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27 報復を受ける

※後半性的(?)不快描写がありますので十分御注意下さい。


東方の空が白み始め太陽が天辺を覗かせ始めた頃。



王都の方から馬に騎乗した一人の女が一つの馬車とすれ違う。



女は馬を方向転換させて馬車の後を追った。



「お嬢様、クロエです」

「おかえり、クロエ」



騎乗した女、クロエは馬車の戸を叩くとドアが開き馬車の中にいたアネットが彼女を迎え入れる。



「至急お嬢様にお伝えしたい事があり参上致しました」

「クロエが直接伝えにくるなんていい報告では無いことは確かね」



クロエは馬から馬車の中に飛び移り、アネットの向かいの席に腰を下ろす。



アネットの嫌味が含まれた言葉にクロエは眉尻を下げるも直ぐに気を取り直して、昨晩同僚から上がって来た報告を伝える。




「そう…。遂に動きがあったのね。はあーあ、折角王都に来たって言うのにお楽しみは当分御預けね」




アネットの王都へ来た目的は、個人的な用事であったのだが当分その用事は後回しになりそうな予感に盛大な溜息をつく。




「何処ぞのお馬鹿さん達をつい先日清掃したばかりだと言うのに…。一日二日で二家も取り潰したのよ。あまり派手に動き過ぎると私がお父様に怒られるっていうのに…」

「ですが、ここ迄用意周到に準備しておられたのです。お嬢様の利益になる事はありませんし動かれる必要性を感じませんが、見捨てる事はされないのでしょう?」

「あら、よく分かってるじゃない。不出来な弟を持つ姉も楽ではないわ~。まあ、私の可愛いルナリアちゃんの為に弟のケツをお姉様が確りと拭ってやるとしますか。念の為あの子にも保険をつけてて良かったわ」



アネットは言葉とは裏腹に口角を釣り上げ笑みを浮かべて取り出した紙に何かを書いていく。



「家印を押せないのが心配だけど…私のサインとキスマークでも付けてれば大丈夫よね。んーっちゅう」

「お嬢様…そこまでしなくとも私が届けに行くのですから王太子様や王太子妃様も疑いはしないかと思われますよ」

「あらそーお?」



クロエは呆れた溜息を零すが全てはあとの祭り。



書簡には赤々としたキスマークがサインの後ろに付けられていた。



その書簡を受け取ってクロエは再び一頭の馬に跨った。



「クロエ、御者に行先を騎士団の宿舎からグラニエ家に変更するように伝えて。貴女に連絡が来たということは大筋は王太子様達にも伝わっているはず。彼等への報告はほぼその書簡に纏めてはいるけど、何時かを聞かれたら早い方がいいわ。出来れば今日の夕方まで。無理そうなら明日までにお願いと伝えて頂戴」

