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44 閉廷

※41話から飛んで来た方は此処からお読み下さい。


「これで審理を終了します。被告人は騎士達の誘導に従い退出を、その他の方々は国王陛下よりお言葉がありますのでそのままお待ち下さい」




裁判長の発言で、外に控えていた騎士達が被告人達を拘束して法廷内から退出して行った。



もう二度と、アメリーにもパトリス殿下達にも会うことは無いだろう。




「今日は急な呼び出しにも関わらず、招集に応じてくれた事、まずは感謝する。早速、本題に入るが今日開かれた法廷に関する情報の口外を一切禁止とする。親族及び今この場にいる者達の間でも法廷を出てからは法廷内で知り得た情報、並びに原告及び被告人達に関する会話と情報の漏洩を禁じる。漏洩が発覚した場合如何なる理由があろうとも、国家機密の漏洩であると判断し重刑に処す。被告人達に関する情報は王家から正式に情報の公開を行う。」




陛下の発言は暗に、内容の改変がある事を示唆していた。



だが、それも頷ける。



第二王子とその側近達。



そして、複数の貴族子息が一斉に姿を消すのだ。



国の沽券に関わる案件である。



恐らく、約一月後には国民に不信感を抱かせない最もらしい内容で公布が為されることだろう。



「デュフォー家、クヴルール家、アギヨン家、バルテ家には後ほど確認したい事がある。その確認を行った上で後日正式に沙汰を下す。良いな」

『はっ!』



被告人達の親は陛下の問いに礼を以って答える。



「法廷を出た先に部屋を用意してある。中央口で待機している騎士に案内させる故、彼に付いて先に部屋で待っていろ。ナゼール、御前も同行しろ」

「承知致しました」



陛下の指示に、指定された者達は騎士とナゼール様の後に続いて法廷内を出て行った。



「そこにいるのは、ルナリア嬢と同じ育成科の生徒達だったかな?お前達にも退出願おう。別室で書類を用意してある。先程話した情報漏洩に関する事だ。時間はそう取るまい。誓約書へのサインが済み次第帰寮して構わん」



エメ、ブリスさん、クロードさん、コームさんに目を向けて指示を出す。



四人は別の騎士と陛下の臣下と思われる方に従って、法廷から退出していった。



「さて、今此処に残っている者達は儂が信頼するに値すると判断した者達だ。これから話す内容は宰相と先程の臣下の者は既に知っていることだ」



陛下はそう前置きを述べた。



傍聴席に集められていたのは、王家派として知られる者達だった。



しかし、王家派全員では無いようで、また階級で集められたわけでも無さそうだ。



その証拠に、王家派の中でも力を持つ私の両親、アングラード家や他の侯爵位以上の家で呼ばれていない者達もいた。



「皆に話すにはルナリア嬢に確認しなければならない事がある」



突如、私に焦点を向けられ驚いて陛下へと顔を向けた。



「ルナリア嬢……君の境遇はアネット嬢から聞いた。君の両親に関する話をな。それを踏まえたうえで、問う。ルナリア嬢、君の冤罪は今日此処で晴らされた。アングラード家に戻り貴族社会に復帰する事も可能だがどうする?」



陛下の言葉に私は顔を俯かせた。




出来ることならば、二度とあの家には戻りたくない。




だけど、冤罪が晴れたにも関わらずグラニエ家に今まで通りお世話になるということは出来ないだろう。




グラニエ家の負担にも迷惑にもなってしまう。




「ルナリア、君が今望む方を選べ」

「そうよ、ルナリアちゃん。ウチに対する迷惑とかそういう事は一切考えなくていいわ。それに、貴女を侍女に迎えた日、聞いたでしょ?貴女を貰っても良いかって。ルナリアちゃんが心から望む方を選んで良いのよ。ルナリアちゃんが再び平民になっても私はまた同じ事を貴女に問うわ」



