心の拠り所
どうしてこうなった。
「逃がすな、近くに必ずいるぞ、探せええぇ!」
割と近くからアメフト部隊の大声が響き渡る。
「見つけたらすぐ俺に伝えろ、斬り刻んで海に放り投げる」
この声は銀髪だ。
頭に血がのぼっているのは間違いない。
「あ、あの律?」
バトが自慢の翼を小さく縮めて俺に話す。
こんな物騒な事態になったのは言うまでもないがバトが原因だ。
俺がバトの返答に耳をすぐに傾けていれば起こらなかったので一概にバトだけを責める事はできないが。
俺に少し耳を塞いでしゃがんどいてと言われた時にはバトは俺の肩から羽ばたいて何処かへ飛んで言った。
悪い予感しかしなかった。
バトは俺を逃がすために良かれと思って大きな騒音を響かせたのだ。
かろうじて耳を両手で塞ぎ防御に成功したが他の集団はバトの怪音を受け、倒れる人や発狂する人もいた。
そしてバトは何食わぬ顔をしてドヤ顔で俺の肩に戻ってくる。
「どうだ律、やったぜ!」
俺はすぐにその場を離れ今に至る。
おしゃべりのバトもこの現状を理解したのか涙目になっている。
バトも俺の事を助けようとした結果だ。
だが、この状況は絶望しかない。
今は運良く見つからずにいるが、しらみつぶしで探されたら十分ともたないだろう。
諦めるしかないか。
だが、イルやバトのことをふと考える。
・・・・・・考えたが悪い思い出しかない。
そもそも出会って数日、バトに至っては数時間前の事、なのに悪い思い出しかない。
だが、何故だろう。
こいつらを見捨てる気にはなれない。
俺が俯き落ちこんでいるとそれを察したイルが
「パパあぁぁ!イルがまもるのぉ」
イルは何故かやる気に満ちてる。
バトは落ち込んでいる。
俺は・・・・・・覚悟を決めた。
「へー、震えながら隠れているだけかと思ってたが、何故出てきた?」
銀髪が驚く。
「しかもわざわざ俺の前に現れて来るとはお前、恐怖で頭が回らなくなったか?」
銀髪の近くにいた部隊も気づき集まってくる。
「おっ、隊長発見しましたね、私が捕らえてもよろしいでしょうか?」
「いや私が」
「俺に任せて下さい」
続々と兵士達が手柄欲しさに立候補する。
銀髪があることに気づく。
「お前あのうるさいモンスター達は何処に行った?」
「・・・・・・」
「また、さっきみたいな奇襲でもするつもりか?先に言っておくが同じ手が二度通用するとでも?」
「あいつらは逃してきた」
「なんだと?」
正直まだ少し後悔してる、ただイルやバトのため俺がやるべき事はこの方法が最善だろう。
現実世界の俺なら身を犠牲にするなんて考えられない選択だ。
薄々は気づいていたけどこの異世界、嫁を探して迷い込んだが、なんだかんだで心の拠り所になっていたんだなと。
あいつらに会えて良かった。
まだ嫁にも会えてないのに死亡フラグたててしまったな。
銀髪が間合いを詰めて来る。
周囲の警戒は部下に任せており、抜き身の刀を手に持ち近づいて来る。
このままだと問答無用で斬り殺される。
それだけは避けなければ。
俺は銀髪にしか聞こえないぐらいの声で
「頼みがあってわざと見つかったんだ」
と、小音量で話した。
「今更命乞いか、見苦しいぞ」
銀髪は聞く耳を持たない。
「違うって、この後姫様に見世物にするならさ俺の執行はその後でもいいんじゃないか?俺はもう逃げる気は無いし、屈強な兵士達が一目置く姫様を一度見てみたいなと」
銀髪の足取りは変わらない。
「そ、それにさ姫様も血だらけだったり四肢の欠損とかさ目に良くないと思うしさ」
銀髪は口角を少し上げ
「その願いは叶えてやるよ」
ズブッ
銀髪が最後は消えたと思うほどの速さで間合いを詰め、気付けば片手を前に出し刃は俺の心臓部分を捉えている。
刀を引き抜くと、噴水のような生暖かい赤い血が噴射し続ける。
「うっ、う、嘘だろ」
「初動すら見えなかっただろ?まぁ約束してやるよ、お前はもうすぐ死ぬけど姫様には合わしてやるよ」
俺は両膝を付き前のめりに倒れる。