第八話「情報集め」
水色のバックにピンクの文字でランファンと書いてある大きな看板の掛かる店に来た。
日本語でもないし英語とも違う不思議な文字だが何故か読むことが出来た。
人間は元より獣人たちとも普通に話も通じる。
これも神様の力なのだろう。
「派手な店だな」
呟く秀樹の隣で栄二もうんうん頷いている。
男二人なら入るのが恥ずかしくなるような店だ。
「何突っ立ってんだよ、早く入ろうよ」
ナナハが秀樹の腕を掴んで引っ張った。
「おわっ! 」
女の子に腕など掴まれたことのない秀樹が変な声を出す。
「なに? 何かあった? 」
「いや、何でもない、急に手を掴まれて驚いただけだ」
きょとんとして訊くナナハの前で秀樹が真っ赤になって言い訳だ。
「ふ~ん」
ナナハがニヤッと悪戯っ子のように笑うと秀樹の腕を掴んだ手をくるっと巻き付けるようにして腕組みをする。
「ひぅっ! なっなにを…… 」
「あははははっ、何照れてんだよ、ランファンはカップルで入ると少し割り引いてくれるんだよ、奢りでも少しでも安くなった方がいいだろ」
「かっ・か・か・かっ……カップル…… 」
全身真っ赤にして秀樹がまた固まった。
女に抱き付かれるなど初めてのことだ。
「その代わりデザート二つだよ」
ニッコリと笑うナナハに向かって秀樹はうんうんと首を振るのがやっとだ。
腕に当たるナナハのおっぱいが気持ちいい、女の子のいい匂いもする。
頭がぼーっとなって何も考えられなくなっていく、女に対して免疫の無い秀樹はナナハの言うがままである。
「そうだね、栄二くんって言ったね、私たちもカップルって事にしようね」
バーンのジェシーが栄二の腕に抱き付いた。
「あっはあぁ…… 」
真っ赤な顔をした栄二が幸せそうに息を吐き出しながら喘ぐように声を出す。
慣れた感じのナナハとジェシーと腕組みをしてカチンコチンに固まった秀樹と栄二がランファンの店に入っていった。
ポップな色使いの店内にはカップルと女の子たちのグループしか居ない、はっきり言って秀樹と栄二には居心地の悪い店だ。
「あたしたちはグラングランにするけど秀樹と栄二は何にする? 」
四人でテーブルを囲むとナナハがメニューを差し出した。
「グラングラン? 」
「これだよ、この店で一番美味しいからお勧めだよ、いろんな種類があってあたしはバリモア蟹のグラングランが好きでジェシーはコロコロ貝のが好きなんだ」
秀樹が訊くとナナハがメニューを指差して教えてくれた。
グラングランとはグラタンのような食べ物らしい、他にも何処かで見たことのあるようなものが並んでいるが全く味の想像ができないような物も並んでいた。
「グラングランも知らないなんて本当に何も知らないんだね」
ジェシーが驚いた顔で二人を見つめた。
「うん、本当にこの世界のことは知らないんだ。それでジェシーさんに教えて貰おうと思って声を掛けたんだよ」
照れるように笑う栄二の頬がまだ赤い、目の前に頭から角を生やしたバーンのジェシーが居るのだ。
人外好きの栄二にとって正に夢のような一時である。
「ふ~ん」
何か思い付いたのかナナハがニッと悪い笑みをした。
「あたしたちが町を案内してやろうか? 」
「本当か? 助かるぜ」
身を乗り出す秀樹を見てナナハが悪い笑みのまま続ける。
「三千ギギルだ。町の案内とあたしの知ってることは何でも教えてやるよ」
「ちょっ、ナナハなに言ってるのよ…… 」
隣に座るジェシーが慌ててナナハの裾を引っ張った。
「三千ギギルか…… 」
座り直して考え込む秀樹を見てナナハがダメかというように背もたれに体を押し付ける。
様子を伺っていた栄二が口を開いた。
「ナナハさんとジェシーさんの二人で三千ならいいよ、一人三千はちょっと勘弁してよね、この先何があるのかわからないから無駄に使えないんだよ」
「そうだな二人で三千なら俺も賛成だ。闇雲に町を回るよりはいいからな」
初めから全ての情報が只で手に入るとは考えていない。
この店の奢りが二人で三千、案内が三千なら栄二と二人で丁度三千ギギルずつ出せばいい、何よりも可愛い二人が案内してくれるのだ。
情報料としては妥当だと考えた。
「奢って貰うんだしお金なんかいいよ」
「町の案内で二人の時間を潰すんだしアルバイト代だと思ってよ、その方が僕たちも話を聞きやすいからさ」
申し訳なさそうに上目遣いで見つめるジェシーの前で栄二が格好を付けた。
「よしっ決まりだ。飯食ったら案内してやるよ」
ナナハが旨くいったという様子でニッと楽しそうに笑った。
「その前にこの世界のことを話してくれよ」
