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33 暴露


「アメリー嬢、貴女はアネット嬢の言い入れを無視してグラニエ公爵家の庇護下にあるルナリア嬢に手を出した。この事実に相違はありませんね」



裁判官が一度手元の資料に目を落としてアメリーへと視線を投げる。



「相違あります!私はルナリア様に手など出していません!それに、アネット様の言い入れ?何ですかそれは」

「発言を宜しいかしら」



アネット様が手を挙げて発言の許しを乞う。



「どうぞ。」

「アメリー嬢、わたくしは貴女達の教室で確かに言いましたわよね?ルナリアと仲良くして下さいと」

「そんな事聞いて──」

「パトリス殿下は覚えていらっしゃいますよね?彼の側近の方々も。公爵令嬢の頼みですもの。優秀なあなた方が公爵家の発言を言ったかどうかも覚えてない等と仰らないですわよね」



アネット様から凄い重圧感を感じるのは気の所為だろうか。




心做しか、殿下達の表情が引き攣っているようにも見える。



「も、勿論覚えている」

「そうですか、良かったですわ。覚えてないなんて言われましたらどうしてくれようかと思っていましたわ。安心致しました」



パトリス殿下の返答にアネット様はニコリと笑った。



アネット様は徐ろに扇子を取り出しソレを広げると口元を隠す。



それにより、より鋭い眼光が強調された。



「アメリー嬢が覚えている覚えてないに関わらずわたくしはきちんとお願い致しましたわ。それを、無視する行い…どういう了見かしら。バルテ子爵家はグラニエ家に不満、或いは仇なす気があると受け取っても宜しいのでしょうか。アメリー嬢?」

「そのような事はっ……」

「わたくしはアメリー嬢に聞いているのです。」



慌ててアメリーの両親が弁明しようと間に入るが、アネット様に一蹴される。



「確かに、アネット様はそう言われたかもしれませんけど私がいつルナリア様に手を出したと言うのですか!先程も言っているように私は手を出していません!言い掛かりはやめてください!」

「では、この方達に見覚えがありませんこと?裁判官、例の方々を呼んで頂けるかしら」

「オドレイ嬢、ベレニス嬢、コラリー嬢は前へ」



アネット様の指示に裁判官は頷き三人の令嬢の名前を呼んだ。




私達の前に連れて来られた令嬢は見覚えがあるご令嬢達だった。



生ゴミや怪文書を私の下駄箱に入れた令嬢達だ。





校舎裏で一悶着あって以来彼女達から手を出されることはなくなった。




クロードさんが助けてくれて、他人に訝しまれたから手を出しにくくなっていじめまがいなことがなくなったのだと思っていた。



「彼女達は貴女に頼まれてルナリアをいじめたと証言したわ」

「何かと思えば。こんな人達私は知りません!誰ですかこの人達は。アネット様こそ虚言はやめてください!」

「虚言かどうかは先ず、この三人に聞いてみましょうか」

「オドレイ嬢、ベレニス嬢、コラリー嬢貴女方が証言した事をもう一度此処で証言して頂けるかな」

「「「はい。」」」




裁判官の指示に三人は返事をして、証言台に立つ。




「私達は愚かにもルナリア様に反感を抱いていました。そこで、同じ子爵令嬢でもあり顔見知りだったアメリー様から接触がありました」

「わたくしはオドレイ様から話を持ち掛けられ愚かにも同意致しました」

「私もベレニスと同じで御座います。話を聞いて愚行を犯してしまいました」



ベレニス様とコラリー様はオドレイ様から。




オドレイ様はアメリー様からある話を持ち掛けられたと言う。




「オドレイ嬢、詳しく話して頂けますか」

「はい。私は分不相応にもグラニエ公爵家、デュフォー公爵家、クヴルール侯爵家、アギヨン伯爵家の侍女となる事に憧れていました。そんな中、平民となったルナリア様がディオン様の侍女になったという話を聞いて愚かにも嫉妬してしまいました」



彼女の発言に周囲からは、本当に分不相応だなどという非難の声が上がる。



「静粛に!」

「そんな時です。育成科に通う私の元にアメリー様が接触して来ました。彼女は言いました。今までパトリス殿下の婚約者としてちやほやされて来たのに平民に落とされてもグラニエ家の侍女として仕えるなんて自分の立場を解らせてあげたくはないかと。ディオン様はルナリア様に脅されて無理矢理侍女につけられて迷惑をしているのだと。」