「承知致しました」



クロエはアネットの指示に従い一足先に王都へと戻って行った。






#



私は今貴族の令息令嬢が通う学園に潜入中である。



「よし、誰も見てないよね」



校門に誰もいないことを確認して私は育成科の玄関へと駆け抜けた。




何故、自分が通う学園でこのようにスパイのような行動をしているのかというと。




昨日。



「遅くなっちゃった。ディオン様もう帰って来てるよね」



クロエさんと別れた私は急いで寮へと帰った。




思ったよりも帰りが遅くなってしまい、既にディオン様も帰って来てるものだと思ったのだが、ディオン様はまだ帰って来てはいなかった。



ディオン様が帰って来たのは私が帰寮してから大分経ってからだった。



「ディオン様、おかえりなさいませ」



帰りが遅いことを心配しつつも、疑問を飲み込みディオン様を出迎えた。



「ああ…」

「あの…お疲れのようですが如何されましたか?」



ディオン様は見るからに疲労した様子に心配になって尋ねた。




彼は、私に近寄り目の前に佇むと深い息を吐いて私の肩口に額を押し付ける。



その行動に動揺をするも、どう見ても何かあったのは明白。



「ディオ──」

「明日は登校しなくていい。学園には俺から連絡をしておく。」

「えっ、どういう……」



それだけ言うと彼は自室へと戻って行った。



その日一日、彼がメインルームに現れることはなかった。



そして今朝。



起床してメインルームに出るとテーブルの上に一枚の置き手紙が置かれ、既にディオン様の姿は無かった。



置き手紙には昨晩言われた学園には行かないようにと書かれていた。




「だけど、どう見てもディオン様の様子おかしかったし気になって来ちゃった…」




何だか酷く胸騒ぎがして落ち着かない。



学園では通常通り授業が行われ特に変わった様子は無い。




先ずは、教室に行って休み時間に遠目でもいいからディオン様の姿を確認出来ればこの胸騒ぎも収まるだろうと考えた。



「普通科に行く時はエメも誘って行こう」



普通科に主人がいるエメと一緒ならば私達が普通科の校舎を歩いていても特に気にされることは無いだろう。




私は、授業終了の鐘が鳴るのを待って教室へと向かった。




教室へと向かうと室内にいた生徒達が私の姿を見て一斉にざわめき出す。



「ルナリア!今日休みじゃなかったの」



エメが駆け寄ってくる。



「うん。そうだったんだけどね、大丈夫そうだから来ちゃった」

「今日はそのまま休んでれば良かったのに。今はまずいよ」



エメは焦った様子でこそこそと耳打ちをしてくる。



何がまずいのかと聞き返そうとした時。



「ルナリアさん。ちょっとよろしいかしら」

「え?あ、はい。」

「聞きたいことがありますの」



気の強そうな一人の女生徒が私達の元まで来て声をかける。




クラスでエメ以外の生徒から声を掛けられるなど滅多にない事だから驚いた。



「あの噂は本当ですの?」

「噂?」

「あら、ご存知ないのですか?貴女、ディオン様の侍女なのよね」

「えっと…」




要点が掴めずに首を傾げる。



女生徒の冷ややかな視線が突き刺さる。



「昨日。ディオン様がバルテ子爵のご令嬢を襲ったという噂が立っているのだけれど」

「えっ!?」



知らされた内容に目を見開く。



「そ、それってどういうことですか!?ディオン様が何故!何処からそんな噂が出たのですか!」

「わ、わたくしも知りません。だから真実を知りたくて貴女に聞いたのでしょう。ちょ、ちょっと揺らさないで」



私は思わず目の前の女生徒の肩を掴んで勢いよく揺さぶる。



昨夜のディオン様が疲労していた原因はこれかと思考が結び付く。



「そんな事、ディオン様がするわけありません!何かの間違えです」

「わ、わたくしだってディオン様がそのような事をされる方だとは思っていませんわ。ただ、全校生徒に知れ渡っているので心配して」




私が掴みかかった女生徒とは巻いた髪に指を絡めて、言いにくそうにしながらも私の言葉に同調する。



「…ご心配ありがとうございます」

「わたくしは貴女の心配ではなく、ディオン様を──」

「ええ、分かってます。我が主を信じて頂きありがとうございます」

「ふん!別に貴女の為じゃないわ。ディオン様にそのような不名誉な噂が広まったのが不愉快なだけよ。大体、ディオン様が子爵家程度の令嬢に手を出すなんてちょっと考えれば嘘だってわかることだわ」



噂よりもディオン様を信じてくれる人がいる。




その事が何よりも嬉しかった。




ディオン様はこの学園でパトリス殿下と人気を二分するほどの人気を誇っている。




他にも、噂が嘘だとディオン様を信じてくれる人は多いはず。




先ず、全校生徒に広まっているとはいえ、噂の沈静化を測り出処を確かめるのが最優先だ。



「エメ…」

「ルナリア、遠慮することないよ」



私はエメを振り返り言い淀む。



すると、エメは笑顔で私の肩に手を置いた。



既に言いたいことは分かっているとでも言うように。




「ありがとう。エメ、私と一緒にディオン様を助ける為に手伝ってくれない」

「もっちろん。親友の頼みとあらば手伝うに決まっているでしょ」



エメは親指を直立させてウインクをする。




本当に心強い親友だ。




「あ、あの…」



まだ、私達の近くにいた女生徒が声をかける。



「わたくしも、ディオン様の為に何か出来ることはないかしら!」



顔を真っ赤に染めて如何にも勇気を振り絞って声を掛けたのであろう姿に思わず笑みが零れる。



「リサ様ありがとうございます。では、リサ様は噂の出処を捜索して頂けますか?」

「わかったわ」



ブロンドの髪を縦ロールにしたこの女生徒は、合同授業で同じ班になった伯爵家の四女で育成科のトップクラスに入る人物だ。



彼女が味方につくならば心強い。



噂の出処など今日中に調べ上げてくれるだろう。




「エメは私と一緒に普通科に来てくれる?」

「うん。だけど、その前にリシャール様にも報告していいかな?もしかしたら手を貸して下さるかもしれないし」

「分かった。私も心強いよ」




後は、コームさんの力が得られれば心強いのだが。



そうこう考えている間にも次の授業の開始を知らせる鐘が鳴る。



この授業が終われば昼休みだ。




授業が終わり昼休みに入ると私とエメは教室で少し話し合った後、コームさん達がいる教室へと向かう。




すると、階段から登って来たある人物と遭遇して私達の動きが止まった。




如何して彼等が此処に……



動揺に顔を顰める。



目の前に立ち塞がったのはパトリス殿下の側近達だった。



「丁度良かったルナリア嬢に会えたな」

「何処かに行く所だったのでしょうか。すれ違いにならなくて良かったですよ」

「何でもいいから早く連れて行こうぜ」



彼等が殿下やアメリーを傍を離れるなんて珍しい。



それに私を探していた?




