1月13日 - 本屋 -
私鉄の改札を抜け、電光掲示板で直近のダイヤをチェックする。
次に目的の電車が来るのは3番ホームのようだ。ゆっくりと階段を降りて行くと、冷たい風がホームの方から上がってくる。
(うひぃ~、自転車に乗っている時より寒く感じる)
思わず手をこすり合わせ、冷たい指先を温めようと息を吐きかける。
カイロでも持ってこればよかったかなと、準備不足を後悔しているうちに、この地域で1番の都市部へと向かう電車がやってくる。
運よく、車内は空いていたので車両の端っこのベンチシートの端を確保する。
座るとすぐにドアが閉まり、モーター音を響かせて電車が動く。ガタンガタンと車体を揺らしながら、スピードを上げて行く。流れて行く景色を頭を空っぽにして眺める。何度か見ているが、電車に乗る時にはじっと窓の外を見るのが癖になっている。
(もし、志望校に受かって電車通学になったら、毎日こうして窓の外を見るのかな?)
勉強は得意ではないので、私学を推薦で受験する予定であるから、下手な点数を取らない限りこうして毎日電車に乗ることになるのだろう。
この時期になると、たとえ推薦枠を確保した後とはいえ、嫌でも受験を意識してしまう。
(……ま、受験日は今月末だしね)
都市部の本屋に行こうと、家を出る時は弾んでいた気分がしおしおと萎んでいく。
(はっ、いかん。楽しいことを考えよう。探している本が見つかるといいな!)
無理やり気分を上げようと、今夢中になっている本やゲームのことに頭をシフトする。
あの本を探そうとか、好きな作家さんの新刊出てないかなとか、表紙買いは何冊しようとか、心躍る大型本屋の店内を思い浮かべながら電車に揺られること30分くらいで、目的の駅に着く。駅に着くころには車内は乗客でいっぱいだった。人に流されるように、駅のホームに押し出される。そのまま人の波に乗って、改札までたどり着く。あまりの人の多さに、アップアップしながら、一旦流れから抜け出て一息をつく。人の流れがひと段落するのを待って、目的の本屋へと足を運ぶ。
地元にも本屋はあるが、マニアックな趣味を持つ私には圧倒的に本の量が足りず、満足できない。なので、親には内緒で、こっそり都市部の本屋へと足を運んでいる。市立図書館に行くと言って家を出るので、行き帰りの電車の時間を考えると、あまりゆっくりできないのが残念だ。まあ、お目当ての本が手に入れば目的達成なので、よしとする。
久しぶりの本の山に心躍らせながら、とりあえず新刊置き場をチェックする。認知度の高いものは地元の本屋でも手に入るので、特に目新しいものはなさそうだ。だが、何冊か見たことがないタイトルがあったので、後で要チェックだ。新刊チェックの後は、お目当てがどこの棚にあるのかを、時々目移りしながら探していく。
無事にお目当てを見つけたあとは、ゆっくりと店内を見て回る。コミック、小説、新書、雑学系、エッセイ系、趣味系、順繰りに満遍なく――参考書以外の――全ての棚をチェックする。大体買うのはコミックと小説ばかりだが、とりあえず興味引くものがないかは一通り見てしまう。
一回りして、また新刊コーナーに戻ってきた。さっき気になったものを購入するかどうかを迷い、結局、お目当てだけ持ってレジに向かう。
珍しく空いているレジカウンターには、女性とおじ様率の高いこの本屋には珍しく若い男性店員が立っていた。空いているレジが彼のところしかなく、意を決して本を持っていく。
無駄に姿勢が良い彼は、銀縁眼鏡に清潔そうな髪型、低すぎないテノールの声。芸能人ほど整ってはいないが、好感の持てる顔。落ち着いた雰囲気はあるが、結構若い。
テキパキとレジ業務をこなす姿に、思わず見とれる。
「ありがとうございましたー」
商品を差し出され、反射的に受け取る。その瞬間、目があった気がした。
ニコっと微笑まれ、顔が熱くなるのを感じる。
(見てたのバレたかな……?)
慌ててお礼を言って本屋を出た。
××× ××× ×××
最近、本屋の蔵書数が減った気がする。……寂しい。