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第六話「参加者たち」

 会場の隅に設置された大きなテントの中で能力とアイテムを受け取る。

 先に決めたグループが列を作っていた。

 先頭は中津のグループだ。

 他のグループも直ぐに決まったらしく全6グループのうち秀樹たちは5番目に並んでいる。


 最後のグループは誰がリーダーになるか揉めていた。

 一目でDQNと分かるガラの悪い男二人に女が一人のグループで男がどちらが勇者になるか言い争っていた。

 しばらく争っていたが女が取り成したのか不貞腐れた顔をした男二人と呆れ顔の女一人が列に並んだ。



 能力とアイテムを受け取ってテントから出てきた秀樹を中津が待っていた。

 参加するメンバーで知り合いは秀樹たちだけだから何かと気になるのだろう、駆け寄ってきた中津と佐伯と東條を見て秀樹と栄二と恒夫の顔が曇る。


「秀樹、お前ら何を選んだんだ? 」


 魔法の杖を左手に持ちながら中津が訊いた。

 後ろでは佐伯が魔剣を腰にぶら下げている。

 運動神経抜群の佐伯が勇者で中津が魔法使いだと一目で分かる。


「江藤が魔法使いなの? じゃあ誰が勇者なのよ? 」


 佐伯の隣で東條が驚いた声を出す。

 体つきや運動能力からいって三人の中では秀樹以外に勇者は考えられない。


「栄二が勇者か? でも栄二も恒夫も魔剣を持ってないな」


 腰にぶら下げている魔剣を握りながら佐伯が不思議そうに首を傾げる。

 東條の驚く顔がバカにした表情に変わっていく、


「マジだ。お前ら勇者いないのかよ」

「どういう事だ? 何を選んだのか教えろよ」


 中津が怪訝な顔をして秀樹に詰め寄る。


「ああ俺たちは勇者無しだ。別にいいだろ勇者が絶対にいるわけじゃないんだしな」


 ムッとした怒り顔で秀樹が返す。

 隣で栄二も不機嫌な顔をしている。

 二人の後ろで恒夫が靴を履き直す振りをしながら足元に転がっていた石を二つ拾っていた。


 中津と東條がバカにしたように声を出して笑い出す。

 秀樹の友人である佐伯は何ともいえない表情で憐れむような目で見ている。


「勇者無しだってよ、マジかよ、秀樹が魔法使いだろ、栄二と恒夫は何を選んだんだ」


 一通り笑った後で中津が訊いた。

 気になって仕方がない様子だ。


「ああ俺が魔法使いで…… 」


 怒りながらこたえようとした秀樹の肩を恒夫がガシッと掴んだ。


「秀樹が魔法使いで俺と栄二はゴーレムだ。ゴーレム2体で戦うんだよ」


 前に出てきた恒夫が掌の上に乗っている小石を見せた。


 ゴーレムは普段は小さな石の形になっている。

 だが恒夫が持っている石は先ほど拾った普通の石だ。

 只の石をゴーレムだと嘘をついたのである。


 同じようにゴーレムを選んだ東條が石を覗き込む、


「ゴーレムか、私と同じだな、でも汚い石だな、私の持つゴーレムは紫水晶みたいに綺麗なのにな、まあヘンタイのゴーレムに相応しい汚い石だ」


 ばれる前に恒夫がさっと石を仕舞う、嘘をつく恒夫に何か言おうとした秀樹の腕を栄二が掴んだ。

 振り返ると栄二が何も言うなというように首を振って合図をした。


 石をポケットに仕舞ってから恒夫が続ける。


「俺たちのアイテムは今言ったゴーレムが2体と秀樹が持つ魔法の杖だ。能力は秀樹が魔法の力で俺が駿足で栄二が怪力だ。自分たちで好きな力を選んだんだ。勇者なんて誰もなりたくないんだよ、俺たちは俺たちのやり方でゲームをするんだからな」


