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許嫁

 真優は、最初にオファーを出してきた芸能プロダクションと、正式に契約した。


 ただ、彼女の売り出し方は特異であった。

 これまでの経緯のインパクトと、本人の希望もあり、真優は、「環境問題特化型アイドル」としてデビューする事になったのだ。


「エコ・アイドル 宮本真優」


 なんか、安っぽいイメージだな、という亮太の意見に、彼女はちょっと口を尖らせながらも、嬉しそうな表情だった。


 そんな真優が、あっさりと高校を中退したのには、彼だけでなく、クラスの、いや、海里高校の生徒全員が、少なからずショックを受けた。


 彼女の人気が想像よりも遙かに高く、また、幸か不幸か、仕事もたくさん入ってきたのだ。

 今後は東京で通信教育での授業を受けながら、本格的にエコアイドルとして活動していく、という事だった。


 そして彼女は、テレビ番組の企画で、ルシファーと関連を持った人々と対面した。


 海夕館の取材に訪れた際には、ルシファー突入時の対応に当たったスタッフと対談し、想像以上に緊迫した状況だったことに、驚きを隠せないでいた。


 鉄骨に挟まれ、危うくルシファーに押しつぶされそうになった杏奈と、その彼氏である達也とも会った。


 杏奈はすっかり元気になっており、テレビの取材ということで、ハイテンションで、自分の体験をやや大げさに、自慢げに話していた。


 そしてその間ずっと、ほとんど何もしゃべらない(しかし、彼女を助け出し、世間では英雄視されている)達也と、ぴったり肩をくっつけて座っている様子は、真優と視聴者を多少妬かせるものだった。


 さらに真優は、美海原子力発電所で、最後まで格納容器内に残った作業員十六名とも念願の対面を果たした。


 その内の一人は、NKHG社員の新藤だった。

 真優は一人一人と握手し、お礼を述べていった。

 彼らは、真優の髪を切りながらの祈りを見せられ、奮起したという。その意味で、作業員も彼女に感謝していた。


 実際の所、ルシファーの被害が拡大するかどうかは、紙一重だった。


 事前には公開されていなかったが、厚さ二十センチの圧力容器のうち、ルシファーが通過すると思われる部分について、あらかじめ十五センチも削り出していたというのだ。


 ぽっかり空いたその空間には、例の圧力でゲル化する「SPプレスゲル」が埋め込まれていたという。この措置により、ルシファーの圧力は、薄くなった金属壁部分に一点集中し、その部分のみの破壊に留まった。


 突入前夜、NKHG社員新藤のこの緊急提案は、当初、対策本部長を激怒させた。

 圧力容器本体壁面を一部分とはいえ削り出し、薄くするなど、とんでもないことだ、と。


 削りすぎれは穴が開き、即座に放射性物質が大量に漏れ出す。そこまでいかなくても、その部分をわざと壊れやすくするなど、あまりに危険な掛けだった。


 しかし、新藤は冷静に、論理的に、説明を続けた。それで、本部長も動かされ、他の幹部職員を招集しての徹夜の緊急会議で、最終的には多数決で提案通りの実施を決めたのだ。

 その処置がなければ、丈夫すぎる金属壁のため、原子炉が倒壊するか、大きく裂けていたかもしれない。


 また、圧力容器の外側に、伸縮性のある樹脂を蒸着したことも、結果的には効果があった。


 空気を入れた風船に針を刺すと、当然破裂する。

 ところが、風船の表面にセロハンテープを貼り、その上から針を刺すと、風船は割れない。

 専門家によると、その現象が鋼鉄製の原子炉圧力容器にも起きたのだという。


 しかも、取り付け作業中に不備が見つかり、完全に密着を完成させたのは、ルシファーが原子炉に突入する、わずか五分前だった。その間、作業員達は放射能と死の恐怖に怯えながらも、真優の泣きながら祈る姿を思い出し、ぎりぎりまで粘ったのだということだった。


 このインタビューは反響を呼び、後に彼らの活躍をドキュメンタリー映画にする事が決定。

 真優は、この映画に「作業員に向けて祈りを捧げるヒロイン」、つまり「本人役」として出演することが既に決まっていた。


 その他、ルシファーの被害に遭った人々とも、できる限り会って話をするようにしていた。

 彼女の活動はテレビ放送され、それを見た視聴者から多くの義援金が寄せられた。

 被害に遭った民家等の修繕費は、ほぼ全てそれでまかなわれたということだった。


 そして今日、その真優が、初めてテレビの生放送に登場する。

 昼休みに放送される、長寿バラエティ番組だった。


 その日だけは、昼休みに教室のテレビが点けられていた。

 クラスの生徒全員、パンや弁当を買ってきて、教室で食べている。

 同級生の生出演を前に、全員そわそわと落ち着きがない。


 亮太の席は、幸か不幸か、窓際の最後方だった。

 ちょっと画面は遠いが、落ち着いて観ることができる。

 そして、トークコーナーのゲストとして、真優は登場した。


 会場から沸き起こる、黄色い歓声。


 (真優の人気は、女の人にもこれほど高かったんだな……)


