1月17日 - 帰り道 -
帰りはいつも中途半端な時間だ。
同級生はホームルームが終わってすぐに家路に着き、下級生は部活が終わってからの帰宅となるので、少しだけ楽器で遊んで帰る私はその中間の時間に帰ることになる。
とっくに部活は引退しているので毎日のように残る必要もないが、早く家に帰ってもどうも落ち着かないので、秋口からずっと授業の後に頭を空っぽにして音を出すのが習い性になってしまった。
今日も好き勝手に思う存分楽器を鳴らした後、後輩たちを冷やかしてきた。実に嫌な先輩であろう。
一応、受験が終わるまでと後輩たちに理解してもらっているが、せっかく自分の天下になったばかりの2年生には悪いことをしていると思う。
(ま、私学で推薦入試だからできる我が儘だよね)
受験戦争から早々に逃げ出し、勉強嫌いの自分がいかに楽して4年制大学に行くかを模索した結果、校内推薦に力を入れている私大の大学付属高校を推薦入試で受けることを志望した。幸いなことに、大学は若干レベルが高いらしいが、付属高校の方はそれほど内申点は高くなく、中間よりやや後ろの私は無事に推薦をもらえた次第だ。
私学推薦入試の場合は、よっぽどのことがない限り受ければ合格と言われているので、学年主任の先生も引退後の自主的部活動に手を貸してくれた。本当に、この甘々な状況でですら受験生であることが鬱だと言うのに、他の一般試験――特に公立の――に挑む同級生の心中はいかばかりか、考えるだに恐ろしい。
考えながらも、足が勝手にいつもの通学コースを辿る。
学校の敷地沿いに角まで進み、そこから川の堤防に向かって弧を描くように伸びる坂を上る。車1台通るのがやっとの小さめの橋を渡って川を越える。
誰もいない堤防上の道を一人歩く。川のある右手側には等間隔に桜が並び、何故か堤防から少しばかり一段下がった所にも並行して歩道が続いている。専ら花の時期は堤防上の道、毛虫の出る時期は下の道が人気だ。それ以外の時期は、それぞれ好みの道を選んでいるようだ。私は自転車も人も少ない時間は、堤防上の道を選ぶことが多い。
葉も落ちて裸になった桜並木の下を、ゆっくりと歩く。たまにすれ違う自転車に道を譲ったりしながら、太い車道にぶつかるところまで行き、左に曲がり住宅街の方へと向かう。
車道と歩道の間にある街路樹も裸で寒そうだ。
街路樹が途切れるちょっと大きめの交差点で、道を渡った後、今度は右に曲がる。
その後も左右左と、適当に少し遠周りしながらどんどん歩く。
変わり映えしない通学路でも、好みの外見をした家や立派な純和風の邸宅などなど、目に楽しい家の巡っていくと案外楽しいものである。
これは誰々さん家だなと認識できる所までくると、もう「ただいま」と言う気分になる。
あとはこの坂を登れば家だ、と一歩を踏み出したところで、景色が一変する。
(――――えっ?)
そこは見覚えのない場所だった。
××× ××× ×××
なんてことはなく、無事に帰宅した。