1月22日 - 転寝 -
窓際の席は寒かったり暑かったりと、色々厄介だったりするが、競争率が高い。
前後左右の四方に誰かが居る席より、一方だけでも誰もいない空間がある席が良いのだろう。
しかし、廊下側の席も同じ条件であるのにあまり人気がないことを思うと、『窓』が良いのだと思う。硝子1枚隔てて、そこに外の空気があると言うのが、校舎に詰められている身にとっては魅かれてしまうポイントだと思っている。
そして、今のように少し授業から逃避して、物思いにも浸りやすいのも良い。運が悪いと、教師に見つかって当てられてしまうので、気は抜けないのが玉に傷ではあるが。
今日は殊の外天気が良い。
風もない。
こういう日は、硝子1枚隔てた教室の中はとても温い。
ポカポカと差し込む陽気、5時間目、カツカツと一定のリズムで黒板を打つチョークの音、数学教師が紡ぐ念仏――のような授業。
夢への扉を叩くに充分の要素が揃っている。
襲い来る眠気と戦っていると、前の席の頭が舟を漕ぎ始める。
(ああ、うん。だよね)
わかる、わかるよ――心の中で頷きながら、こっくりこっくり動く頭を見守る。
よくよく教室内を観察すると、窓際に近い隣の列でも揺れている頭がいくつかある。
しかも、斜め前の学ラン君は、教科書を立ててその陰で堂々と突っ伏してしまっている。
(漫画かよ……)
あれって教壇から見たらバレバレなんじゃなかろうか、今度誰かに手伝ってもらって確認しようかと、彼の呼吸に合わせて動く肩を眺めながら、どうでもいい計画を練る。
窓際2列――少なくとも私より前は――全滅になりかかっても、黒板に向かっている数学教師は気付かず、相変わらずカツカツとビートを刻む。
(テスト直前の緊張感も何もないな……)
明日から1日目が始まると言うのに、眠り込んでいたり、舟を漕いでいて良いのだろうか。お前ら受験生だろ――? まあ、自分も眠気に誘われていたので、人のこと言えた義理ではないのだが。
ゆらゆら揺れている頭が、次々に撃沈していく。
爺ちゃん先生の低く抑揚のない声の破壊力に感心しながら、再び襲ってきた眠気に抗う。ただ、撃沈仲間に入るのも時間の問題だ。
(それにしても、よく眠ってるな)
斜め前の彼は、先程の姿勢から変わっていない。上下する肩もそのままだ。
じっと見ていると、自分の呼吸までその動きに巻き込まれていく。
ヤバい、と思いつつ夢の淵に引き込まれていく感覚には覚えがある。
(恨むぞ君。そんなに気持よさげに寝ないでくれ――……)
この後、数学教師に一喝されるまで、記憶が途切れた。
××× ××× ×××
みんなで寝れば怖くない、なんてできたら苦労しないんだけどな。
良い眠気覚ましの方法はないものか。