1月21日 - 風呂 -
この時期、脱衣所は少々地獄である。
姉が帰ってくる時間に合わせてお風呂に入ろうとすると、日付が過ぎている頃になる。それ故に、非常に寒い。
足を踏み入れた脱衣所の寒さに戦き、身体が震える。
ため息をつきながら一旦撤退して、納戸からセラミックヒーターを持ち出し、脱衣所の物が置いていない隅の方に設置する。
スイッチを入れ、とりあえずセラミックヒーターの前で着衣を脱ぎ、浴室に逃げ込む。
浴室に入った一瞬は暖かく感じたが、脱衣所よりはマシ、と言うくらいでやはり寒い。
洗面器で風呂桶からお湯をすくう。手の湯に触れた部分が、ジンと痺れる。今日は本当に寒いようだ。いつもと変わらない温度でも、熱く感じる。
恐る恐る、ゆっくりと足先から湯をかけていく。じんわりと、足先から強張っていた身体が解れていく。
頭から順に、顔、身体と洗って、やっと風呂桶に身体を浸す。
足を伸ばして肩まで浸かる。じわっと手足の先から、身体の芯へ、熱が伝わっていく感じがして、ほわっと息をつく。
身体が浮く程は広くない風呂桶なので、伸ばすと言っても途中で軽く膝を折る形になる。それでも、何か解き放たれるような充足感がある。
やはり、一番風呂は気持ちが良い。
夜遅くまで働いて帰ってくる母や姉――父は転勤族なので、今は単身赴任中で遠方の地だ――より先に一番風呂をもらうのは申し訳ない気もするが、「早く入っておけ」と言うのに甘えて、この気持ちよさを独り占めさせてもらっている。
今日は、先程母が帰ってきたばかりで、姉はもう少しで帰るとメッセージが飛んできただけで、まだ帰ってきていない。こんな遅くまで働く生活は大変だと思うが、母も姉も「疲れる」とは言うものの、特に愚痴などは聞いたことがない。もしかすると、私がまだ中学生なので言ってもわかってもらえないだろうと、母と姉だけの間で愚痴が行きかっているのかもしれないが。
将来、自分も同じように働くとしたら――と考えてみたところで、「嫌だな」と思うだけで、全く想像できない。考えても解らないものは、ひとまず横に置いとくとして、将来そうなった時に母や姉に話を聞いてみたいと思う。
時たまに手で湯を掻いて、ゆらゆらと揺れる湯に身任せる。
湿気に満ちた空気が、乾燥で傷んだ咽喉に優しい。詰まり気味の鼻も次第に、通ってくる。
少し冷めると追い炊きをかけ、手に皺ができ始める頃には身体全体が温まってきた。
(湯が冷める前に出よう)
風呂桶の縁に手をかけて、ゆっくりと身体を起こす。内側から熱を帯びている肌に冷たい空気が触れて、それが少し心地いい。
洗い場に立つと、滴が身体を伝って水たまりを作る。
折戸を開けて、掛けてあったバスタオルを引っ張り込む。開け放した扉から、脱衣所の空気が入ってくる。まだ暖まりきらない空気は、入浴前よりはマシになっていたが、浴室よりは確実に冷たい。身体に纏わりつく水分が空気に冷やされて、温まった身体から熱を奪おうとする。
手早く身体を拭い、脱衣所で寝間着を着る。冷えた布が、また身体の熱を奪う。
(こりゃいかん)
慌ててリビングを通りぬけ、母におざなりに「おやすみ」と言う。
自分の部屋まで、冷えた廊下、階段、次々と熱を奪おうとするものから逃げ、ベッドに潜り込む。
「っひゃ!」
最後の敵は、冷えた布団だった。
××× ××× ×××
早く寝たい。ぬくぬくのお布団で。