第3話「変わる日々」
二人から逃げ出した俺は、家の付近を歩いていた。というか、もう目の前だ。
走るのは疲れた。
今日はもう寝よう。もう疲れたくな–––
「あ、成部さん!こんばんは〜!」
「おい、何故俺の家にいる!?」
家の玄関前に誰かいると思ったら、天下無敗ムサボルがいた。
「転校生の天上無双イリネルです。覚えてますか?」
あ、名前違った。
天下無敗 貪るって名前、物騒過ぎだろ。
まあ、元からやべぇけど。
てか、リピート自己紹介の前に、なんで俺の家にいるか答えろよ!てか、なんで知ってんだよ!
「あの、成部さん!」
「は、はいぃ?」
「なんで、先に帰ったんですか?」
真面目な顔でそう言った。
「え、なんか俺に用事あった?」
俺の家の場所は、先生か誰かに聞いたのだろう。
まあ、それは今はいい。俺の家に来てまでなんかしなきゃいけない用事が気になる。
おそらく二択だ。
一目惚れか、暗殺だ。
まあ、暗殺はないだろう。知らない奴に恨みをばらまいた覚えはない。
惚れたんだな、俺に。それしかない。
「いえ、特には」
「なんでだよ!」
照れ隠しか!そうだな!
だって、特に用ないのに俺の家に来るわけない!
ま、いちよう聞くか。
「じゃあ、なんで家に来たんだよ」
「え、えっと...」
すると、転校生は考えるように頰をかき。
「まだ成部さんと喋ってなかったので...」
「それだけかよ!?」
「そ、そうなんですよ...」
まじか。そんだけの為に...コイツ馬鹿だ。
「あ、私!成部さんの毎日変えてみせますから!」
「はあ?」
「絶対に楽しくしてみせます!」
それだけ言うと、転校生は、『では!』と言い残し帰って行った。
「・・・どゆことー?」
よく分からないヤツだ。
はあ、余計に疲れた。
寝よう。速やかに。早急に。
お休みなさい。
あ、そういや。
アイツはまだマスクを被っていた。
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「・・・・・・・」
いつもの目覚めだ。
いつもの・・・嫌な目覚めだ。
昨日が例外だったのがよく分かる。
「・・・学校行くか」
悪夢を見た後の、この胸の苦しみには慣れてしまった。
俺は公園を通らず、遠回りして学校に行った。
公園に行きまたアイツに会ったら、胸が痛むから。
学校に着き、教室に入る。
「おっとっと」
「あ、すまん」
「いや、いいっていいって〜」
教室の机と机の間は鞄などで、歩ける場所は狭い。
その為、基本一方通行だ。
前から来たノートの山を抱えた男のクラスメイトを避けようとして、結局ぶつかってしまった。
ノートが何冊か落ちてしまう。
3分の1ぐらいを拾ってクラスメイトに渡す。
「ありがと」
「ああ」
まだ、朝だからか俺は素っ気ない態度を取ってしまった。
特に気にせず、席に着くと。
「成部君って、なんであんな感じ悪いのかねぇ」
「多分、あれじゃね?事故で唯一生き残ったから、僕可哀想な子なんです〜みたいな」
「かまってちゃんかよ。はははっ」
チャラついた男子三人が俺について喋っていた。
小声で聞こえないように言っているが、俺には聞こえているぞ。
その三人の近くの席の女子が三人に顔を近づける。
「え、何それ?」
「あ、お前知らないの?」
「なになに?有名なの?」
「一時期、話題だったよなあ?」
「おう、よくニュースでやっとった」
「俺、アイツと小学校一緒だったからすげえ話題なったわ!初めてインタビューされたわ〜。テレビ観た友達がお前出てる出てる!って電話して来た」
「まじで?すげーな」
「言ってくれたら思い出せるかも」
「面倒いけど教えてやるよ、感謝しろよ?へへっ」
「ウザ。早く教えろ、チャラ男」
「あ、はい。すいません」
「早く!絶対分かるから!」
「あれだよ、あれ・・・あれですよ。6年前のバス事故。雪で滑ったバスが山道から落ちたんだよ」
「で、バスの乗客、アイツ以外皆んな死んだんだっけか?」
「確かそうじゃね?」
「へーそんな事故あったんだ〜。成部君かわいそ〜」
「結局、お前知らなかったんかい」
よくもまあ、6年前のこと覚えているもんだ。
当事者以外、誰かの不幸話なんて覚えてないもんだと思うんだが。
俺は、担任の先生が来るまで目を閉じた。
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「楼努、温泉楽しみだなあ〜」
「俺は、部屋の菓子に期待を抱いている」
「お前はホント食いもん好きだな」
「お兄ちゃんには食べ物に関する伝説があるから」
「そうなのよしょーちゃん。この子ったら昨日、水羊羹買いに2時間も歩いて店まで買いに行ったのよ?」
「やばッ!?」
「うめーだろーが水羊羹!買いに行った価値はあった!福井に生まれた者としての宿命だぞ!」
「何言ってんだよ...」
「ははっ。楼努は足骨折してるのに松葉杖使ってカツ丼食べに行ったぐらいだからな。さすがは我が息子だ!」