「話しは後だよ、先に御飯食べようよ、僕もジェシーさんと同じグラングランのコロコロ貝でいいよ」
「そうだな、先に飯にするか、俺もバリモア蟹のグラングランでいいぜ」
秀樹がメニューを閉じるとナナハが店員を呼んで注文してくれた。
グラングランが運ばれてくる十五分ほどを使ってナナハとジェシーがこの世界のことを大まかに説明してくれた。
二人の話によるとこの世界には人間と魔族と獣人とエルフが暮らしていて普通の動物や魔物などがいる。
エルフと人間は比較的仲がよくお互い争いはしない、ゴブリンやオークなどは人間の敵である。
獣人と人間は争いもするし協力もする。
人間は獣人を奴隷にする事もある。
逆もしかり獣人も人間を奴隷にする。
商売などで交流もあるのでお互いの町で暮らせるように各国が協力して許可証を発行している。
許可証を持つものは人間の町も獣人の町も自由に行き来できる。
許可証を持つものはどちらの町でも対等の権利を与えられるのだ。
従って差別されたり奴隷にされるようなことはない、ジェシーも許可証を持っているから普通に暮らしているのだ。
奴隷は普通にいる。
借金の形に売られたり人間が人間を騙して獣人へ売ったりその逆も多々あった。
互いの町を襲って奴隷にしたりすることは殆ど無い、そんな事をすれば全面戦争になってしまう、何の利もないことは人間も獣人もわかっている。
奴隷も金持ちの道楽で虐待を受けるようなことは稀である。
五~十年ほどすれば許可証を与えて解放してくれる金持ちが殆どだ。
それ故自ら望んで奴隷となるものも少なくは無い、この世界の奴隷は労働力ではなくペットの意味合いが強いのだ。
人間と獣人はお互い欲深くて罪深い生き物ということである。
魔族と人間は敵対している。
個々の力では圧倒的に魔族のほうが強いが人間は数を頼みにこれまでどうにか互角に戦ってきた。
魔族はエルフとも仲が悪いがダークエルフは別である。
勇者や剣士や戦士に魔法使いなども複数いる。
人間はもちろんエルフや獣人の中にも勇者や魔法使いがいて魔族と戦っている。
魔族が棲む黒い森や黒い海などには普通の人間はもちろん勇者たちも滅多に近付かない。
勇者たちはこちらから魔族に攻撃を仕掛けるのではなく魔族が襲ってきた時に戦う事が多い、つまり国や町を守るために存在しているようなものである。
「まんまゲームの世界だな」
「そうだね、でも奴隷が酷い目に遭ってなくて安心だよ」
それほど酷い世界ではなさそうだと秀樹と栄二は一安心だ。
「秀樹たちの世界はどんなのだ? 」
興味津々といった顔でナナハが訊いた時、グラングランが運ばれてきた。
「食べてから話してやるぜ」
いい匂いに秀樹が鼻をヒクヒクさせる。
「そだな、続きは食後のデザート食いながらにしよう」
ナナハとジェシーに食べ方を習って秀樹と栄二がグラングランを食べ始める。
「旨っ! あちっ! 旨、旨い、熱い、旨い」
「本当だ。美味しいね、ソースも美味しいし何より具がいっぱい入ってるね」
秀樹と栄二が顔を見合わして笑顔になった。
グラングランは味はグラタンとよく似ている。
グラタンよりも深い皿にこれでもかと沢山の具が入っている。
栄二が頼んだコロコロ貝のグラングランには深い皿の3分の1がコロコロ貝で満たされているといった具合だ。
秀樹の方もバリモア蟹がたっぷり入っている。
具をふんだんに使った豪華なグラタンである。
「美味しいだろ、ランファンは高いだけあって材料ケチってないからな、自慢するあたしも月に1回くらいしか食べれないんだけどな」
「うふふふっ、そうだね、今日は得したね」
二人の食べっぷりにナナハとジェシーも嬉しそうだ。
美味しい料理を前に四人が話を止めて食べ終わる。
「ふぅっ、旨かった。ごちそうさん」
「こっちに来て初めての御飯だけど美味しかったね、これならやっていけそうだよ」
「ケーキも旨いよ、お勧めのやつ教えてやるよ」
「ナナハったら」
メニューを広げるナナハを見てジェシーが楽しそうに言った。
一緒に食事をして警戒心も解けたのか何となくぎこちなかったジェシーが今は自然と笑っている。
「はぁぁ~ 」
ジェシーさん可愛い……、栄二が溜息をついた。
二人が選んでくれたケーキを食べながら話しを再開する。
「俺たちの世界の話しだったな」
秀樹と栄二が自分たちの世界のことを身振り手振りを交えて説明した。
「船とか汽車はこっちにもあるよ、でも車とかは無いな、馬車はあるけど……そんな世界があるって信じられないよ」
半分疑うような顔のナナハを見て秀樹が笑い出す。
「はははっ、信じられないのはこっちだぜ、魔法の世界があるなんて流石夢の世界だ」
