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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
146/158

第百四十六話 「占領区」

 甲殻類人間に占領されている西地区の最前線に到着した。

 魚人や人魚が引っ張る船を使って水路を通ったので一時間も掛かっていない。

 早朝から作戦会議を始めて現在は人間の世界で言えば午前九時といったところだ。


「伝令~、伝令~ 」


 水路を通ってすらりとした細身の女人魚がやって来た。

 この国で泳ぐのが一番早い人魚たちが伝令兵を担っている。


 水路の脇で待っていた短髪青髪の女人魚バサにすらりとした人魚がピシッと敬礼をする。


「バッグス軍団準備完了、いつでも進軍できます」

「ご苦労、直ぐに返信するので待機していてくれ」


 敬礼を返すバサの元へ反対側の水路からも伝令がやって来た。


「ビギ軍団用意終了、攻撃命令待つとの事です」

「ご苦労、待機しててくれ」


 敬礼を返すとバサが細い水路を通ってスギナの元へと急いだ。


 獣人のギリーとバッグスが率いる魚人部隊が右から攻めて鬼のビギとグギが率いる魚人部隊が左から攻める手筈だ。

 ラグと秀樹と栄二が率いる魚人部隊は本隊のラグ軍団という事で正面から攻める。

 その後ろから進むのがスギナとキュキュと恒夫のいる短髪青髪の女人魚バサが率いる人魚部隊だ。


 部隊名にバッグスとビギの名前を使ったのは秀樹たちだけでなく魚人たちにも分かり易いからである。

 鬼とカバの獣人など一目見ただけで忘れないだろう、バッグス軍団と名を出すだけでカバの獣人が率いる右から攻めている部隊だと瞬時に分かるというわけだ。


 スギナの元へ短髪青髪の女人魚バサがやって来る。


「バッグス軍団、ビギ軍団、双方準備完了だ」

「にゅひひひひっ、ラグ軍団もオッケーだぞ」


 自分の名前を部隊に付けたラグが嬉しそうに満面の笑みだ。


「部隊長なんだからな自分勝手な行動はダメだからな」

「にゅふふふふっ、わかってるにゃ、あたいが切り込んで甲殻類どもをやっつけるんだろ? 任せとくにゃ、あっと言う間にやっつけてやるぞ」


 窘める恒夫に構わずラグははしゃぎっぱなしだ。

 そこへ大男の魚人ログマがやって来る。


 ログマは魚人の中でもトップクラスの戦士だ。

 ラグはともかく秀樹や栄二だけでは頼りないとラグ軍団には他よりも精鋭が揃えてある。


「ラグ隊長、来てくれ、特製のボートが出来たぜ」

「うにゃ! 出来たのにょか、んじゃ見に行くぞ」


 昨晩の宴会ですっかり仲のよくなったログマにラグが付いて行った。

 隊長専用として魚人が引っ張って高速を出せる船を作らせていたのだ。

 ラグと栄二が乗る船と秀樹が乗る船の2艇作ってある。

 これを使って水路を進軍していくのだ。


 はしゃぎまくるラグを見て恒夫が溜息をつく、


「やっぱり俺も行った方が…… 」


 不安気な恒夫をスギナが止める。


「ダメじゃぞ、秀樹や栄二と違ってお主は不死身ではないのじゃからな、魔族に不意打ちされても秀樹や栄二は大丈夫じゃがお主は一撃で死ぬ事もありうるからの、今回は相手の出方を見る作戦じゃ、じゃから無理はさせん」