「お前、まじやべぇよ...確かに伝説だ...」
「お兄ちゃん馬鹿だから...」
「カツ丼って言ってもソースカツ丼だぞ!カツ丼って言ったらソースカツ丼なんだぞ!福井だけだけど!」
「別に俺は誤解しねぇよ!引っ越して福井来た時、まだ3歳だぞ!俺も最初からソースカツ丼はカツ丼って呼んでたわ!」
「ま、お前は馬鹿だからな。いちよう確認しといたんだ」
「そういうのはテストで俺に勝ってから言え」
「一点の差ぐらいじゃ変わらねぇよ」
「嘘つけ。一点だけじゃねーだろ。十一点の差だろ」
「やめろ!母さんに聞こえるだろ!今回のテストで100点とったことにしてゲーム買ってもらったんだから...!」
「楼努?」
「ひぃい!ごめん母さぁあああん!!」
「馬鹿だな、楼努」
楽しい。
「温泉では、卓球やらなくちゃな!」
「父さん弱いからなあ...」
「確かに、楼努父は弱い」
「お父さんに負ける気しないんだけど...」
「パパ、卓球部だったのにね〜」
「四人して馬鹿にしてぇ!?というかママ!それ言っちゃダメ!」
楽しい。
「じゃあ、僕らに一勝したら、認めますよ」
「俺は無理だと思うぜぇ?」
「私も」
「しょーちゃん、一勝なんて無理なこと言っちゃダメよ。一ポイント取るとかにしないと」
「ママ、酷い!」
楽しい。
こんな時間がきっといつまでも続くんだろうなあ...。
「助けてくれ...」「痛いぃい」「あああ..」
「楼努...なんで、お前だけ...」
「・・・・・・ああ」
楽しい日々はあの時まで。
もう、ダメだよな。分かってるさ。
ごめん。皆んな。
–––成部さん?
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「・・・うおッ!?」
身体をビクッとさせてしまう。
身体が机に当たりガタッと音を立ててしまう。
変な汗が出ている。
数秒経って学校だと理解し、前を見ると金髪の少女(マスク)がいた。あのアホ転校生だ。
えっと名前は、地底商売ハラヘルだっけ?
「転校生の天上無双イリネルです」
あ、違った。
てか、俺の心を読んでんのか。まあ、いい。
「え、何?」
「ですから、水羊羹食べますか?」
「み、水羊羹...?」
「はい、どうです?」
・・・・・。
ナンデー。ドユコトー。
転校生の手には、箱に入った二切れだけ残った美しい水羊羹が。
美味そう。
「あれ、さっき皆んなに言ってたの聞いてなかったんですか?」
「いや、寝てたんだけど...」
「そうなんですか?なら!」
すると。
箱に蓋をし、鞄に入れ。
「これ!皆さん...成部さんに差し入れです!」
ドンッ!的な効果音がなりそうな感じで俺の机に箱を取り出して置く。
置く際は優しくしている。
ぱかっと蓋を開け。
「どうぞ!」
「いや、たぶんなんだけど、再現しなくていいから」
おそらく俺の寝ている間の出来事を再度やったのだろう。
やらんくてええ。
「なんで、差し入れ?」
「福井県と言うのは水羊羹が美味しいとパソフォン?とか言うので調べまして」
「パソコンな」
「いや〜素晴らしいですね!このブリブリ感!」
「表現が汚ねぇ!それを言うなら、プルプルだ!」
「このグチョグチョした食感もまたいい...」
「さっから、表現が汚い!」
「二切れ目を食べても、飽きませんね〜。成部さんも是非食べて下さい〜」
「食べて下さいって、水羊羹無くなったんだけど!俺に差し入れすんじゃなかったのかよ!嫌がらせか!?新手の嫌がらせなのか!?」
「ハッ!?私はなんていうことを...すいません。私、出来損ないで...くすんくすん」
「涙目になんな!お前が悪いんだろ!」
「代わりと言ってはなんですけど、これ」
たわし。
「いらねーよ!!」
バシッと机を叩いて立ち上がってツッコんだ。
「そ、そんなあ!なら、これを!」
釘バット。
「危なッ!?どっから持って来たんだよ!てか、よく学校に持ち込めたな!」
「いらないんですか!?護身用になるのに...」
「何が護身用だ!確実に人を殺すことを目的とした武器だろ!」
「分かりました、仕方ない方ですね...。なら、これを!」
「なんで俺がわがまま言ってるみたいになってんだよ。で、次は何だ?」
カツラ。
「ハゲてねーよ!馬鹿にしてんのか!」
「してないですよ!では、これなら!」
育毛剤。
「さっきと何が変わったの!?え、待って待って!?え?俺、そんな薄い?頭がそんなにお薄いんですかあ!?」
「す、すいませんー!」
頭をグリグリしてやった。
「こ、これをあげますんで!ゆ、許して下さ〜い!」
「今度はちゃんとしたやつなんだろうなあ?」
一度グリグリをやめる。
「こ、これです!どうです?嬉しいでしょう!」
日本人形。
「怖ッ!怖い!え、持ち運んでんの!?」
「昨日、成部さんの家の玄関で拾いました」
「それは何故!?」
怖い!怖すぎるよ!絶対それ呪われてる!