両隣りからディオン様とアネット様の手が、膝の上で握った拳に添えられる。



二人はグラニエ家にいても良いのだと、二人の傍にいても良いのだと言ってくれているように思えた。




「わたくし……私は……アネット様とディオン様と共に居たいです。アングラード家には戻りたくない……グラニエ家の使用人として御二人にお仕えしたいです」

「ルナリア嬢の希望は分かった。それならば、君の事をここに居る者達に説明せねばなるまい。儂の方から君の実家で行われていた事を説明しても良いかな」

「はい……。構いません」



陛下が何処まで知っているか分からないが、アネット様からの情報だと言っていたから私の境遇は全て知られているのだろう。



冤罪が晴れたのに、実家に戻らない理由。




それは、



「彼女、ルナリア・アングラードは実の両親から十年以上に渡り虐待を受けていたことが判明した。」




小さい頃は、教養や作法を身に付ける為にスパルタ教育が行われていた。



それは、度を越したもので失敗すれば手を上げられたり折檻されたりは常である。



パトリス殿下と出会い、王宮に出入りするようになってからは肉体的虐待は無くなった。



しかし、パトリス殿下の心が離れ出してからは、それを感じ取った両親からの精神的虐待が始まった。



「儂はつい先日アネット嬢にこの事を聞くまでは知りもしなかった。そして、儂の息子だったパトリスは彼女の境遇を知っていた。パトリス本人にも確認している。」



両親は、腐っても鯛という言葉がまさに当てはまる人達だった。



侯爵の地位を持ち、虐待を行うにも証拠は残さない方法を取り、体面は優しい両親を装っていた。



信じられるのは内でも外でも、パトリス殿下しか私にはいなかった。




今思えば、当時の私はパトリス殿下に執着し依存していた。




私の世界はパトリス殿下が全てだった。



パトリス殿下の為ならば何でもしよう。



パトリス殿下が道を外さないように、私が軌道修正をしなくては。



パトリス殿下には私だけいればいい。



そして、私もパトリス殿下だけいればいい。



そう思っていた。




それが、彼の重りとなり愛想を尽かされた原因だと今ならば分かる。



「パトリスは彼女が追い詰められている事を知っていながら、儂への相談も一切無くルナリア嬢に更なる追い討ちをかける暴挙に出た。そして、王家もパトリスの婚約者であったルナリア嬢の実家での境遇を認知するに至れ無かったことは許されざることである」



私は陛下の言葉に勢いよく顔を上げた。



「だがしかし、遺憾な事に彼女が虐待を受けていた証拠がない。アングラード卿は王家と強固な繋がりを得る為にルナリア嬢を道具として見ていた事が分かった。ルナリア嬢には辛い話になるが、それとなく、卿と話をした時にそう言った言動が所々見受けられた」



陛下がそこ迄してくれていたとは思わなかった。



一国民に過ぎない私の境遇に対して、こんなにも心を砕いてくれるなんて思いもしなかった。



「アングラード卿は皆も知っての通り有能な人物である。国としても失うには惜しい人物であるのも確かだ。だが、ルナリア嬢への行いは目を瞑れるものではない。よって、ルナリア嬢には彼女にとって幸せな人生を歩んで貰いたいと思い先の質問をした」



私と父。



普通ならば、役に立つ父の方を優先するだろう。



しかし、陛下は私の幸せまでも願ってくれるのか……




国の頂点に立つ者としての懐の深さを知った。



「ルナリア嬢の冤罪は晴れたが彼女自身の希望により、ルナリア嬢の身柄はグラニエ家の使用人として継続される事とする。また、今知り得たルナリア嬢及びアングラード家に関する事情も一切の口外を禁ずる」



陛下は最後にそう締め括り、傍聴席にいた貴族達は了承の意を示した。



私の家の事情も法廷での出来事も公になる事は無いだろう。



そして、口外されないということは私やディオン様の身に起こった事や、アメリー達との因縁も周囲に知られることはないということ。




それは、私やディオン様がこれまで通りの生活が保証された事を意味していた。




「以上を以て閉廷とする。」



裁判長の宣言により、私達は閉廷を迎えた。

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