プロローグ
死んだ祖父と再会したのは九歳の時の夏だった。
雪音が五歳の時、筋肉が固まり段々と身体が動かなくなる病気によって六十四歳で亡くなったそうだ。当時幼稚園に通っていた雪音は、正直あまり祖父のことを覚えていない。雪音、と快活に笑いかけてきた姿が仄かに脳裏に残っているくらいだ。
しかし亡くなったはずの祖父と再会した時、雪音は直感的にその老人を「じーちゃん」だと認識した。理屈も根拠も何もなく、ああ私のじーちゃんだ、と。
それは九歳の時に現実に起こったことであり、雪音の妄想でも記憶違いでもない。文字通り、雪音は祖父と再会したのだ。
九歳の、それはとても暑い夏の日だった。朝、暑くて暑くて仕方がなく目を覚ました雪音の前に、祖父はいた。
「おはよう、雪音」
そんな、陽気で朗らかな笑顔とともに。
それから数日、祖父は雪音のそばに在った。家にいる時、学校に行っている時、そして友達と遊んでいる時でさえも、雪音の視界の範囲にいつも祖父はいた。何をするでもなく、ただ、そこにいた。
どのくらいだったろう。たぶん、そんなに長い期間ではなかった。
夜、ベッドに入りうとうととしていると、祖父が口を開いた。
「雪音。それを失くさず、大事に持っておいで。そうしてじーちゃん――みたいな者を助けておくれ。雪音なら、きっと大丈夫だから」
その時の雪音はひたすらに眠気に襲われており、さらに祖父の言うことは難しくて、彼が何を言いたいのか何一つとして理解できなかった。
そんな雪音に気づいたのか、祖父は穏やかに微笑むと雪音の目を手で覆った。
「じーちゃん、そろそろ行くな。おやすみ、雪音」
じーちゃん、どこ行くの?
暗闇から聞こえる声にそう返したかったけれど、まどろむ雪音はそのまますうっと眠りに落ちてしまった。
翌朝起きると、祖父の姿はなかった。それ以来、雪音が祖父に会うことは一度もなかった。
祖父があの時言い残したことは、成長とともに段々と分かってきた。
だから雪音は、祖父にもらったものを胸に抱き、今日も生きていく――。




