1月30日 - 受験 -
結局、熱は下がらないまま受験当日を迎えた。
インフルエンザではなかったので、マスク完備で厚着をして挑む。ただ、微熱とは言い難い体温ではあったので、受験校が遠いこともあり、念のため姉が付き添ってくれることになった。
口元までマフラーでぐるぐる巻きされ、姉の愛車に放り込まれる。
運転手は母だ。私たちを駅に置いて、今日はそのまま車で出勤するそうだ。
「無理はしないように頑張ってきなさい。お姉ちゃん、りや子を頼むわね」
母は心配そうに改札まで見送ってくれる。ホームから手を振って、電車に乗り込む。
通勤通学の時間帯より少し早目の時間に出たのだが、思いの外人が多かった。乗り換え駅から座れるかを心配したが、何とか姉が2人分の座るスペースを確保してくれ、並んで座る。
「起こしてあげるから、辛かったら寝てていいよ」
文庫本を取り出しながら、姉は肩をポンポンと叩く。辛くはなかったが、朝が早かったのでありがたく肩を借りた。
電車の揺れに身を任せているうちに、意識が遠のいた。
肩を揺さぶられ目を覚ますと、つい先日来たばかりの駅だった。
同じ受験生なのか、いろんな制服の男女がホームに流れていく。付き添いがいる子もちらほらいた。大学は知る人ぞ知る全国区の学校らしいので遠方からの受験生か、私のように体調が悪いかのどちらかだろう。
姉に促されて、受験生の群れに混ざって改札を抜ける。
先日とは打って変わって、今日は人の流れができていた。流れに合わせて足を動かす。時折、姉が心配そうに声をかけてくれ、何とか高校の玄関まで辿りつく。
「とりあえず回答欄を埋めてきなさい」
推薦なんだし0点じゃなければ何とかなるでしょ、と励ましなのか良く分からない言葉を残して、姉は保護者待機用の教室へと案内されていった。
受験番号によって割り振られた教室へ向かう。
机に貼られた番号を確認して、席に着く。身体のだるさを感じていたが、気を紛らわせるために参考書を開始時間までひたすら読んだ。
試験が始まってから終わるまで、回答欄を埋めることに躍起になった以外の記憶はない。問題が理解できていたかも妖しいものだが、問題用紙の方に答えらしきものが書き込んであったので、自動反射的に解いていったものと思うことにした。
ペーパーは3科目で午前中に全部終わった。
(面接をこなせば、あとは帰るだけだ)
持たされた弁当は半分だけ手をつけ、薬を飲んだ後は、面接の始まる時間まで寝ていようと、グデっと机に倒れ込んだ。
ウトウトとしかけたところでチャイムが鳴った。試験監督の先生が教壇に立ち、面接の流れを説明する。順番に呼ばれるので静かに待つようにとの注意があったが、受験しにきて騒ぐ人間は流石におらず、同じ中学から受けに来たらしき同じ制服を着た者同士がコソっと言葉を交わすくらいだ。
次々と名前を呼ばれては、人が減っていく。
もうすぐ自分の番だと構えていると、背中を突かれた。
首を捻って後ろを見る。
「体調悪そうだけど大丈夫?」
心配そうにこちらを見ているのは、知らない顔だ。知らない人にまで気掛けられてしまった。
「大丈夫。面接終わったら帰れるから」
声を潜めながらそう返すと、彼は苦笑する。
「……それ、大丈夫って言わない気がするけど」
そこまで顔色が悪いのだろうか。頬に手を添えて首を傾げていると、また新しい名前が呼ばれた。
後ろの彼が立ちあがる。
「それじゃ、また春に」
もう受かったものとして言う彼に、思わず笑ってしまった。
××× ××× ×××
面接も何を聞かれたかは全く覚えがない。
親切な彼の記憶なんてものもない。




