エピローグ
学校が終わり本屋に寄ってから雪音が家に帰ると、家には誰もいないようだった。父はまだ仕事だろう。車がないから、母は買いものにでも行っているのか。
自宅の敷地内に自転車を停める。鍵をかけたり荷物をごそごそしていると、家の中からライの鳴き声が聞こえてきた。不審者扱いされていることはないだろうが、吠えるニュアンスが「おかえり!」なのか「早く入ってこい!」なのか「帰ってきやがったな!」なのかは分からない。
背負ったリュックの横ポケットから家の鍵を取り出し、玄関を開ける。ライは上がり框の上で身を低くして待ち構えていた。にっと笑ったように舌を出し、らんらんと輝いた目が雪音を捉えた。
ライの空気が凍った。
「ただいま、ライ」
「――!」
表情が変わる、声音が変わる。歯を剥いて威嚇される。向けられるのは完全なる敵意だ。
はあと息を吐くと、雪音のその微かな挙動にびくりと反応し、ライは尻尾を巻いてリビングに逃げ帰ってしまった。
理由はいつものやつだ。本屋にいる時に衝撃があった。
「……お前にはどう見えているんだろうね」
声に出してもライはもういないし、聞いていたとしても答えは聞けない。
悲しいのか悔しいのか諦めているのか、自分でもよく分からない笑みを漏らしてから靴を脱ぐ。
流のことを思い出すと、じくじくと内部が燻る。勲の言葉を思い出すと、それが少しましになる気がする。何ができるかなんて分からない。どこまで踏み込んでいいのかなんて分からない。それでもやっぱり、最終的にはやれることをやろうという結論に落ち着く。それしか術がないのだ。ぐずぐず考えたって仕方がない。これが、いつまで続くのか先のことは考えないようにして。
時は確実に進む。針がずれていても、淡々と時は刻まれていく。
夜半だ。五分進んだ時計の針が零と一を指す。目をつむっていた雪音は瞼を上げた。
「――初めまして。こんばんは」
そうして雪音は問い続ける。
「あなたの最期の最後の願いは、何ですか?」




