1月15日 - 図書室 -
小学生の時分から図書室にはよく通っている。
学校の図書室はもちろん、自転車で30分以上かかる市の図書館にも月に何度か通っている。
あの独特の静謐と紙の匂いを好んでいるせいもあるが、特に学校図書室の場合は貸出カードを埋めるのも楽しみなのである。
(そういえば、貸出カードに書かれた借りた人の氏名から始まる恋物語なるものもあったな。)
裏表紙裏のポケットにカードを戻しながら、ふと最近テレビの地上波で再放送されていた映画を思い出した。借りようと思っていた本にはいつも同じ人の名前があり、ひょんなことからその正体を知る。図書室通いをしている身としては、少し憧れを抱く展開ではある。
(まあ、今となっては貸出カードを利用しているのは学校図書室くらいだし、利用者の少ない我が校でそんなドラマ的な展開は望めそうもないけどね)
返却図書をもとあった本棚に戻しながら、期待薄の展開を頭から追い払う。本を棚に戻した後は、次に借りる本を求めて本棚の間を移動していく。
さて、前回は珍しく資料的要素の強いものだったから、今度は物語が良い。
とはいえ、あまり新しい本の入っていないこの図書館には、古い童話か探偵のシリーズくらいしか置いていない。授業の資料になりそうなものが多く、物語は少ない。物語に関しては、小学校の図書室の方が充実していたくらいだ。
(いっそ、古事記でも借りてみようかな?)
神話系は興味はあるし好きな方だが、図書室に置いてあるのは古いものが多く、ライトノベルに慣れた脳には少々堅苦しい。読みやすいものがあると良いのだけれどと思いながら、哲学と歴史の棚の前に異動する。
やはり、古めかしい背表紙が並んでいる。できるだけ新しいものを選んで、中をパラパラとめくる。少し読みづらそうではあるが、読めなくはなさそうだ。今までは簡単にまとめられたものか、主要な話をピックアップしたものしか読んでいなかったので、途中で心が折れなければ新鮮な気持ちで読めるかもしれない。
(南総里見八犬伝も慣れるまで時間がかかったけれど、何とか最後まで読めたし、何とかなるかな)
貸出カウンターに向かいながら、裏表紙裏のポケットから貸出カードを取り出す。誰の名前も書かれていない。我が校は新設校ではあるが、もう10年近くは経っているのに、この本を初めて借りる生徒となったようだ。貸出カードの1番上の欄に、学年・クラス・氏名と貸出日と返却予定日を書きこむ。時間の経過で色の変わったカードに、自分の名前だけが記入されているのがなんだか可笑しい。
自分の貸出カードにも必要事項を記入して、借りる本に入っていた貸出カードと併せてカウンターの図書委員に手渡すと、丁度、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
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誰の名前も書いていないカードに自分の名前を書くのって、なんか嬉しい。