1月5日 - 恋文 -
あまり役立てていない勉強机に、珍しく姿勢を正して向き合っていた。
机の上には、甘すぎない雰囲気の、桃のように白から淡いピンクのグラデーションが地の便箋。
宛名だけが左上に丸っこい自分の字で踊っている。
じっと便箋を睨んでいると、宛名のバランスが悪いような気がして、ため息をついて便箋をクシャクシャに丸めて捨てる。
OPP袋の糊を慎重にめくり、新しい便箋を取り出して、さっきまでと同じ場所に置く。無駄に畏まった姿勢で、姉の部屋からこっそり拝借してきた万年筆を滑らせる。
使いなれない万年筆は思わぬところに滲みを作るので、いつもより字を書くのに緊張を強いる。お気に入りの色ペンにしようと思っていたのだが、年賀状に一筆入れていた姉の姿がカッコよくて、良い文面が書けそうに思えたのだ。ほんのり青味を帯びた暗い色のインクも、大人な雰囲気で何かイイ。
今度は、少し満足のいく宛名が書けた。
さて、次は書き出しだ。「こんにちは」だと、何時に読むか分からないので滑稽だろう。かと言って「拝啓」はもっと違う気がする。時節の挨拶は、この場合もいるのだろうか。一体、世の恋する女の子たちはどんな風に書いているのだろう。テンプレートが切実に欲しい。そのままは使えなくとも、「こんな風にするといいよ!」的なテンプレート文を集めたサイトとかないものか。
――――いやいや、こういうものは自分で考えないと。他力本願はダメだ!
とっちらかる思考をまとめようと、姿勢だけは崩さずに、天井を仰ぐ。
自分の気持ちをストレートに書くと、「好きです。付き合ってください」だけだ。
いやしかし、相手の気持ちがわからない状態で、お付き合いを求めた文章を送ってしまっても良いのだろうか。なんて自信満々なんだとか引かれたりしないものなんだろうか。というか、それだけだと便箋じゃなくても小さいメッセージカードだけで納まってしまう。
いつからどれだけの想いを募らせていたかを切々と書くのだろうか。
いや、それは恥ずかしすぎるだろう。私が羞恥で死んでしまいそうだ。それに、便箋1、2枚に収まるとは思えない。「重すぎるのはちょっと……」なんてお断りされたら、一生立ち直れる気がしない。
考えれば考えるほど、深みにはまって全くまとまらない。
(そもそも、何でラブレターなんて書こうと思いたったんだっけ?)
カップから立ち昇る湯気のように、ゆらゆらと温まっていた想いから唐突に正気に戻った。
そっと頬に手をやると、いつもよりほんのり熱い。手と頬に挟まれた万年筆の、金属独特のひんやり感が気持ちいい。
あれ? もしかして私、熱でもあるのかな?
××× ××× ×××
測ってみると、37.7℃あった。冬休みの宿題は明日やることとする。
いつもよりちょっと早いけど、今日はもう寝よう。