表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
望月りや子の妄想日記  作者: こたつの蜜柑
19/31

1月21日 - 風呂 -

 この時期、脱衣所は少々地獄である。

 姉が帰ってくる時間に合わせてお風呂に入ろうとすると、日付が過ぎている頃になる。それ故に、非常に寒い。

 足を踏み入れた脱衣所の寒さに戦き、身体が震える。

 ため息をつきながら一旦撤退して、納戸からセラミックヒーターを持ち出し、脱衣所の物が置いていない隅の方に設置する。

 スイッチを入れ、とりあえずセラミックヒーターの前で着衣を脱ぎ、浴室に逃げ込む。

 浴室に入った一瞬は暖かく感じたが、脱衣所よりはマシ、と言うくらいでやはり寒い。

 洗面器で風呂桶からお湯をすくう。手の湯に触れた部分が、ジンと痺れる。今日は本当に寒いようだ。いつもと変わらない温度でも、熱く感じる。

 恐る恐る、ゆっくりと足先から湯をかけていく。じんわりと、足先から強張っていた身体が解れていく。

 頭から順に、顔、身体と洗って、やっと風呂桶に身体を浸す。

 足を伸ばして肩まで浸かる。じわっと手足の先から、身体の芯へ、熱が伝わっていく感じがして、ほわっと息をつく。

 身体が浮く程は広くない風呂桶なので、伸ばすと言っても途中で軽く膝を折る形になる。それでも、何か解き放たれるような充足感がある。

 やはり、一番風呂は気持ちが良い。

 夜遅くまで働いて帰ってくる母や姉――父は転勤族なので、今は単身赴任中で遠方の地だ――より先に一番風呂をもらうのは申し訳ない気もするが、「早く入っておけ」と言うのに甘えて、この気持ちよさを独り占めさせてもらっている。

 今日は、先程母が帰ってきたばかりで、姉はもう少しで帰るとメッセージが飛んできただけで、まだ帰ってきていない。こんな遅くまで働く生活は大変だと思うが、母も姉も「疲れる」とは言うものの、特に愚痴などは聞いたことがない。もしかすると、私がまだ中学生なので言ってもわかってもらえないだろうと、母と姉だけの間で愚痴が行きかっているのかもしれないが。

 将来、自分も同じように働くとしたら――と考えてみたところで、「嫌だな」と思うだけで、全く想像できない。考えても解らないものは、ひとまず横に置いとくとして、将来そうなった時に母や姉に話を聞いてみたいと思う。

 時たまに手で湯を掻いて、ゆらゆらと揺れる湯に身任せる。

 湿気に満ちた空気が、乾燥で傷んだ咽喉に優しい。詰まり気味の鼻も次第に、通ってくる。

 少し冷めると追い炊きをかけ、手に皺ができ始める頃には身体全体が温まってきた。

(湯が冷める前に出よう)

 風呂桶の縁に手をかけて、ゆっくりと身体を起こす。内側から熱を帯びている肌に冷たい空気が触れて、それが少し心地いい。

 洗い場に立つと、滴が身体を伝って水たまりを作る。

 折戸を開けて、掛けてあったバスタオルを引っ張り込む。開け放した扉から、脱衣所の空気が入ってくる。まだ暖まりきらない空気は、入浴前よりはマシになっていたが、浴室よりは確実に冷たい。身体に纏わりつく水分が空気に冷やされて、温まった身体から熱を奪おうとする。

 手早く身体を拭い、脱衣所で寝間着を着る。冷えた布が、また身体の熱を奪う。

(こりゃいかん)

 慌ててリビングを通りぬけ、母におざなりに「おやすみ」と言う。

 自分の部屋まで、冷えた廊下、階段、次々と熱を奪おうとするものから逃げ、ベッドに潜り込む。

「っひゃ!」

 最後の敵は、冷えた布団だった。


××× ××× ×××


 早く寝たい。ぬくぬくのお布団で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