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29 救出


生徒会室から空き教室はそう遠くない。



ディオンとコームは廊下を駆ける。



「コーム、何故ルナリアは学園に来た」

「エメ嬢がルナリア嬢はディオン様を心配して様子を見に来たと言っていました」

「くそっ…」



コームの報告を受けてディオンは拳を握る。




あの時、しっかりと説明していれば。



そう思わずにいられなかった。




自分が招いた不祥事とはいえ、ルナリアに今回の件を知られたくなかった。




だから、詳細を言わずに遠ざけた。




「その結果がこれか…」



自分の不甲斐なさに憤りが収まらない。




主人の変化に気付きその些細な変化をも把握し主人を支えるのが従者の務め。




アネットの侍女であれば、安易に原因を究明する事が出来ただろう。




彼女にはそれだけの知恵と能力、そして実行に移せるだけの力がある。




だけど、ルナリアにはまだどれも十分には備わっていない。




今のルナリアが侍女として出来ることは精々、身の回りの世話を任せられる程度でしかない。




従者が不十分であれば、それを主人があらゆる面でフォローする。




それが、主人の務めでもある。




今回はルナリアを不安にさせた自分にも責任がある。




そうディオンは考えていた。




「いやあぁぁぁあああ」




空き教室が並ぶ廊下に差し掛かった時。




一室から女性の叫び声が聞こえた。




「ルナリア!!」




叫び声はルナリアのものだった。




ディオンは全速力で駆ける。




向かいの廊下から複数人叫び声がした教室へと向かって走って来る姿が見えた。



「ブリス、クロード、エメ嬢っ!」




コームが三人の名前を呼ぶ。




コームが言っていたのは、彼等だったのかとディオンは瞬時に理解した。




二人ほど見知った男女の顔触れがある。




以前、二人ともルナリアと共にいた者達だ。




「くそっ、鍵がかかっている」




ディオン達よりも逸早く叫び声がした教室に辿り着いた初めて見る男がドアハンドルを引くも、中から施錠されているのか開かない様子だった。



「急いで開錠を」

「そんな時間はない。ブリス、強行突破するぞ」

「ああ!」



エメがピッキングの用意をするも棄却された。




クロードはブリスの肩を引いてドアから距離を取る。




ブリスも強行突破に同意を示せばクロードと共に距離を取る。



「行くぞっ」




クロードとブリスは勢いをつけてドアを蹴破る。




その頃にはディオンとコームも既に合流していた。




大きな音を立てて破損するドアに中にいた者達は動きを止めて唖然とする。



ディオン達は中の様子を瞬時に一巡する。




制服の下からシュミーズが覗くルナリア。




そんなルナリアに群がる複数の男達。




その様子を黙って見ていたのであろう殿下の側近達。




「な、何だ。」

「何だお前達は」

「ディオン!何故お前が此処に」




中にいた者達はディオン達の登場に瞠目する。




「貴様等…っ」



ルナリアの姿を見て頭に血が上るのが分かった。



ぶん殴りたい衝動を抑えて、先ずはルナリアの保護が最優先だとルナリアの元へと駆ける。




「おっと、行かせるかよ。アメリーと同じ目に合わせるまでは解放出来ん」




ディオンの目の前にジェルマンが立ち塞がる。




「貴方の相手は僕が致します。ディオン様はルナリア嬢を早く!」

「すまんっ」

「男女みたいな顔してこの俺と対峙するだと?分を弁えろ!!」

「顔は関係ないですよ。脳筋さん」

「ぶっ潰す!!」




ディオンとジェルマンの間に即座にコームが割り込みジェルマンと対峙する。



ジェルマンはコームの挑発に乗って腰に刺した剣を抜いた。





ブリスやクロードもルナリアに襲いかかっていた男達を次々と倒して行く。




逸早く、エメがルナリアの元に辿り着いているのが見えた。




「おっと、これから先は通す訳にはいけないな。エリクはルナリア嬢を連れて行け」

「分かった」



ディオンの前に立ち塞がるエゾンとエリク。



エゾンの言葉に頷いてエリクがルナリアの元へと向かう。



「やめろ!ルナリアに触るなっ」

「ははっ、随分と必死じゃないかディオン。何時も澄ましたお前がこれ程までに取り乱した姿を晒すとは。私は前々からお前の事が気に食わなかったんだ」

「エゾン。貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!」

「分かっているも何もそこの女と君がアメリーにした事と同じことをしているだけだよ」




エゾンは悪びれる様子も無く、薄ら笑いを浮かべてさも当然の如く答える。




「全体も見られないほどに盲目した人の典型的答えですね。真実に目を向けようともしないとは、王族の側近を務める者もさして大した事無いですね。寧ろ、低俗と嫌悪感すら覚える」

「何だと貴様!」

「お前はっ…」

「今のルナリア嬢には貴方が必要だ。早く行ってあげてください」




二人の間に介入したのはクロードだった。




ルナリアに襲いかかっていた男達は既に捕獲されブリスが拘束していた。



クロードはエゾンに蔑んだ目を向け睥睨する。



エゾンは貴族としての気位が高く、育成科の生徒に馬鹿にされた事に腹を立てて、懐に仕込んだ短剣を取り出す。




「……ありがとう」




ディオンはクロードの傍らを過ぎ去る際、小さな声で礼を言う。




ディオンは何となく気付いていた。




恐らく、クロードもルナリアに好意を寄せているであろうことを。




それでも、彼はディオンに花を持たせた。




これ以上誰にも、ルナリアには触れさせない。




エメとエリクが対峙する場へとディオンは急いだ。




「そこを退きなさい。僕を誰だと思っているのですか。そこを退かなければこの学園にいれなくしますよ」

「私が学園を辞めることになってもルナリアには近づけさせません」




近付くエリクに体術の構えを取るエメ。




「退くのはお前だよ」




エメに気を取られていたエリクの背後を取るディオン。




彼の後頭部に手を掛ければそのまま前に力を込める。




力のないエリクは後方からの抗力に抗うことが出来ずに顔面から床へとダイブする。




エリクは顔面を強打して文字通り床へと沈み伸びている。



「ルナリア、無事か?!」



ディオンはエメの後ろで放心しているルナリアの元へと駆け寄った。

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