「なんか、肩がこるんですよね...」
「今すぐ捨てなさい!」
「じゃあ、成部さん何が欲しいんですか!?」
「ハーレム!あ、ミスった!」
「ハーレムですね!・・・なんですか、それ??」
「殺戮兵器だ!」
「えぇええ!?成部さん、殺戮兵器が欲しいんですか!?」
「やっぱナシナシ!何言ってんだ俺...。後で他のヤツに意味聞いて!」
「結局どうなったんですか?」
「知らねーよ」
「こうなったら、とっておきです!私の素顔を公開します!」
「もう、見たことあるわ!!」
「なんで見たことあるんですかあ!?隠してたのに!?」
「最初、隠さず教室入って来たじゃねぇか!」
「そ、そんな!私のバカ...」
「何、覚えてないの!?お前二重人格か何かなの!?」
「あ、いえ。今、思い出しました」
「ただのバカかよ!」
「ぷっ。くすくす」
「ん?」
何やら俺らは、大きな声で喋りすぎたらしい。
隣の席の女子に笑われてしもうた。しまったなあ...。
俺としたことが周りを見てなかった。
俺は顔が赤くなるのを感じ、いつの間にか立ち上がっていたので座った。
「と、とりあえず!席戻れ、授業始まんぞ」
「え、もうそんな時間なんですか!?今すぐ座ります!では!!」
と、言い残し、俺の隣の隣の隣の席に座った。
ちなみに俺は左から一列目、後ろから二列目だ。
転校生が俺から離れ、席に座ると皆んながまた転校生の席に集まる。
もう、授業始まんぞ...。
そんなに転校生と話したいのかね。
周りの喧騒に耳を防ぎ寝ようとすると。
「成部君ってそんな感じの人なんだね」
「うん?」
俺は横の席の女子を見る。
すると女子はハッとした顔を俯かせ、ノートにペンを走らせる。
次の授業の予習だろうか。
まあ、いい。
「授業始めんぞ〜」
先生が入って来た。
授業開始だ。
さて、眠気に負けねぇ。
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「な、成部ぇさん...はぁはぁ...」
「俺の名前は成兵衛じゃねぇ。てか、すげー息上がってんな」
転校生はまたも授業が終わると周囲を包囲されていた。それを何とか潜り抜け俺の元へ来たようだ。
いちよう初日のようなごった返しはなく、クラスメイト達と他クラスの何人かがいただけだ。
クラスメイト達はあんまり俺に近付かない。
やはり、俺と彼らとは壁があるようだ。
「なんだよ、今日は。やけに来るな」
「き、昨日も喋りかけようとしたんですけど、中々皆さんとお話していたら行けなかったんですよ」
なるほど、昨日も来ようとしていたのか。
別に来んでええ。
「ところで成部さん。相談が」
「寝ろ。それで全てが解決する」
「まだ何も言ってませんけど!?何で答えるんですか!それもテキトーに!もし不眠症とかの相談だったら何の答えにもなりませんからね!」
「病院行け。それで全てが解決する」
「テキトーですね!ちゃんと聞いて下さいよー!お願いですー!」
「はあ...なんだよ?」
「あ、聞く気になってくれたんですね!」
「うっせ。早く言え」
俺はそんなに暇じゃない。
寝ないといけないからな・・・暇じゃねぇか俺。
「まず、これを見て下さい!」
転校生は、謎の本を渡して来た。
えー何々?
本のタイトルは、【素っ気なくてテキトーで黒髪の目が死んでいる男子と友達になる方法】。
これ俺か?俺だよな?ピンポイントな本だな。
これ本人に見せずに実行するもんじゃないの?
分からん。何だコイツは。
「えっと、何?俺と友達になりたいの?」
「はい!・・・あっ、ち、違います!別の人のことです!成部さんと友達になりたいなんて絶対思うわけないじゃないですか!」
「・・・・・」
き、傷付いてなんかいない。
転校生の言葉でクラスの皆んなが噴き出したけど、何とも思ってないんだからな!大体俺は孤独を愛してるし!寂しくないし!俺だって、友達いらな・・・あー泣きそ!
そんな全否定された俺に転校生は、本を再度見せる。
「成部さん!一緒にこの本を読んで成部さんと友達になる方法を考えましょう!」
やっぱりコイツ、馬鹿だ。
本人はおかしなことを言っているのに気付いていないようだ。
「やっぱ、辞める!俺、お前の相談、力になれないと思う!」
「えー!?なんでですか!?お願いしますよー!」
「やだね」
「お願いします!お願いします!成部さん!成部さぁーん!」
「うるせぇな!分かった、分かった!はいって言わないと終わんねぇんだろ!」
「はい!終わりません!我慢には自信があります!」
「そこに自信を持つな、アホ」
許諾を得た転校生は、俺の机に本を置いた。
まずは1ページ目。
どデカイ文字でこう書かれていた。
【そんなキモい容姿の人いるんですか?】
「うっせえ!!俺だわ!!」
初めから、素っ気なくてテキトーで黒髪の目が死んでいる男子を全否定だよ!チクショウ!
