CASE1:歌う少女と飴玉青年 〜プロローグ〜
私は歌う。
「~♪」
元々は気晴らしだった。
とても嫌なことがあって、ぶつけ所も分からなくて、自棄になって、駆け込んだ公園で大声を出した。叫んで、叫んで、叫ぶのに飽きて、歌った。
歌詞なんてうろ覚えだったし、叫んだ喉が痛くて音程だって怪しかった。
だけれども。
そんなボロボロの歌声を、聴いていてくれた人がいた。
歌うのにも疲れて座り込んでいたら、『変な歌だな』と言って頭を撫でられた。
その手のひらがなんだか温かくて、気が付いたら涙が出た。涙を意識したら止まらなくなって、声を出して泣いた。
するとあの人は慌てて、私をなだめようとわんわん声を上げる口の中に飴玉を押し込んできた。
酸っぱい、レモン味。
びっくりして泣き止んだ私に、あの人は苦笑いを浮かべて『次はいい歌を聴かせてくれ』と言って飴玉の詰まった袋を押し付けて去っていってしまった。もしかすると、変な歌だと言われたから泣き出したのかと思ったのかもしれない。
それから二日後、公園に行くとあの人がいた。
ベンチに座って本を読んでいて、私と目が合うと手を挙げて挨拶をしてくれた。
私もベンチに座って、自己紹介をした。
なにか話そうとしたけど、なにも出てこなくて、あの人もなにも聞いてこなくて。
困った私はあの人が言った言葉を思い出して、歌い出した。
今度はちゃんと歌詞を覚えている歌を歌った。音程にも気をつけた。緊張したけど、なんだか気持ち良かった。
歌い終わるとあの人は『いい歌だな』と言って頭を撫でてくれた。
「〜♪」
私は歌う。誰の為でもなく。
ただ、届けたい想いがある。