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望月りや子の妄想日記  作者: こたつの蜜柑
10/31

1月12日 - 部活 -

 もう部活は引退はしているものの、心おきなく音を出したくて吹奏楽部に顔を出している。

 さすがに後輩たちがやりにくかろうと思い、ちょこっとフルートパートの練習場所である音楽準備室に顔を出した後は、学年主任の先生から借りている被服室へ引籠る。

 まずはマウスピースだけで、タンギング練習をする。全音符から2分音符、4分音符、8分音符、16分音符と、順番に。次に、本体も付けて音階毎にまたタンギング練習を行う。1年生の入部して楽器を持つことが許されてからずっと、これを基本練習として行ってきた。

 基本が終われば、後は好き勝手に吹きたいものを練習する。

 今まで部活で演奏してきたもの、音楽準備室で眠っていた楽譜を失敬してきたもの、ピアノ教室の先生から出されているフルートの教本など、本当に気の向くまま吹いている。

 吹きたくない時は部活に顔は出さないし、顔を出しても後輩たちと違って最後まで練習しているわけではない。満足するまで吹いたら、片づけて帰るだけだ。大体、パート別練習が終わってトゥッティ――ソロの対義語で「総奏」。我が校で、全楽器揃っての練習をそう呼んでいる――が始まる頃には撤退する。


 遠く、後輩たちの練習の音を聞きながら、夏の地区大会で演奏した曲を適当に練習する。

 1年生の頃には全く付いていけなかった、タッカのリズムと32分音符が踊っている譜面も、今では普通に演奏できるから不思議だ。特に、1年生の頃の部活の顧問はスピード狂だったから、指揮について行くだけでも大変だった。同じ作家の違う曲で、四苦八苦していたのを思い出して笑えてくる。もう譜面を見るのも嫌だと思っていたのに、今では好きな曲になっているから不思議だ。

 暫く同じ曲を何回も練習して、満足したら楽器の手入れを始める。

 まだ昼前なので、土曜日の今日はまだ部活の時間はあるが、現役でもないのに長々と居座わるのも微妙なので、後輩たちがお昼の誘いをしてくる前に撤退する。

 被服室の戸締りを終えると、一旦、音楽準備室のパートの後輩たちにだけお邪魔した詫びと午後の練習の激励をして、鍵を返しに職員室に寄る。「受験生なのだから程々に」とお小言をもらい、家路に着く。


 平日と違って、通学路にも生徒の姿はほぼない。

 しかも、真昼間に通学路を歩くのはテスト期間以外ではあまりない。

 何となく、不思議な気分で道を歩く。

 服装こそ制服だが、手にしているのはフルートのケースだけ。それを後ろ手に持ち、足取り軽く、さっきまで練習していた曲を口笛で吹きながら歩いて行く。

 前方から、同い年くらいの男子が乗った自転車が近づいてくる。

 口笛の音を少し小さめにして、すれ違う。その瞬間、こちらをちらっと見られたような気もしたが、気のせいか口笛を吹いていたせいだと思うことにする。

 また音量を戻し、思いつくまま口笛を吹き続ける。


××× ××× ×××


 口笛って、案外綺麗に鳴らすの難しい。

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