「キモくなんかないですよね!カッコいいですもん!酷い買い物しました。捨てましょう!」
「お、おう照れるな...」
何故か怒っている転校生は本当に本を捨てる気のようなので、まあ待て、となだめる。
「もう少しだけ見ようじゃねぇか」
ペラっとページをめくる。
お、目次だ。この次のページから始まるんだな。まだ俺に対する暴言が書かれていたら捨てる。
【①その人にお金をあげましょう】
「最低!」
金で友達を買うというバカな案を出して来やがった。
それに転校生は。
「なるほど、お金。1万円で足りるでしょうか...」
「参考にしてる!しかもかなり良い値だな!友達なる!なります!ならせて下さい!」
転校生は考え中のようで俺の発言は聞いてなかったようだ。危ね。
「次だ次!」
【へ?次?お金渡せばいいじゃないですか?他の方法より確実ですよ?】
「やっぱコイツ最低!」
馬鹿な著作者だ。
「確かに。お金は世界の全てを買えると聞きましたし」
馬鹿な転校生だ。
黙って次のページを開いた。
【②餌付け。手料理で胃袋を掴んじゃおう!(...)】
「お、まともだな」
ん?なんかカッコがある。何々?
【(物理的に)】
「死んでまうわ!」
しかもこの文の下には続きがあった。
【そして、『貴方の胃袋を返して欲しければ友達になって』と脅しちゃえ☆】
「怖すぎるわ!」
普通にサイコパス。酷い!酷いぞ、この本!
「へ?ご飯をふるまって、どうしたら物理的に胃袋を掴めるんですか?」
「正論!」
おっと冗談が通じねぇ!?正論をかましているぅ!
はあ...次をめくるか。
【③弱みを握りましょう】
「さっから酷えな、これ!」
「本当ですよね!あの、ちなみに成部さんって弱みあります?」
「そうだな〜昔小学校でお漏らししちゃったことかな、って何普通に弱み聞いとんじゃテメェ」
「あ、すいませぇえんー!!」
転校生の頭(マスク越し)をグリグリした。
次だ次!次こそちゃんとしたの来いよ!
【④男は猿です。読者の貴方が女性ならその人のアソコを握りましょう。友達以上になれます】
「下ネタかよ!」
「アソコ?」
「知らんでよろしい!」
すぐさま次のページをめくった。
【⑤催眠術かけるとかどう?】
「聞くんじゃねぇよ!」
乱暴にページをめくった。
【⑥あ、良いこと思い付きました。部屋と車とスタンガンと縄を用意して下さい。いっぱい工程はありますが簡単ですから(笑い)】
「なんか途中で物騒なモンあったぞ。しかもなんだ(笑い)って」
【まずその男の人をスタンガンで気絶させます】
「いきなり笑い事じゃねーよ!」
【気絶したら車に乗せましょう。そのうち目が覚めるかもしれませんから、手足を縄で縛りましょう。そしたら、部屋まで二人の楽しいドライブ!一粒で二度美味しい!】
「誘拐じゃねーか!楽しいドライブじゃねーよ!狂気のドライブだ!」
【では、レッツトライ!】
「レッツトライ!」
「転校生!寄るんじゃねぇ!俺を誘拐しようとすんじゃねぇー!」
俺は、縄を持って近付く転校生から全速力で逃げた。
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それからも休み時間になると転校生は俺の席にやって来た。
クラスメイトのヤツらの中には俺との接触を止めたりするヤツもいたけど、それを無視してやって来た。
次第に休み時間に皆んな集まらなくなっていった。
あ、ちなみに自己紹介以来マスクは取ってない。
コイツよく先生に没収されないな。
脱線した。話を戻す。
俺は昼休みに聞いてみた。
「俺に関わってお前に得でもあんのか?」
屋上は風通りが良く、寒い。分かってはいたが。
ま、クラスで気まずく食べるよりはなあ。
転校生も横で食べている。
「得?得ですか?うーん、なんでしょうね?」
「俺が聞いてんだ」
コイツは何も考えてないのか。
てか、やっぱり俺と一緒にいて得がないのか。つら。
「あのな。俺は周りから避けられてんだ。俺と一緒にいたら周りからお前まで距離置かれるぞ」
「そんなの関係ないですよ」
そんなことが言えるのはお前が皆んなとまだ仲が良いからだ、とは言わなかった。
「じゃあ、なんでだ?なんで、俺に関わる?」
「それは私が天使だからです」
「真面目に答えなさい!」
「あはは...そうですね〜...成部さんが私に似てたからですかね。一番は」
「どうゆうことだよ」
「いえ、別になんでもありませんよ」
気になるだろ、その言い方は。
まあ、あまり踏み込まない方がいいか。踏み込み過ぎると人を傷付ける。
「はあ...。お前、俺に関わんな。クラスメイトと飯食って来いよ、まだ間に合う」
「私は、成部さんと食べたいんです」
「わかんねぇやつだなあ...」
俺たちは雑談をしながら飯を食べた。
「外町さんが言ってた予言によると明日世界が滅ぶらしいですよ?」
「妄言だ。気にすんな」
「赤原さんに聞いたんですけど。最近、不良が学校近くをうろついているそうですよ?」
「妄言だ。気にすんな」
「耕田さんによると空河さんという方は可愛い方らしいですよ?」
「妄言だ。気にすんな」
「さっきから返しがテキトーなんですけど!?」
「妄言だ。気にすんな」
「もはや誰に言っているんですか!?」
バンッ!