何だか凄く嫌な予感がする。



思わず私は後退った。



すると、チャラそうな外見をした男が私の手首を掴んで止める。



「おっと、逃げられたら困るな。ルナリア嬢、ちょっと話があるんだ。私達についてきてくれないか?」




エゾン・デュフォーは何人もの女性を虜にしてきた笑顔を惜しげも無く振り撒く。



「嫌…です」

「ん?よく聞こえないなぁ。まさか平民の君が高位貴族である私達の誘いを断るわけないよね」

「ディオン様の許可が無い限り男性からのお誘いはお断りするように言われておりますので…」




本当はそんな事言われてないけど、あんな噂が立っている中アメリーの傍を離れて三人で私の元に来るなど何かあるとでもいっているようなものだ。



確信は無いが、私の中の警報がそう鳴らしていた。




「そのディオンが今どうしているのか気になりませんか?ディオンは今殿下とお話中です。そこで貴女を話し合いの場に案内するだけなのでそこまで警戒さしないで下さい」



エリク・アギヨンが警戒する私の傍まで寄る。



「ディオンは今僕達の手中にいます。彼を助けたいなら大人しく僕達についてきてください」



そう、耳打ちした。



これは脅迫だ。



ディオン様がこんな者達に何かされるとも後れを取るとも考えられないが、今ディオン様がどういう状況にあるのか分からない以上下手に抵抗するのは利口とは言えない。



「分かりました」



私は彼らについて行くことを決めた。



「ルナリア!」

「エメ。大丈夫、ディオン様の無事を確認したら直ぐに戻るから」



心配するエメに笑顔で答えて、側近達について行く。



両脇にはエリク様とエゾン様が。



背後には騎士団三番隊隊長の息子で体格のいいジェルマン・クヴルールが私の周りを囲った。




普通科の廊下を進み徐々に人気のない場所へと向かう。




「何処に向かわれているのですか?」



この先にあるのはあまり使われることの無い教室が並んでいるだけだ。




「いいから黙って歩け」



不審に思った私が尋ねると背後にいたジェルマン様に押される。



「わたくしやはり戻ります。」



踵を返して育成科に戻ろうとすると、ジェルマン様に抱え上げられ肩に担がれる。




「手こずらせるんじゃねーよ」

「イヤっ、離してっ!」

「暴れるなっ」

「ジェルマン野暮な言い方になるのも分かるけど怒鳴るのはやめてくれよ。こっちの鼓膜までいかれるだろ」

「もう着きましたので安心して下さい」




エリク様の言葉に背後を振り返る。



側近達はある教室の一室に入るとドアを閉め施錠する。



ジェルマン様に教卓の前で降ろされ後退る。



「うっわ、マジだ。ルナリア嬢だ」

「えっ、本当に?本当にいいんだよな」

「あの高嶺の花が目の前にいるなんて」

「やべー。夢みたいだ」



中にいたのは複数の男達だった。



男達は興奮した様子で迫って来る。



「嫌っ、何…来ないで」



恐怖に足が竦む。



「おっと、逃げないでよルナリア嬢」



逃げようと駆け出したドアの前にエゾン様が立ち塞がる。



「出して下さい。何故このような事をするのですか!」

「何故だと…?報復に決まってるだろ」



エゾン様の声がワントーン下がり私を見下ろす。



「報復…?」

「貴女は以前アメリーをならず者に襲わせた経歴もありますし、昨日貴女の主人であるディオンにアメリーは襲われたんですよ」

「アメリーが泣いていた。それだけでも万死に値する」

「わたくしはそんな事やっていませんし、ディオン様もそんな事しませんわ!」

「はっ、今更違うと言われても信じられないな。ならば何故、疑われた時に否定しなかった。それに、アメリーがディオンに襲われて胸を肌けさせた状態で部屋から飛び出して来るのをこの目で見たんだ」



何を言ったところでこの者達は私の言葉に耳を傾けることは無い。



彼等の蔑んだ冷徹な瞳が如実にそう語っていた。




「アメリーと同じ苦しみを味わわせてやる」



ジェルマン様に男達の元へと押し飛ばされる。



私に向かって無数の手が伸びる。




「イヤっ、やめて。やだ…嫌だ。こっちに来ないで」



無数の手が制服を掴み引きちぎる。




怖い…怖い…怖い…



たすけて




「いやあぁぁぁあああ」




叫び声が人気のない廊下にまで谺した。




ご不快に思われた方がいらっしゃいましたら誠に申し訳ございません。

次回から断罪編に入ります。完膚無きまでに叩きのめします。

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