆然とする。



主語無しでよく話が分かるなぁ……



って、関心している場合じゃなかった!!



「二人とも……」

「何をしている」



言い合いを止めさせようとしていると、鋭い声が聞こえ顔を上げた。



目の前にはいつの間に来たのか、クロエさんの姿があった。



「シロ、起きろ。全員アネット様がお呼びだ。外食に行くそうだ」

「外食!!」



外食という言葉に反応してシロは飛び起きた。



「ルナ。早く行こっ」

「え、ええ」



先程までの不機嫌さが嘘かのように上機嫌で、邸内へとシロに腕を引かれて戻る。



チラリと、後ろを振り返るとディオン様とクロエさんが何か話していた。



「ディオン様、シロが御無礼を申し訳ございません」

「いや、私も大人気なかったな」

「……そうですね。それと、ルナリアは今はまだお嬢様のものです」

「……そうだな。今はまだ……な。」

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