 嘘をついているとは誰も思わない、いつもの飄々とした表情だ。


 恒夫はバカではない、勉強は今一だが頭の回転が速いタイプだ。

 もうすでにゲームは始まっている。

 中津もライバルだ。

 手の内を明かすような事はしない、それで嘘をついた。

 大きな魔法の杖は隠せないがイカサマサイコロとサトリ眼鏡はポケットに隠せる。

 どの道バカにして笑われるのなら教えないで裏をかいてやろうと考えたのである。


 頭のいい栄二は恒夫の考えを直ぐに理解したらしくテントを出るときには手に持っていたサトリ眼鏡を直ぐにポケットに隠した。


「勇者のゲームなのに勇者がいないのかよ、秀樹は魔法使いでいいとしてガリガリの栄二が怪力? 恒夫なんか駿足で逃げる気だろ、ヘタレかよ、お前ららしいぜ」


 中津が他の参加者にも聞こえるくらいにわざと大声を出した。

 秀樹たちをバカにして晒し者にするつもりだ。


「ゴーレムが二つなんて自分たちで戦うのが嫌なんでしょ? ゴーレムに戦わせるつもりでしょ? 本当にヘタレね、あんたたちと同じパーティじゃなくてよかったわよ」


 東條があからさまに軽蔑した目で追従してバカにする。


「秀樹そんなんじゃ勝てないぞ、俺たちもゴーレム一つ選んだけど基本的に戦うのは自分たちだぜ、恒夫と栄二がゴーレム選ぶ気持ちは分からなくもないけどな…… 」


 三人の中でただ一人、佐伯だけが心配してくれている。


 家が近所で幼稚園から秀樹と友人の佐伯は気を使っているのだろう初めから面と向かってバカにするような態度はしていない。

 もっとも秀樹に気を使っているだけで栄二や恒夫の事はバカにしていた。


 東條が佐伯の腕に自分の腕を絡めて腕組みをする。


「こっちは佐伯が勇者だからね、運動神経良いから天使の鎧なんていらないし、荷物運びがいればいいってゴーレム選んだのよ、戦いは佐伯と魔法使いの中津が担当で私はゴーレム使いと低級魔法で援護の役目よ、各自が決められた役目をこなすのよ」


 怪我を乗り越えてプロサッカー選手を目指すアニメ主人公のような佐伯と親しくなるチャンスを腐女子の東條が逃すはずが無い、自身がヒロインだと思っているような表情だ。


「こいつらに言っても無駄だよ東條さん、秀樹はともかくあとの二人はヘタレだから逃げる事しか考えてないからさ」


 中津がまたバカにする。

 自分たちはすでに勝ったつもりなのか余裕の表情だ。


 流石に腹が立ったのか秀樹が怖い顔で凄む、オタでも大柄でガッシリした体つきの秀樹は喧嘩なら中津などには負けない。


「んだと!! それ以上言ったら…… 」


 怒鳴る秀樹の肩を恒夫が後ろから掴んだ。


「止めとけよん、初めからバカにされるのは分かってただろ、それでいいんだぜ、それが俺たちのやり方だろ、それにバカなのは俺たちだけじゃないみたいだしな」


 薄い頭を撫でながら恒夫が目で向こうを見ろと合図だ。


「なんだ…… 」


 振り向いた秀樹が怪訝な顔になる。


「何だあいつら…… 」

「おいおい、勇者が二人いるぜ」


 中津と佐伯も呆れたように呟いた。



 どちらが勇者になるか揉めていたDQN三人組がテントから出てくる。

 三人組のうちの男二人が腰から魔剣を下げていた。

 まだ言い争っているところを見ると二人とも勇者の装備にしたのだろうと一目で分かる。

 女は魔法使いの格好だ。


「あいつら勝つ気があるのかな? 仲間同士で斬り合いでもしそうだぞ、傍から見ると俺たちもああ見えてるかもしれないからさ、もうこの辺で止めとけよ秀樹も中津もな」


 小声で言った恒夫に秀樹は素直に従う、怒りもすっかり覚めたようである。

 これ以上騒いで自分たちも同じように見られるのは嫌だと思ったのか中津も引き下がった。


 様子を見ていた天使ヘカロが秀樹たちの前に立つ、


「それぞれの考えや作戦がある。勇者が二人居ても別におかしくは無いだろう、人の事をどうこう言うのは勝ってからにするのだな、結構厳しいゲームだと教えておこう、では資金と野営道具などを受け取ってゲームスタートだ」


 各グループ寝袋やランプにナイフなどの道具と生活費としてのお金を貰っていよいよゲームが始まる。

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