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43 歴史上最悪の犯罪者ジェフリー


※残虐性発言(?)にご注意下さい。被告人の運命を詳細にアネットが語ります。彼等の末路に興味が無い方、ダークな内容が苦手な方は今回の話は見送る事をお勧めします。


「はぁ?意味わかん──ひぇっ」



アメリーは凝りもせずに悪態を吐く。



しかし、後ろに控えるクロエさんがナイフを取り出した瞬間口を噤んだ。



彼女の学習能力の無さにはある意味感心すら覚える。



「貴女には先ず今後の人生詰んでいる事をご理解頂かないといけないわね。アメリー嬢、貴女はとっても可愛いわね。性格は底辺だけれどそれも気にならない程の美貌だわ。男なら貴女を一目見ただけで恋に落ちてしまうのも頷けるわね」

「私はこの世界のヒロインなんだから世界一可愛いのは当たり前でしょ。性格の悪さが滲み出てるそこの女とはわけが違うのよ」



アネット様の褒め言葉に気分を良くしたアメリーは当然だと言わんばかりに胸を張り、私を引き合いに此方を指差して貶す。



「あいつが世界一なのは性格の悪さと頭の悪さだろ」



ボソリとディオン様が呟く。



「そうね。その可愛い可愛いアメリー嬢にとって、この話は悲報と言うよりも朗報になってしまうかしら?」



あらあら、と困った表情で片手を頬に添えるアネット様。




だが、醸し出す雰囲気は何処かゾッとするものがあった。



「デゼスポワール島の男女比は御存知かしら?此方で把握している割合は九割が男性だと聞いているわ。この割合の意味……分かるわよね?」



やはり……



アネット様の褒め言葉には裏があるものだった。




はっきりと明言しなくとも、ここ迄言われればアメリーに待ち受ける運命は想像に容易い。



「何が言いたいのよ。その割合がなんだって言うのよ!言いたいことがあるならはっきりと言ったらどうなの!」

「は?嘘だろ……」



アメリーは何となくアネット様に馬鹿にされている事だけは感じ取ったのだろう。



理解出来るかと問われ理解出来なかったアメリーは逆ギレに走る。



この言動にディオン様の驚いた声が聞こえた。



傍聴席からも呆れ返った声が聞こえる。




「ふ、ふふっ。悪知恵はよく働くというのにここまで低脳だと一層のこと清々しいわね。いいわ、教えてあげる。男好きの貴女にとっては御褒美になると思うけど、貴女は島に着いて早々に島にいる男達に貞操を奪われるわ。その後はそうね、貴女程の極上の女を逃がさない為に先ず両足の腱断裂は必須。島に居る男の数は五十は優に超えているそうよ。毎晩どころか寝る間もなく、貴女の大好きな異性とイチャイチャ出来るわね。逃げる足が無いから、何処にも逃げられない上に女は貴重だから死なれないように二十四時間監視が付くのも容易に考えられるわ」



同じ女として考えるだけでも恐ろしい。




私ならば、島に行く前に命を絶つだろう。




アメリーも流石に内容は理解出来たのか、目を見開いて身体を震わせている。



「俺がそんなことはさせない!アメリーは俺達が守ってみせる!」

「ジェルマン様ぁ」

「大丈夫だ。アメリーには俺が指一本触れさせない」

「頼もしい限りですわね。是非とも守ってあげてくださいませ。それが出来れば……ですけれども」



アネット様はそれは素晴らしいとばかりに両手を合わせて、ジェルマン様を賞賛する。



しかし、続く言葉はとても彼を賞賛しているとは思えないものでアネット様が浮かべた笑顔が恐ろしく感じるものだった。



「何度も申しますが、デゼスポワール島に在住する者は元重犯罪者。通常、重犯罪者は極刑に処されます。それなのに、何故極刑では無くデゼスポワール島に配流されるのか御存知ですか?」

「それは、死罪にする程ではない者達だからだろう」

「死罪よりも流罪の方が軽いという考えは間違いでは御座いませんわ。ですが、デゼスポワール島は別です。絶望島と名付けられた島。それは、死罪では軽いとされた者達が送られる島だからこそ、その名前が付けられたのです」



島の詳細を語るアネット様の表情が徐々に恍惚としたものに変わる。



被告人を見つめる瞳には残虐性が見え隠れしていた。



「陛下、彼の存在をお話しても宜しいでしょうか?」



アネット様は陛下に向き直ると、真っ直ぐと目を向けて尋ねる。



「……良いだろう。あいつを語らずしてデゼスポワール島への上陸は危険だからな」

「ありがとうございます」




絶対的支配者としての気迫を放つ陛下の空気だけで無く、表情からあからさまに変化を見せた。



一瞬、渋るようにも見えた間は何だったのか。



「ジェフリー・アロンという名前を御存知ですか?」

「ジェフリーだと!?」

「奴は死んだはずではっ!」

「何故奴の名前をアネット嬢が知っている……ま、まさか」

「私は、名前と経緯だけなら知っていますが……」



傍聴席が今まで以上にざわめき始めた。



それも、騒いでいるのは中年貴族以上の者達で若い人達は年長者達の取り乱し様に、驚いている。




私も名前なら聞いたことがある。



ジェフリー・アロン。




歴史史上最悪の人物として知られる。



「二十年前。世間を騒がせた歴史史上最悪の人物。それが、ジェフリー・アロンです。重鎮の方々は当時の事をよく覚えている方も多いかと思います。我が国だけでなく、近隣諸国をも戦慄させた男。一時は英雄となり彼の名は不死身のジェフリーとして大陸中に知れ渡りました。戦場では素手で敵を引きちぎり、指先が頬を掠めただけでも皮膚と肉を裂く程の剛腕にして剛力と握力の持ち主。ジェフリーを恐れて、戦争が停滞する程の影響力を持っていました。それにより、我が国ではジェフリーは英雄となりましたが、彼は英雄などでは無かった。……ただの、殺人鬼だったのです」