急な扉の開く音にびっくりする俺と転校生。
そこには、頭を茶髪に染めた男子生徒がいた。
「あ、耕田さん」
「耕田...?」
「え、成部さん覚えてないんですか?」
あ、さっき言ってたヤツか。
「ひ、酷くない!?成部!?俺、お前の席の前だぜ!?」
「そ、そうか...」
「こんなに成部を探したのにぃ!俺、頑張ったのにぃ!まず存在を知られてなんてぇ!?」
「え?」
「まだわかんねぇのかよー!」
「いや、そうじゃなくて」
何故、この男は俺を探してたんだ?
何か頼まなきゃいけない用事でもあんのか?
「な、成部!」
「な、なんだ?」
「お前、おもしれぇ」
「・・・はい?」
「お前、めっちゃおもしれぇじゃんかあ!」
「何言ってんだ、お前?」
分からん。何言ってんだコイツ。
「お前と一緒に飯食って仲良くなりたいんだよ〜!一緒に食っていいか!?」
「ダメだ。帰れ」
「酷えよお!いいじゃんか、いいじゃんか!イリネルちゃんも一緒に食ってんだし、俺が増えたってさあ〜!」
「誰だ、それ?」
「まだ私の名前覚えてなかったんですか!?」
「あーお前の名前か。確か、超怪人イリネルだっけ?」
「怪人じゃないですよー!?天上無双 イリネルですよ!」
「あ、ちなみに俺は耕田 航太ね」
「聞いてねぇよ」
「さっから、なんで俺に辛辣なの!?」
「大体、耕田。なんで俺と食べる気になった?この前までチャラ男達と食ってただろーが」
「アイツらとは合わん!美少女ハーレムについて何も分かっちゃいない!」
「どんな理由だよ...」
コイツ変態だ。たぶんだが。
「ま、まさか!な、成部は...分かるよな?朝あんなこと言ってたし...」
ぐっ。やはり皆んなに聞かれていたか!
ま、ここは正直に。
「...ハーレムっていいよな。皆んな幸せで」
「やっぱりだ!初めて見た時からそうだと思ったんだよなぁ!俺と同じクソ変態じゃねーかなって!」
「やめろ!勝手に決めつけんな!」
「お前は女子のどこが一番好き?どこどこ!」
「胸だ」
「どっち派だ!?」
「巨乳派だ」
「巨乳は!?」
「正義!」
「で、貧乳は!?」
「罪!」
「でも美少女ならッ!!」
「おうけぇーいッ!!」
「ハーレムは必ずぅ!?」
「貧乳も巨乳も普通も!!」
「とにかく美少女ならぁッ!?」
「胸のサイズなどおッ!?」
「「関係なぁあああああああいッ!!!」」
謎に盛り上がった。
「やっぱりクソ変態じゃん!いえーい!」
「いえーい!...じゃねぇよ!ノっちまったぜチクショウ!!」
ハイタッチまでしちまった。
「・・・・・」
おっと転校生が固まっている。
話を変えてやろう。これ以上コイツを巻き込むわけにいかない。
「よし親友!もっと語ろーぜえー!!」
「うるせえ!黙れ!変態!転校生もいんだぞ!」
「あ、イリネルちゃんも混ざる?」
「何聞いとんじゃ!?」
「え、混ぜてくれるんですか?是非!成部さん攻略の為、勉強させて下さい!」
「マジか!?」
ハーレムについて語る昼休み。
酷えな、この時間。
==================================
「なあ、なあ!親友!あのアニメ見てみろって!面白いぜ!」
「うるせぇよ、変態。あと親友って呼ぶんじゃねーよ」
「そんなこと言うなら、変態ってあだ名酷くない!?せめて親友にしろよ!」
「せめての意味が分からんし、何も変わってねーじゃねーか」
「ははっ!いいじゃね〜か〜!呼べよ〜!呼べよ親友〜!」
「あーもう!うるせぇなあ!授業集中できねぇだろ!」
と、こんな調子でコイツは俺の前の席ということを良いことに振り返って授業中も喋りかけて来る。
邪魔ったらありゃしない。
「耕田君、成部君と仲良かったんだっけ?」
ふと俺の隣の席の女子が、耕田に質問を投げかける。
俺からみて左の窓に体を向けてた耕田は、女子に首だけ振り返る。
「いや、今日仲良くなったんだよ!親友だよ、親友!な!」
「ちげーよ!勝手に親友になんな!」
「親友じゃん!親友!あんだけ熱く語っただろ!?」
「その話をここですんなよ...頼むから」
「ハーレムとか、おっぱ」
「黙れ!!」
「ぎゃあああ!目があああああ!!」
目潰しをしてやった。
もちろんまぶた越しにだ。
「何を騒いでいる、耕田!」
変態の絶叫に先生が反応する。先生しかってくれ!
