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望月りや子の妄想日記  作者: こたつの蜜柑
16/31

1月18日 - 金曜日 -

 金曜日午後、教室全体が少し浮つく。

 特に、2学期以降――部活動を引退した後から特に顕著になった。

 給食の後、掃除と5~6限の授業が終われば、部活もなくそのまま土日に突入だからだ。

 中学3年ともなれば、塾に行ったり、親からの「受験勉強」攻撃にあっていたりするとは思うが、丸々2日の自由時間が待っていると思うと、心浮き立つのも仕方がない。

 しかし、学年末テスト直前の今日は、ピリピリした雰囲気が勝っている。いつも通りフワフワしているのは私学推薦組と、志望校ラインを上げるのを諦めた者たちだけだろう。


 授業が終わり、とたんに教室が騒がしくなる。担任が諦めたように、お決まりの注意事項をボソボソと告げる。

「起立! 礼っ」

 日直の号令で、ザッと全員が起立して礼をする。

 そのまま担任の退場を待たずに、ガタガタと一斉に帰り出す。

 いつも通り、楽器のケースを持って職員室に寄り被服室の鍵を借りて、3階に向けて移動を始める。3年生は学年末テストだが、それ以外の学年は通常授業だ。

 3階への階段に足を掛けたところで声を掛けられた。

「あれ。望月、帰んないの?」

 振り返ると、元吹奏楽部でトロンボーンパートの男子だった。

 適当に行き先を誤魔化そうと口を開きかけた時、彼は目ざとく楽器ケースを見つけてしまった。

「引退したのに、まだ部に顔出してるのかよ……」

 状況を察して呆れた目を向けて来る。確か、彼は公立受験組だ。この時期、部活に顔を出すなんて酔狂だとでも、思っているのだろう。

「少しだけだよ。槌田つちだセンセに部屋借りてるから、後輩たちの邪魔はしてないよ」

「そうじゃなくて、今テスト期間だろー?」

 鍵を振り振り自主練習をアピールしてみたが、さらにジト目で現実を突きつけて来る。

「まあ、気楽な私学推薦組だからね」

 自嘲気味に肩をすくめると、一転して羨ましそうにこちらを見て来る。

「ああ、そっか。ったく、ずりーなぁ」

 その声が実に切なく響くので、少し悪い気がしてしまった。

 まあテスト前くらいは、他の皆と同じように勉強をするのが正しい姿だろう。

「じゃあ、学生の本分に戻って、今日は大人しくテスト勉強しに帰るとするよ」

 そう言いながら、3階に向かって上がっていく。

「おい、言ってることと行動が伴ってないぞ!」

 何故か付いて来る彼に、振り返らずに毎日のように顔出してたので、後輩たちにテスト終了まで我慢すると伝えに行くだけだと説明する。

 音楽準備室に顔を出して後輩たちに「テスト期間中も来る気だったんですか」と呆れられた後、さっき借りてきたばかりの鍵を返しに職員室へ向かう。職員室で槌田先生に見つかり、「テスト期間くらいは自重しなさい」と怒られてしまった。その間も、彼がずっと付いて来ていた。

「で、どこまで付いて来る気よ?」

 職員室を出たところで、今度はこちらがジト目になりながら問いただす。

「え? 一緒に帰るだろ?」

 当然のように言われて、一瞬思考が停止した。

 ああ、確か同じ方向だったわ。と思いだし、耳朶が熱くなるのを自覚した。


××× ××× ×××


 先生に怒られて早く帰った。帰宅中、前を行くリア充に幸せになる呪いをかけといた。

 けして、羨ましかったわけではない。

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