ジェフリーのお陰で近隣諸国は、相手から先に攻撃を仕掛けて来ることはなくなり表面上では一時の平和が訪れた。




しかし、戦争が無くなれば戦場に立つことも無くなる。



彼、ジェフリーは戦場が無くなると次は自国に牙を向けたのだった。



「ジェフリーは気の赴くままに国民に手をかけた。その数、知られているだけでも二百名に達します。ジェフリーは指名手配犯となり、騎士団も動きました。しかし、騎士団五十人がかりでも彼は止められなかった。だが、彼の悪行も長くは続きませんでした。我が国、最高峰の堅牢無比にして難攻不落の双璧、我らが国王陛下と王弟殿下そして当時一騎当千の矛とまで呼ばれた前一番隊隊長がジェフリーの前に立ち塞がりました」



国王陛下、王弟殿下、騎士団前一番隊隊長の三人は強靭な盾と矛であったとされている。




この三人が戦場に揃えば、敗北の二文字は無いと言われた程だったのだとか。



「ジェフリーの運も御三方の手によって尽きました。御三方は勝利を収めましたが、ジェフリーを相手に無傷というわけではありませんでした……」



アネット様は言葉を切ると、陛下へと一瞬目を向けた。



「ジェフリーを捕らえることに成功したが、痛手を負ったのは寧ろ儂らの方だったな。」



言いにくそうにするアネット様の様子を見兼ねて、陛下が彼女の言葉の後を継いだ。



「儂の弟ヘクトールは左腕を失った。そして、我が国の矛であった一番隊隊長はジェフリーの捕縛と引き換えに命を落とした」



その言葉に、若い貴族と私達学生は驚きを隠せなかった。



ジェフリーが凶悪犯であることは知っていたが、陛下や王弟殿下自らが捕縛に関わっている事も、前一番隊隊長がジェフリーによって殺害されていたという事実も初めて明かされる内容だった。



「ジェフリーは世間には死刑執行により死亡した事が公布されました。ですが、彼は今も尚生きております。彼を収容している場所がデゼスポワール島です。彼は両足の腱断裂及び片足ずつに、200kgの重り総重量400kgの足枷がされています。何故、彼が生きているのかというと、彼を殺すことが出来なかったからです。屈強な首はギロチンの刃を途中で止め、心臓を貫こうにも心臓に達する前に剣や槍の方が駄目になってしまうのです。そこで、当時彼を管理していた者達はジェフリーが衰弱することを待つことにしました。ジェフリーが死んでいないことが国民に知られるわけにはいかないので、本国に彼を置いておくわけにもいかず、彼の身柄を放置したのがデゼスポワール島なのです。」



ジェフリーの存在そのものが絶望。




よって、絶望島と名付けられたとアネット様は語った。



「それから、重犯罪者はデゼスポワール島に流刑されるようになりました。初めは、死罪よりも軽い刑罰として送られていたのですが、送られた受刑者はみなジェフリーに食い殺されてしまったのです。ジェフリーは腱断裂と足枷によって、海には出られません。ですが、彼は腕の力だけで島中を動き回ることが可能であることが知られました。よって、死罪では軽い。或いは、死罪でも良いが生きる道も残して良いのでは無いかと判断された者達が昨今ではデゼスポワール島に送られるようになりました。」



一度アネット様は言葉を切る。



「デゼスポワール島で生きる方法はジェフリーとジェフリーの配下の者達に逆らわないことです。重労働を課せられ、逆らわずともあらゆる理由で死に至る場合もありますが、生きる確率は確実に上がります。男達は、海に潜り漁をさせられるでしょう。海には人喰いザメがいるので、食い殺される可能性もありますが、それを断れば今度はサメでは無く島に在住する者達によってあなた方は殺され食料とされます」



いつ死ぬか分からない状況の中生き続け無ければならない。



まさに、生きるも地獄。死ぬも地獄である。



「因みに、自殺は考えないことです。あなた方は島に着いたら、バラバラに複数の班に加えられることでしょう。あなた方もアメリー嬢と同様に二十四時間周囲の者達から監視されます。自殺をしようとすれば、生かさず殺さずの地獄を見ることになります。一度島に送られた者達が、本国に帰還することは生涯ありませんが、島で生きていけるように月に一度だけ海賊衆の方々に頼んで食糧を搬送して頂いてます。デゼスポワール島に配流されたからといって、必ずしも死が待ち受けているわけではないので、あなた方の生存能力にかかっていますので長生き出来るように頑張って下さいませ」



アネット様はデゼスポワール島についての説明を笑顔で締め括った。



「あ、そうそう。言い忘れていましたが、武器弾薬の所持は一切禁止。此方で用意した服に着替えてもらった上で流刑地へとお送り致しますわ。それと、月一で食糧搬送をして下さっている海賊衆の方々に手を出されますと今後一切の食糧搬送を中止するという契約が御座いますので変な事は考えないようにして下さいね」



傍聴者達は無言となり、被告人達は阿鼻叫喚と化していた。



あんな話を聞いて、正気を保てる方がどうかしている。



脳筋のジェルマン様も流石にジェフリーの話を聞いた辺りから静かになった。




力自慢の彼自身、人外なジェフリーには適わないと察したのだろう。




裁判長がガベルを打ち鳴らす。



それにより、衆目が裁判長に集まった。



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