 「まゆりん」という、新しい愛称を叫ぶファンもいた。 


 真優はわずかながら髪が伸びているものの、やはりまだ、ボーイッシュなイメージだ。

 しかし、うっすらとメイクを施しており、ちょっとラフな感じだがこぎれいにまとめた衣装の影響もあり、まさにアイドルそのもの、輝くように可愛らしく、彼の目には映った。


「髪、切った?」


 司会のノモリさんの、物まねでも使用されている台詞がでて、会場からちょっと笑いが起こる。


「あ、はい、三ヶ月前に、ほとんど全部自分で……」


 ちょっと天然な真優の答えに、事情を知っている観客から、また笑いが起こる。


 その後、ノモリさんの


「エコアイドルだって? へえ、なんか安っぽいね」


 というイジリにも、


「はい、親友にも同じ事を言われました」


 と、無難に受け答えしている。


(うん、なかなかいいぞ)


 その後も、若干ピントのずれた答えもしていたが、既に天然キャラであることはバレていたので、大きな問題にはならなかった。


「でも、アイドルになると大変だよ? 恋愛とか、禁止なんじゃないの?」


「あ、はい。でも私、元々恋愛には興味ないので、全然平気です」


 その言葉に、亮太は、ちょっと切なさと、逆に他の人に取られないだろうというわずかな安堵感を覚える。


「へえ、そうなの。興味ないんだ。じゃあ、一生独身でもいいの?」


「いえ、結婚はしますので……うん、三十五歳ぐらいまでにはしたいです」


「そりゃ、そうだろうね。将来、どんな人と結婚したい? やっぱり、プロ野球選手とか?」


「あ、私、相手はもう決まっているので」


 その発言に、会場がざわつく。亮太達のクラスも、ちょっとざわめいた。


(……って、えっ? 真優、何言っているんだ?)


「決まっているって、どういうこと?」


 ノモリさんが食いついてきた。


「はい、私の両親と、相手の両親が凄く仲良くて、私が生まれてきたときに、子供同士を結婚させようって決めちゃったらしいんです。相手も全く同じ日に生まれましたし。そういう、もう相手が元々決まっているの、なんとかって言ってたと思うんですけど」


「……許嫁(いいなずけ)?」


「あ、そうそう! それです! 私には、許嫁がいるんです!」


 会場、騒然。


(おまえ、何てことを全国放送、それも生放送で言っているんだ!)


 だが、亮太は焦っているはずなのに、涙を浮かべていた。


「いまどき許嫁が居るんだ! すごいね、真優ちゃんは、それでいいの?」


「はい、私としては、相手が決まっている方が気楽でいいかなって思ってます」


「じゃ、相手の事、好きなんだ?」


「……うーん、正直、私、恋愛感情っていうのはよく分からないです。でも、その相手とは小さな子供の頃から家族同然にすごしてきましたし、仲はすごくいいですよ。私がこの世界に入っても、待っててくれるって言ってくれましたし」


「ふーん、じゃ、その人と結婚することに抵抗はないんだ」


「はい、全然」


 会場とクラスのざわめきは収まらないが、雰囲気は悪くなさそうだった。


 これが「彼氏います」だったら全然別反応だったかもしれない。だが、「許嫁います」は、どうリアクションしていいかわからない、という戸惑ったような感じだった。


 その時、亮太はもう涙を溢れさせていた。


(……お前はずっと子供の頃からの約束、覚えていたんだ……あのとき、「亮太は家族」って言ったのは、ひょっとして許嫁って事を言いたかったのかな……)


 席が一番後ろの端っこで良かったと、彼は思った。

 泣き顔を、クラスのみんなに見られなくて済むから……。


「ふーん、なんか、ちょっとうらやましいね。じゃ、今日、その許嫁の彼、テレビ見てるんじゃない?」


「はい、ひょっとしたら見てるかもしれないです」


「じゃあ、その彼に向かって、挨拶してあげなよ」


「うーん、そうですね、じゃあ……」


 真優はそう言うと、アップで映しているカメラに向かって、笑顔で両手を振り始めた。

 そして一言、元気よくこう言った。


「亮太、見てるぅー?」


 ……彼は硬直した。

 一瞬遅れて、クラス全員が振り返り、視線が彼に集中した。


「え……いや、あの……」


 口をぱくぱくさせ、明らかにきょどってしまった亮太。

 次の瞬間、体が何者かによって後方に引っ張られ、背中から椅子ごと床に叩きつけられた。


 なんとか柔道の授業で習ったばかりの受け身を決め、無傷だったものの、ひどいことをする奴がいる。

 抗議をしようとそいつを見ると、悪友の敬一だった。


「何するんだ……うっ、うわあっ!」


 見ると、クラス中の男子生徒が集まって、彼に暴行を加え始めた。


「この野郎っ、抜け駆けしやがって!」


「なにが許嫁だ、バカヤロウ!」


「いや、ち、違うっ……違わないけど、違うっ……!」


「問答無用だ!」


「ひっ……ひいいぃー!」


 もちろん、みんな、本気で殴る蹴るをしてきた訳ではない。

 全員、笑っていた。

 だが、結構痛い。


 その痛みと、パニックの中にあって、それでも彼は、人生最大の幸せを感じていた。

※今回のお話で、このストーリーは完結となります。最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました(^^)。

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