「し、親友が!親友に目をやられました!コイツですコイツ!!」
耕田は後ろにいる俺ではなく左の窓を指差していた。
今は正面に向いていた為、さっきまで俺がいた左側は窓枠の外である、
「何を言っている...?こ、耕田。ついにお前頭が...」
先生は慌てて耕田を抱き抱えた。
「せ、先生なんすか!?」
「今、保健室に連れて行ってやるからな!いや、病院だな!待ってろ耕田!」
「せ、先生!指差した方向にいる親友に目潰しされたんすよ!本当ですよ!?」
「耕田...お前は元から変態でアホだったが...ついに精神がおかしくなって幻覚が...」
「ちょ!先生!俺、大丈夫ですって!幻覚の親友なんて居ませんって!先生!ねぇええ!!」
先生に抱えられ何処かに消えた。
あ、ばいばい。変態。
「ふふっ。成部君が笑ってるなんて珍しいね」
「わ、笑ってたのか俺」
「うん。朝も笑ってたよ」
「そうか・・・」
少し頭痛がして来た。
「ねぇ、成部君?」
「ん?」
「私も成部君の友達になれないかな?」
「・・・・・」
「ダメかな?」
「ダメ」
「ダメなの!?」
==================================
その後、隣の席の女子が宮井って名前なのを知った。
何気にこの子も可愛い。しかも優しい。
だから、名前を覚えた。最低?うるせぇ。
放課後のチャイムが鳴る。
「じゃあね。成部君」
「おう、じゃあな。宮井」
ははは〜っ。
なんか癒される。あの子が手を振る姿だけで。
あー浄化される。
「むー」
「なんだよ、転校生」
「なんで宮井さんは名前で呼ぶのに私は呼んでくれないんですか!」
「強いて言えば格の差だ」
「何のですか!?」
お嫁さん度だ。それがこの世の戦闘力。
なんか、こういうラノベありそう。
そういや、ラノベとかって小学五年で初めて中学入る前にやめちゃったなあ。懐かしい。
「じゃあ、帰りましょうか」
「おう、じゃあな」
「はい。では行きましょう!」
「・・・・・ん?」
「レッツゴーです」
「へ?」
==================================
またも雑談している俺と転校生。
その放課後バージョンだ。
何故、続編が始まった。何故、俺に付いて来んだコイツ。
「それでですね。石屋さんがあそこのクレープ屋が美味しいって言ってたんですよー!」
「へ〜なるほど。よし、じゃあな」
「あ、そうです!高野さんが彼氏さんに浮気されたそうですよ。可哀想ですね〜」
「へ〜可哀想。よし、じゃあな」
「堀さんみたいに踊れる人ってかっこいいですよね〜」
「へ〜カッコいい。よし、じゃあな」
「あとは〜」
「早よ、帰れや!なんで付いて来んだよ!」
「わ、わ、わ、私もこっちなんですよ〜?」
「めっちゃくちゃ怪しいな、お前!!」
「あ、怪しくなんかないです!すっごく真っ白な人ですよ!?天使ですもん!」
「何言ってんだお前」
天使ってちょくちょく言うがよく分からん。
「何が目的だ。目的を言え」
「も、目的?」
こんだけ俺にこだわるんだ。なんかある。絶対ある。
「わ、私は貴方を楽しませたい!それだけですよ?ゆ、勇者〜とか異世界〜とか関係ないですからね〜」
「・・・・・・」
本当にコイツの考えは分からん。
はあ...、とため息をつき雑談を再開させて家まで帰った。
「本当に成部さんは勇者とか関係なくですけどね」
たまによく分からんことを言うから困る。
帰る際、公園は通らなかった。
転校生に送ってもらう形になったが、俺はお前ん家まで送らない。面倒臭いからな。最低?うるせぇ。
==================================
【第3.5話「雪降る赤のリフレイン」】
ガヤガヤ。
そこはバスの中。
悪夢だ。いつもの悪夢。
––––バンッ。
その音は耳をつんざく"銃声"だった。
車内は状況理解に数秒経ちパニックに陥った。
––––バンッ。
「うるせぇ!!」
二度目の銃声と低い男の声。車内は静かになった。
その男達は三人組。銃を一人が携帯していた。そう、乗客に紛れたバスジャックだった。
運転手を脅して温泉に続くトンネルではなく横の山道を走らせた。
乗客を後ろに行かせ、身体チェックと荷物の確認、携帯を没収した。
子供のおもちゃの何個かは見逃された。
男達は名の知れた犯罪グループの一員だった。
バスの乗客を人質にして、仲間の釈放を要求した。
皆んなが困惑、動揺、恐怖を露わにしていた。
だが、俺と"アイツ"は違った。
「俺達がやるしかない」
「そうだよな...楼努、いつ行く?」
当時の俺とアイツは中学生前の馬鹿なガキだった。
俺達ならなんでも出来る。そう思ってたんだ。
学校で俺達二人は、最強。なんでも出来たし、怖いものはなかった。
皆んなに頼られるリーダー的存在になった。だから、調子乗っていたのだ。
「アイツら二人が携帯と荷物を保管してて、あのリーダーっぽい傷野郎が銃持ち」
「銃持ちと接触して銃を奪いたいところだな。呼んでも多分、銃持ちは二人に任せると思う。だから、二人が外せない要件と必ず銃持ちが近付かないといけない要件もしくは近付ける要件を作らないといけない」
「なるほどな。一番は誰かがしょんべんとかしてくれると助かるんだけどなあ」
「まあね」
「リーダー、ちょっとしょんべんしたいんだが」
「「!?」」
傷野郎ではない、二人のうちの一人が尿意を催したようだ。
その時バスは、左に車じゃ登れない急な傾斜、右に崖がある細い一本道を走っていた。
「バスの出入り口にでもしてろ」
「ういー」
「ったく、臭くなるだろーが」
なんと一人が奥に行ったばかりか、銃持ちであり傷野郎自らがこちらに近付いて来た。
これなら、多少あっちに歩いてもまだ撃たれない。
「行くぞ!やるしかない!」
「おう!俺がもう一人を引きつける!」
「わかった!」
俺達の小さな作戦が始まった。
「あのー!なんか後ろの車に付けられているみたいですよ?」
「え、なんだと!?」
「オイ、お前。後ろ行って見て来い」
「へい、リーダー」
すると、一人が後ろに行く。
アイツが引きつけているうちに、俺も!