「はあ?何言ってるのよ!私はそんな事言ってない!」

「アメリー嬢反論は後ほどお伺いします。今は口を挟まないで下さい。オドレイ嬢、続きをどうぞ。」

「ルナリア様からディオン様を助けるには彼女自身から侍女を辞めさせないといけないと言われました。ルナリア様を辞めさせるための方法を教わったのが下駄箱に生ゴミと怪文書を入れる事でした。その上、アメリー様からルナリア様を辞めさせることに成功したらエゾン様、ジェルマン様、エリク様に口聞きして私達が彼等の侍女になれるように推奨して下さると言われたので、目先の欲望の為に私達は取り返しのつかない過ちを冒してしまいました。」

「「「ルナリア様、申し訳御座いません」」」



三人は泣きながら私に向かって頭を下げた。




そんな事情があったなど全く持って知らなかった。




だけど、私には彼女達が悪いとは思えなかった。




何より、生ゴミが袋に入れられていた。



布製だから汁が溢れてはいたけど、直接入れなかったのは彼女達にも少しは罪悪感があったからだろう。



「あなた方の処罰はまた後程審議して報告致します。アメリー嬢、意見がありましたらどうぞ」

「意見も何もさっきから何なのよこれは!嘘ばっかりじゃない!裁判官っ、貴方さてはアネット様に買収されたわね!こんな、デタラメな裁判なんて信じられないわ」

「神を冒涜するような発言は慎んでください」

「は?神?」

「私達は教会より派遣された者。私は教会法博士を取得する者です。買収するもされるも神を冒涜する行為を私達は一切行いません。」

「裁判官、論題に戻りなさい」

「はっ、失礼致しました」



裁判長から窘めが入り、裁判官は居住まいを正す。



「では、エゾン殿、ジェルマン殿、エリク殿にお伺い致します。あなた方はアメリー嬢より侍女の選出もしくは推薦等は受けませんでしたか」

「侍女をとる気は無いかとは言われたが……」

「ちょっと、ジェルマン今の話聞いていたかい!?裁判官、私はそのような話は受けていません」

「僕も侍女に関する話は受けていません」




何というか……、ジェルマン様が盛大に自爆されたせいで今更取り繕ってもと思うが本人が違うという以上どうすることも出来ない。



裁判官も明らかに怪訝な表情をしている。



そこで、またも陛下が動いた。




「隠し事をする行為は神を冒涜する行為。よく考えて発言せよと儂は申したはずだが?もう一度聞く。神に誓い、そのような質疑が行われなかったのか儂の目を見て逸らすことなく答えよっ!」




陛下の重みのある声がビリビリと法廷内を揺らす。




「侍女に関する話を……」

「話を?エゾン、儂の目を見て答えよ」

「侍女をとる気が無いかという質問は受けました……」

「左様か。ならば次は、エリクだな。貴殿の発言に偽りはないな」

「申し……わけ、御座いません……。質問を受けました」

「はぁ、何とも情けない。仮にも王族の側近候補であるお前達が虚偽の申告をしたとは」

「「陛下、我が愚息が申し訳御座いません」」

「良い。お前達のせいではない。儂の愚息もそちら側にいるのが嘆かわしいだけだ」



エゾン様とエリク様の親も来ていたようで、高位貴族席で片足をついて平伏していた。



それを、手を振って制しパトリス殿下に目を向けるなり盛大な溜息を零した。




陛下や親達の行動に屈辱や恥辱に顔を赤くする面々。



「今後、虚言を吐くことは許さぬ。虚言である事が判明した場合更に罪が重くなる事を覚悟せよ。判決後、どんな結果となろうが嘘つきの異論は一切認めぬ!グラニエ姉弟、そして、ルナリア嬢貴殿等もだ。良いな」

『承知致しました』



陛下の言葉に頭部を下げて、受諾する。




これで、少なくとも殿下や側近達が嘘を吐けない状態にはなったことだろう。



「私は嘘を吐いていません」などと未だ言っているアメリーは現状を理解していなさそうではあるが。

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