34 エリク暴かれる
側近達の発言により、買収による不正があったことが判明した。
しかし、アメリーは此処で引き下がらなかった。
「ちょっと、待って下さい!彼女達は嘘を吐いています!私は彼女達を買収してルナリア様をいじめるように指示なんてしてません!」
「ジェルマン殿、エゾン殿、エリク殿からも貴女が侍女を雇う気がないかという質問を受けたと証言されています」
「そんなのちょっと、質問しただけじゃない。彼女達とは一切関係ないわ!」
「アメリー嬢、虚言は自身の首を締めますよ」
「違うって言ってるじゃないですか!無実の者を悪者にするのが教会のやり方なの!?」
「ディオン様とアネット嬢からの温情で自らの非を認めるのであれば、これは法廷で提示する必要はないと言われたのですが……ディオン様、アネット嬢アレを開示しても宜しいですか」
裁判官はディオン様とアネット様に同意を求める。
「ああ。構わない」
話を振られたディオン様が同意を示す。
裁判官は次にアネット様へと目を向けるとアネット様も静かに頷いた。
二人の同意を得て、裁判官は手元の資料の一つを両手に持ちそれを掲げた。
「此処にある、アギヨン家の使用人雇用契約書です。そして、次に此方をご覧下さい」
そう言って、次に手に持ったのは三枚の紙。
計四枚の紙が提示されている。
「此方はアメリー嬢と彼女達三人が交わした契約書です。」
「なっ……」
契約書。
その言葉を聞いた瞬間アメリーの顔色が変わった。
「あんた達もしかして最初からっ!」
「アメリー様、私達は当時は貴女の事を信じていました。だから、愚かにもルナリア様を陥れようとしました」
「ですが、約束事に契約は必須。わたくし共は仮にも侍女の端くれ。仮にも一流の侍女を目指しておりました」
「口約束に拘束が無いことくらい理解しておりますわ。ですから、書面で形に残る方法を取らせていただいたのです。当時はこのようなことになるとは思ってもいませんでしたが、今となっては契約書をお書き頂いて良かったと思っております」
オドレイ様、ベレニス様、コラリー様と交わした契約書の書面には彼女達が上げた家柄に侍女として務められるように交渉する旨が書かれていた。
そこには、彼女達の名前とアメリー嬢の名前が記載されバルテ子爵家の印章が押されていた。
「そして初めに提示した此方はアギヨン家で見つかった契約書です。書面にはコラリー嬢を起用する旨が記載されております。雇用主はエリク殿です」
「それは僕のものでは……い、いや…それは何かの間違いではありませんか?その契約書は何処から提出されたのですか」
契約書にはエリク様のサインがされている。
彼は否定しようとするも、先程の陛下とのやり取りを思い出し慌てた様子で言葉を選んで裁判官へと問う。
「これは、ディオン様から提示がありました」
「は……はは、ディオンからですか。それはおかしいでしょう!何故彼が僕の使用人雇用契約書を手に入れることが出来るんですか?これは、彼による偽書です。皆さん、騙されてはいけません、彼は僕達を陥れる為に──」
「それを彼に渡したのは私だ、エリクよ」
ディオン様の名前を聞いて勝ち誇った表情でエリク様は論説を始めた。
しかし、直ぐにその論説を止めたのは彼の父親だった。
「父上……」
「ディオン殿からそのような書類が雇用契約書に混ざっていないか確認してくれと依頼が来た時は、そのような馬鹿な事をするはずが無いと私は一度断った」
彼は自分の息子を信じていたのだろう。
「だが、今度は正式に王太子殿下から書状が届き確認した所このような契約書が発見された。この契約書を見つけた時は我が目を疑ったよ。」
「ち、父上。ですが、これはアメリー達とは関係無く将来有望そうな侍女を見つけた誰かと契約する前に先に契約を交わしただけに過ぎません」
「では何故私に相談をしなかった。それに、その契約書は我がアギヨン家の正当な契約書では無い」
「えっ、」
「エリク殿達はまだ未成年。知らなかったのも無理ありません。此処にいらっしゃるのは高位貴族の当主の方々ですので説明致します。陛下からの許可も頂いております」
そう言って、裁判官はマッチを取り出し小さな蝋燭に火をつけた。
火をつけた蝋燭を新しいアギヨン家の雇用契約書とエリク様が書いたとされる契約書の裏に火を近づける。
エリク様が書いた契約書にはなんの変化もなく、アギヨン家の雇用契約書にはアギヨン家の紋章が浮かび上がった。
炙り出しとされるものだった。
「伯爵家以上の各家で取り入れられている炙り出しです。不正を防ぐ為に二十年程前から広まり今では、伯爵以上の爵位を持つ方達でこの方法を取り入れていない者はいないと思います。炙り出しの紙を使わずに雇用契約書の作成は不正であるという証拠になります」
「つまり、エリクよ。お前は不正を行ったということだ。それに、彼女達の契約書に書かれた日付よりもお前とコラリー嬢が交わした契約書の方が後の日付。これで、違うと言われ信じろと言われても無理があるだろう……」
「あ……あ、そんな。う、嘘だ……こんなのは何かの間違いだ……」
不正を突き付けられたエリク様は茫然自失としていた。
「オドレイ嬢、ベレニス嬢、コラリー嬢の三人は戻って良い。処罰は追って連絡する」
裁判官がそう言うと彼女達は騎士の格好をした人達に連れられて法廷を後にした。
「次にディオン殿に対する誣告罪。ルナリア嬢に対する女性暴行未遂について審理を行う」




