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15 いじめ再開


ディオン様と別れて育成科の玄関へと向かう。



下駄箱を開けた瞬間漂う腐敗臭。



「うっ…」



私は慌てて下駄箱の蓋を閉じた。



「えほっ…何…コレ…」



篭っていた腐敗臭が直撃して目に染みた。



恐る恐る、ゆっくりと再び蓋を開けた。



中には袋には入れられているものの、袋の口が開いたままになっている生ゴミが置かれていた。



私はその袋を下駄箱から取り出して口を縛る。




袋を取り出した時に、パサリと一枚の紙が落ちた。




それを拾って紙を広げる。




《ディオン様の侍女を辞めろ》



そう書かれていた。



「何と稚拙な…」



私は一つ息を吐いて踵を返して外に出た。




そのまま焼却炉へと向かう。



校舎の角を曲がると育成科の制服を着た三人の女生徒が屯していた。




三人は私の姿を認めると道を塞いだ。




「あの…申し訳ございません。そこを通して頂けませんか…」

「ルナリアさん。わたくし達からのプレゼント受け取ってくれたかしら?」

「あ、ちゃんと持ってるじゃない。」

「折角準備した私達のプレゼント何処に持って行くつもりですの?」



やり方は稚拙だが、犯人が分からないようにしている分には評価していた。



アネット様の牽制あっても、こんな事をするとは度胸があるなと。



それ程までに私がディオン様付きの侍女になったのが許せなかったのだと思ったけど。



ただ、育成科にまではアネット様の牽制も届いていなかっただけのようだ。



「そこを通して下さい」



私は彼女達の言葉には取り合わず、再び道を開けてもらえるように頼む。



「何無視してるのよ!」

「平民の分際でっ!」

「貴女なんかディオン様に相応しくないわ!」

「わたくしはディオン様お一人では無く、グラニエ家に仕える身です。グラニエ家の命によりディオン様の身の回りの世話をさせて頂いているだけでございます」




私の言葉に三人は一瞬怯んだが、これも集団心理だろうか。



一人じゃ無ければ、何でも出来る気になるのは人間の性。



「何か弱みでも握って脅しているんでしょ」

「本当。性悪な女性だわ」

「パトリス殿下も婚約を破棄なされて正解でしたわね」

「そこを通して下さい」



私は無表情で先程言った言葉を繰り返した。



「貴女達のせいで授業に遅れてしまいます」

「このっ!」



私の言葉に頭に血が登った女生徒が手を振り上げる。



ビンタ一発で飽きてどこかへ行ってくれるなら僥倖だと甘んじて受ける事にした。



だが、その女生徒が振り上げた手は私の頬に届く寸前で止まった。




「何を…している」



背後から伸びた手が女生徒の手を掴み止めている。



すぐ背後に人の気配と男性の声がして首だけ動かして振り返った。



そこに居たのは、




「クロードさん…?」




黒い髪と金の瞳をした男性が立っていた。



「な、何ですの貴方!」

「俺?俺はクロードと申します。以後、お見知り置きを。麗しきレディ達」



クロードさんは掴んだ女生徒の手を握り直して、以前私との挨拶でしたように女生徒の指先に軽くキスをした。



「この美しく綺麗な手が痛まなくてよかった。それに、貴女達のような麗しい女性には笑顔が似合う」



クロードさんは手を握った女生徒の前に立つとその女生徒の髪を片耳に掛けて、逆の手で顎を持ち上げる。



女生徒は眼前に立つクロードさんに完全に意識を持っていかれている。



しかも、顎を持ち上げられた瞬間沸騰でもしたように肌が赤くなった。



「おっと、危ない。大丈夫ですか。麗しきレディ」



女生徒はとうとう腰が砕けた様子。



後方に倒れそうになるのをクロードさんが抱き留める。




それにしてもサマになる。




流石乙女ゲームの世界。




令嬢も割と美人が多いが男も同様にイケメンが多い。



その中でも、ヒロインや攻略対象者は突出しているが。



「ちょ、ちょっと。貴女大丈夫ですの」

「きょ、今日はこの辺りで勘弁してあげるわ」



残り二人の女生徒が腰が砕けた女生徒を介抱して校舎へと帰って行った。



その場に残された私とクロードさん。




「助けて頂きありがとうございました」



クロードさんに向けて頭を下げる。



手に持っていた生ゴミと怪文書は既に鞄の中にしまってある。




「玄関から校舎裏に出て行くルナリア嬢が見えたから後を追ったんだが。後を付けて正解だったな」

「本当に助かりました」

「それで、ルナリア嬢はさっきの女生徒達に呼び出しでもされて此処に来たのか?」

「いえ。私は…少し散歩をしたくなっただけですわ」

「それは、唐突だな」

「ええ。困ったことに唐突にそういう気分になる時もあるんですよ。ですが、もうそろそろ教室に向かわないと授業に遅れますので教室へ向かいましょうか」



生ゴミと怪文書を処分し損ねたが仕方ない。



休み時間か放課後、生徒会室に向かう前に処分すれば問題無いだろうと結論付けてクロードさんに教室に行くことを促す。



何故だかクロードさんの視線がずっと私に向けられていたが、気付かない振りをして教室へと向かう。





「教室まで送って下さりありがとうございました」




教室の前に着いた私はクロードさんに頭を下げる。



「いや、いいよ。通り道だし」



クロードさんはそう言って自分の教室へと向かった。



本当は彼のクラスがある場所は別の階段から向かった方が近い。



それなのに、私の教室に近い階段を使って送ってくれたのだ。



流石、育成科の生徒なだけあって気配りが上手い人だなと思った。




「おはよう。ルナリア。で?」

「おはよう。エメ。で、とは?」



教室に入るなり隣の席のエメに詰め寄られる。



問い掛けの意図が分からず首を傾げた。



「何で、クロードと一緒なの?昨日の今日でいつの間に一緒に登校する仲になったのよ」

「ああ、そのこと。エメが勘ぐっているような事は何も無いよ。たまたま下で会って送ってくれただけ」



微苦笑を浮かべてそう言うと、エメは「な~んだ」とつまらなそうに乗り出していた身体を椅子に下ろした。

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