「あっ」
「ん?」
「す、すいません!!」
俺はオモチャの小さなコマを傷野郎の足元にわざと投げる。
そして、動くなと言われる前に傷野郎に近付く。
「動くな...オレがとってやる」
まあ、近距離までは近付けた。
本来は傷野郎がコマを拾おうとしゃがんで、立ち上がる瞬間を狙い胸ポケットに入れた銃を取ろうとしたんだが。
まだ方法はある。
「ん?車ってどこだよ?」
「あれです!あれ!あの白いワゴン車!」
「あん?」
どうやらまだ、後ろでは時間を稼いでくれてるようだ。
「ふぅー長かったぜ」
奥のしょんべん野郎は終わったようだ。急がねば。
よし、作戦Bだ。
「ほらよ」
傷野郎はポイっと俺にコマを投げる。
「ありがとう・・・」
俺はそれを片手でキャッチして。
「ございますッ!!」
片手で顔に向けて投げ返した。
「うぐっ」
よし!顔をそらした!
俺は瞬時に傷野郎に近付き銃を奪った・・・が。
「このガキィ!!」
銃身を掴まれた。
大人の力だけあって構えることすらままならない。
「クソ!」
そうこうしてるうちに二人が気付いた。
「どうした!?」
「リーダー?」
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
こうなったら、ヤケクソだ!
バンッ!
–––ここで俺は過ちを犯した。
元々ガキ二人がバスジャックなんか考える大人に敵うはずがない。過ちは、もうとっくに犯していた。だが、まだ最悪の事態は止められたんだ。俺だけが死ぬだけで済んだかもしれないんだ。
俺が、【銃を撃たなければ】。
銃弾は誰にも当たらず、正面のフロントガラスに当たった。
だが、それに驚いた運転手が少し右回りにハンドルを回してしまう。
さらに、しょんべんに行っていた男がバスが石を踏んだことで揺れ、よろめいて運転手に寄りかかってしまう。
さらにハンドルは右に、
バスも右に向いて行き、
––––バスは崖から落ちた。
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目が覚めると地獄だった。
「痛っ」
身体が痛くて痛くて仕方なかった。
俺は見知らぬ雪の積もる平地にいた。
正面にはバス。上には、山。
バスが山から落ちたことを理解した。
俺は痛い身体を引きずりバスに近寄った。
バスと言ってもところどころがボコボコで雪に半分埋もれていた。
地獄はそこにあった。
「–––––––––え?」
ところどころに血が飛んでおり、バスに入った雪は赤く染まっていた。
中は肉片が飛び散っており、四肢などの身体から千切れたモノもそこらにあった。
顔を見た時が一番辛かったのを覚えている。
「痛い...痛いよ」
「た、助けてくれ」
「か、神様...」
まだ生きている人がいた。
その声は苦しみと悲しみと痛々しい小さなか弱い声。
俺の耳にはよく聞こえた叫びだった。
「あ、み、みんなは...」
ようやく状況を理解していき。
一緒にバスに乗っていた"家族"と"親友"を探す。
「父さん!母さ」
バスの後ろに回り込むと見知った顔が窓から出ていた。
「あ...ああ.....ああ」
母さんだった。
何度、見ても母さんだ。俺を見ている。母さんだ。知ってる。母さんの顔だ。ご飯作ってくれている俺の親。ありがとう母さん。明日温泉から帰ったらまたご飯作ってくれるんだろ。分かってる。待ち遠しい。ハンバーグだって言っていた。美味しいんだ。好きなんだ。好物好物。あ、なんか服が赤く汚れてる。母さんに洗濯してもらわなくちゃ。怒られるんだろうなあ。めっちゃくちゃキレるんだろうなあ。また、しょーちゃんと暴れたの!とか言って。キレると母さんは怖い。父さんもビクビクしてる。俺はいつも次は気をつけるを言いまくる。今回もそれでいこう。そろそろ怒られるだろうか?やめてくれよ母さん。食べ終わった食器洗うから。怒らないでくれよ。だから、母さん。そんな顔を向けないでくれよ。なあ。
母さん...。
「う、うあ...ああああ...あ、あ、ああ」
涙が止まらない。
「誰か...いるのか?め、目がみ、見えないんだ...た、たす、けを...」
「助けて...」
「お、ねがい、ね、え」
他の人の助けを求める声。
聞きたくない...。
「痛い...」
聞きたくないんだよ...。
「助けて...」
俺は自分の耳を手で塞いだ。
「痛いぃ!」「死、たく、な」「あああ!」「いやだよ...」「た、助けろ...」「なん、でだよ」「はあはあ」
知らない。
知らない。
知らない。
知らない。
知らない。
「ねぇ、助けてよ」
やめてくれ。
俺の・・・俺のせいなんだろ。
俺が引き金を撃ったから。
俺が、皆んなを。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
俺は謝罪しかできない。
何でも出来るわけがない。出来ないことは存在する。
普段信じない神にどんだけ祈っただろうか。
当然、神に祈ろうが【奇跡】は起きない。
その後、今回のバス事故についてニュースや新聞で発表された。
死者41名、行方不明者3名–––––生存者1名。
俺だけが生き残った。
そして、ニュースや新聞で俺が生きてたのは、
すごい【幸運】だ。君だけでも生き残れて【よかったね】。それだけでも【神様に感謝しなきゃ】。
–––【奇跡】が起きたんだね。
【奇跡】は起きなかったのに、俺は奇跡の少年と世間で呼ばれた。
ああ.....奇跡ね。俺が生きていたことが。
父も母も妹も親友も死んだのに。
俺の身勝手な正義感のせいで皆んなを死なせたのに。
こんな罪悪感の中、生きるのが【幸運】?