「そうだよね、ジェシーさんみたいに可愛い獣人がいる世界の方が信じられないよね」
栄二はジェシーに気に入られようと褒めてばかりだ。
「空を飛ぶ飛行機って言うの機械なの? 魔法で飛ぶの? それとも大きな鳥やドラゴンが引っ張ってるの? 」
「機械だよ、プロペラをクルクル回したりジェットエンジンで飛んでるんだ」
目を丸くして訊くジェシーに栄二が苦笑いしながらこたえた。
流石にもう慣れたのか秀樹も栄二も普段の顔と口調に戻っている。
ケーキを一口食べるとナナハがニッと笑った。
「けど食いもんとかは同じみたいだな、服もデザインがちょっと変わってるだけだし、秀樹や栄二となら旨くやっていけそうだよ」
口の中のケーキを果物を搾ったフレッシュジュースで流し込むと栄二がこたえる。
「同じような姿だからね、暮らしも似たようなものになって当然だよ、いろんな種族がいるのと魔法がある世界と違って僕たちの世界は人間だけだからね、便利になるように機械を発展させるしかなかったんだよ」
「機械の世界かぁ~、私たちも栄二さんの世界に行ってみたいよね」
憧れるようにジェシーが言う前で栄二が身を乗り出す。
「もし来れたら僕たちが町案内してあげるよ」
「その時は旨い店に案内しろよ、それと全部奢りだからな」
ジェシーに代わってナナハがニッと笑いながら言った。
「任せろ、バイトしてるから飯ぐらい奢ってやるぜ」
自慢の力瘤を見せて秀樹がニッと笑い返す。
「行けたらいいなぁ~~ 」
呟くジェシーに栄二は何も言えなかった。
この世界は本当に存在するのだろうか?
神様が作った夢の中の世界だとしたらナナハやジェシーは存在しているのか?
目の前にいる二人が、この町が、儚いものに思えて何も言えなくなったのだ。
秀樹の話が終わるとナナハとジェシーがこの世界についてまた話し始める。
食べる前に話した大まかな事を掘り下げて詳しく説明してくれた。
「二人とも人が良さそうだから言っとくけど騙そうとする悪い奴らは人間にも獣人にもいるから気を付けてね」
ナナハが最後に付け加えて話を終えた。
「魔族が最大の敵で魔物が次に怖い相手って事だね、でも町には滅多に現われないからそれほど警戒する必要は無い、気を付けないといけないのはゴブリンとオークとリザードマン、こいつらは町に入ってきて悪さすることもある。町の外には毒虫や猛獣もいるからそれにも注意だ。それと山賊や盗賊もいるから地方の村や野宿するときは気を付けないとダメって事だね、特に気を付けないといけないのは奴隷狩りをするハンターと呼ばれている人間や獣人だね」
頭の良い栄二が整理するように話を纏めた。
「ちょくちょく人間にちょっかいを出してくるゴブリンやオークにリザードマンに気を付けろって事だろ? 」
秀樹が今一わかっていない様子で言うと栄二の背をドンッと叩いた。
「その辺のことは栄二に任せるぜ、俺は覚えるのとか作戦とかさっぱりだからな」
「痛いなぁ……まあ任せてよ、僕の役割だと思ってるから」
背中を摩りながら言う栄二の背を秀樹がまたドンッと叩いた。
「はははっ、頼りにしてるぜ」
「敵と戦うのは秀樹に任せたからな……恒夫は何してるのかな? 」
背中が痛いのも忘れて訊く栄二の前で秀樹が顔を顰める。
「あいつは員数外だ。口が旨いから何かの役に立つだろうけどヘンタイだからな、基本的には期待してない、邪魔をしないように栄二も見張っててくれよ」
「パソコンや車やバイクも無い世界だしね、メカに強いのも活かせないか……銃はあるみたいだから整備とか任せられそうだけどね」
「恒夫って? 」
呆れて苦笑いする栄二を見てジェシーが不思議そうに訊いた。
「もう一人仲間がいるんだよ」
「ヘンタイだから会わなくてもいいぞ、っていうか会わせたくない、俺たちまでヘンタイだと思われたくないからな」
迷惑顔の秀樹を見てナナハが笑い出す。
「あははははっ、何でそんな奴と組んでんだよ」
弱り顔の秀樹がこたえる。
「神様が一方的に決めたんだから仕方ないだろ」
「だよね、でも友達だから信用は出来るよ」
苦笑いの栄二を見て秀樹もニッと笑顔に変わる。
「まあな、信用できなきゃゲームに参加してないぜ」
二人を見てジェシーが憧れるように口を開く、
「いいなぁ~、男の友情って……栄二くんたちのゲームが旨く行くといいね」
「友情って言うより腐れ縁ってヤツだけどな」
「そうだよね、僕と秀樹は幼馴染みだけど恒夫は中学からの付き合いだからね」
秀樹と栄二が居ないのを幸いと恒夫の悪口をナナハとジェシーにぶちまけた。
話を終えてデザートを食べ終わって店を出る。




