1月19日 - 対立 -
人には好みがある。
たとえ家族であっても、同じものを好むとは限らない。それが他人なら余計にそうである。
色や身の回りのもの、服装くらいならばまだいい、共用で導入する時に多少協議が必要になるだけだ。気をつけねばならないのは、食の好みがすれ違った場合だ。モノによっては相容れず、平行線を辿り、深い溝を作ってしまう危険を孕む。
小学校が同じだった部活仲間で、珍しくテスト対策勉強会なるものを開くことになった。そこで、休憩用にお菓子と飲み物を持ち寄ることになり、お菓子班として買い出しをしている最中のことだ。
カゴにはすでに、どこが休憩用だ? と突っ込まれそうな量の袋菓子が放り込まれている。塩気の菓子が多くなったので、甘い物も選ぼうとチョコレート菓子棚の前に来た時にそれは起こった。
「きのこっしょ?」
「いや、断然たけのこだろ」
私と彼は別々の箱菓子を指差した。
それぞれ、定番のチョコレート菓子であり、同じメーカーが販売している姉妹商品である。
「いやいや、きのこだって」
「バカ言え。この間総選挙やって、たけのこが勝っただろ」
堂々とパッケージに「勝利」と書かれている部分を指差し、彼はそう主張する。一方、私の指差すパッケージには「敗北」と「おわびキャンペーン」なる文字が踊っている。
「やかましい。僅差だったじゃない」
「僅差でも、勝ちは勝ちだろ」
お互い一歩も引かず、棚の前でにらみ合う。
「わかった、勝ちは勝ちと認める。でも、勉強しながら食べるなら、手が汚れにくいきのこでしょ」
固めの歯ごたえのあるクッキーのきのこに対して、たけのこはザクっとした食感のクラッカーで少々クラッカー部分が粉っぽくなる。
「いや、たけのこだって手は汚れないだろ」
「クラッカーの粉が手に付くじゃない」
「そんなの舐めれば問題なって」
「いやいやいや、ノート上とかに粉落ちたら嫌だし」
油分の多いクラッカーの粉は、紙の上に落ちて放っておくと油の跡ができてしまう。そう主張してみるが、「そんなの気にしてたら、カゴの中の菓子全部アウトだぞ」とカウンターをくらってしまった。確かに、『油分を含んだ食べカスの危険』は殆どの袋菓子にも当てはまる。
「……ぬぅ」
反論する要素が尽きてしまって、押し黙る。そう。好みなだけであって、きのこもたけのこも美味しいのだ。否定する要素など殆どなく、強固に主張するのであれば、最終的に「だってこっちのが好きなんだもん」となるのだ。ただ、最終的な主張に入ると、もう後に引けない。これからみんなで集まろうって時に泥沼な展開に持ち込むのはダメだと、己に言い聞かす。
しばし無言でにらみ合っていたが、ふいに彼が肩の力を抜いた。
「なあ、両方買えばいいんじゃないか?」
「それナイス」
ガシっと握手を交わした後、それぞれ自分の押しの箱菓子を手に取り、カゴに放り込んだ。
××× ××× ×××
どっちも美味しい。
これは永遠の課題なのではないのだろうか。