許しを乞うことすら出来ない人生が【よかった】?
神様は助けてくれなかったのに【感謝】?
こんな心苦しい世界に残されたことが【奇跡】?
ふざけるな。
中学に上がって沢山のヤツらに話を聞かせてと聞かれた。
テレビや雑誌のインタビューもあった。
警察の事情聴取もあった。
そして誰も彼もが。
『奇跡だよな。唯一生き残っただなんて。死んだ人の分生きなきゃな!』
ふざけるな。
お前らに俺の何が分かるんだ。
俺はバス事故の乗客全ての葬式に行った。
その家族・親族が、死んだ乗客の死に様を聞いて来た。
思い出せることは全て答えた。
そっかと笑って泣いた。
俺はまた胸が苦しくなった。
そして、よかったね。家族はそう言った。
他の人たちとは違う。哀れみや同情の言葉じゃない。
なんで、貴方なの?という嫌味だろう。
ああ。まったく持ってその通りだ。
そして、アイツの母親は。
「う、ああああああああああああ」
ずっと俺を抱きしめ泣いていた。
俺の胸は張り裂けそうだった。俺も事故ぶりに涙を流した。
その後、良かったね良かったねって。
息子を亡くした嫌味と息子の親友の生存を喜ぶ祝福が混ざった言葉を聞いた。
ありがとうございます、俺はそう答えた。
そこからの日々は、何もかもどうでもよかった。
学校に行かない日もあれば、不良と喧嘩したりした。
アイツの母親に心配されたけど、分かってますって答えた。
あーこれが、奇跡を起こして得た日々か。
・・・・・。
ふざけんなよ...チクショウ。
俺に日々を楽しむ資格はない。
俺に幸せに生きる権利はない。
あるのは、
この苦しみを抱えて生きる義務。
この記憶を忘れずに生きる責務。
俺はこの日々を生きる。
それが贖罪になることを願った。
それで罪を許される奇跡を祈った。
「成部さん!」
「親友!」
「成部君!」
「ジジイ!」
「ロウド!」
そんな俺に光が差した。
ダメなんだよ。俺は悪いヤツだから。
だから、そっとカーテンを閉じた。
そして、あの日と同じように、
助けを求める声から逃げる為に、母の死という現実から逃げる為に、
––––耳を手で塞いだ。
To be continued...。
山口 乃ガマです。投稿遅くなってすみません。
最初に一つ言わせて下さい・・・ブックマーク付けてくれた人!ありがとうございますー!嬉しいです!どんな理由でも!励みになります!!
ありがたいなと言うお話でした。ちゃんちゃん。
で!ずっと言えてなかった、今作の話について!
今作は異世界物!実は前作にやってるんですよねぇ。魔王を倒そうってヤツ。でも、あれは、基本真面目なんで!今作は基本ギャグなんで!てか、昨日前作見たら案外ギャグのところ面白おかしく書いてんな、俺!前作の続き書きたくなったわ!(自意識過剰でございます)
とにかく、今作はロウドたちの魔王を倒すはずの旅がふざけている物語ですので、たまにクスクスニヤニヤしてくれたら嬉しいです。
次は3話について!
イリネル(転校生)が関わることでロウドの性格が周りに知られていって耕田と宮井という関わる人間が増えていきました。
あとロウドの過去とトラウマですね。全て自分のせい、責任を感じ、楽しむこと、幸せに生きることを拒絶しているロウド。彼の心に光は差すのか!?差して貰わなきゃ困ります!サブタイトル、全力で楽しむ魔王退治旅なんですよ!?全力で楽しむなんですよ!!
次回は第4話「終わる悪夢、始める日々」です。4月2日の夜に投稿です。よろしくお願いします。次回は今回投稿遅くなったのに短かった分、話長いですよ!お楽しみに!
最後に嘘を謝罪!前まで4話から異世界って言ってましたけど1話だけ増やしました!5話から異世界です!お願いします!
あと後書き、20行超えてますね!次回からは宣言通りにするんでお許しを!