「わかってるよ、俺と栄二で考えた作戦だからな」


 心配そうな恒夫の肩に栄二が手を置く、


「ラグさんには僕が付いてるから安心しなよ、不死身だからラグさんの盾になるつもりだよ、それに僕の持ってる空気玉をラグさんに使わせるから水中でも安心だよ」

「俺も見てるから心配するなよ、ラグちゃんはああ見えて責任感強いから部隊長だって注意したら無茶も止めてくれるよ」


 秀樹がポンと恒夫の薄い頭を叩いた。


「頼むぜ二人とも…… 」


 治癒能力を持っている恒夫にはギリーやビギたちが負傷した場合に直ぐに駆け付けて治療する役目がある。

 正面の後方にいれば左右どちらにも直ぐに向かう事が出来るのだ。

 もちろんスギナも同じ役目だ。

 これで何かあっても大きな戦力である獣人と鬼を失わなくても済むというわけである。


「案ずるな、何かあれば儂が直ぐに行ってやる」


 恒夫に優しく言うとスギナがバサに向き直る。


「伝令を送れ、進軍開始じゃ」

「伝令送ります」


 サッと敬礼してバサが水路を泳いでいった。



 五分もせずに伝令が伝わって攻撃が始まった。


「進軍開始にゃ、者ども続けぇ~~ 」


 高速艇の上でラグが手を振った。


 ラグと栄二を乗せたボートが大きな水路を軽やかに進んでいく、船と行っても動力が付いているわけではない、力自慢の魚人が引っ張ったり押したりして進むのだ。


「うにゃ! そこの魚人、あたいより先に進むにゃ」


 舳先に立つラグが先を行く大男の魚人ログマの部下を指差した。


「ダメだよラグさん、僕たちは道も知らないんだからね」


 一緒に乗っている栄二がラグを止める。

 栄二は隊長であるラグの副官としてボートに同乗している。


 秀樹の乗ったボートが隣に来る。

 ラグと栄二が乗っているボートと同じものだ。

 五人ほどが乗れる大きさの船である。

 秀樹の乗っている船は予備の船だ。


「ラグちゃんは隊長なんだぜ、少し後ろから指揮をするんだ。前にいる連中は偵察だ。隊長はどっしり構えててくれ、マーサさんたちや虫たちが出てきたら隊長の出番だぜ」

「にゃへへっ、そうだにゃ、あたいは隊長だからにゃ」


 逸るラグを秀樹が旨く煽ててくれた。


「んじゃ、隊長命令だぞ、もっと早く進むにゃ、敵が出てきたら直ぐに知らせるにゃ、あたいが速攻で倒してやるからにゃ」


 サッと手を振るとボートのスピードが直ぐに上がった。

 ボートを引いている三人の魚人はログマの腹心たちでラグの命令には絶対に従えと指示されている。


 秀樹がボートの横にいる魚人に頭を下げる。


「済みません、隊長を追ってください」


 魚人が手を振った。


「頭など下げないでくれ、俺たちがログマ様に叱られる。客人に従い護衛するのが俺たちの役目だ。ラグ隊長のように命令してくれればいい、ここに居るのは特に水中戦に強いものばかりだ。水中から襲ってくる甲殻類どもは俺たちに任せてくれ」

「ありがとう、水中から襲ってくる奴らは任せたよ、俺は魔法使いだ。魔法で援護するよ」


 礼を言う秀樹を見て魚人が嬉しそうに笑った。


 ラグのボートを追うように秀樹の乗ったボートも速度を増していく、2隻のボートの周りには護衛の魚人が12名付いている。

 水中戦に備えてログマが付けてくれたのだ。


 ログマは部下と共に2隻の船の先を進んでいる。

 その先、一番先頭を数名の魚人が斥候に出ていた。

 今通っている大きな水路の他にも斥候を放って甲殻類どもの動向を探っていた。



 七分ほど進んだ先で斥候が甲殻類どもと遭遇戦をしたと報告が入る。


「始まったにゃ、警戒を怠るにゃ、スピードはそのままだぞ」


 ノリノリで指揮をするラグを後ろで栄二がほんわかした顔で見つめている。


「ラグさん可愛いなぁ~~、恒夫は何で手を出さないんだろう? ラグさんだったら恒夫の好きなプレイでも何でもしてくれるだろうに…… 」


 左を併走する秀樹がぼーっとなっている栄二に気付く、


「何やってんだ! お前は右を見張る役だろが」

「あっ、ごめんよ、はしゃぐラグさん可愛いから見とれてた」


 栄二が魔法銃を握り直して右を向いた。

 ラグが振り返る。


「そんにゃに怒るにゃよ秀樹、あたいが甲殻類どもの匂いを覚えるまでだぞ、匂いを覚えたら水の中から現われる前に分かるようになるぞ、そしたら見張りはいらにゃくにゃるからにゃ、それまではしっかり見張っててくれよ栄二」


 怒っている秀樹を宥めると栄二に頼んだ。


 その時、前方で水しぶきが上がる。


「うにゃ! 敵だにゃ」


 サッとラグが前に向き直った。

 30メートルほど前を進んでいた大男の魚人ログマの前に甲殻類人間が現われた。


「うわぁ~~ 」


 突然現われた蟹のような甲殻類人間の大きな鋏に掴まって魚人が悲鳴を上げた。


「くそっ! 待ち伏せか」


 カニの甲殻類人間にログマが剣で斬りかかる。

 魚人たちは剣や槍で武装している。

 甲殻類と違い鋭い棘や鋏などは持っていない。


「隊長ありがとうございます」


 ログマがカニ人間の大きな鋏を切り落として部下を助けた。

 周りに居た部下たちが悲鳴を上げる。


「うわぁ~~、ぎゃあぁ~~ 」


 大きな水路の彼方此方でカニ人間が魚人に襲い掛かっている。

 水路を挟む左右の細い道から矢が降り注ぐように飛んできた。


「フナナナナッ、魚人どもをぶっ殺せ」


 ダンゴムシのような小柄の甲殻類人間が左右から矢を放っていた。


「待ち伏せだよ! 」


 栄二が叫んだ。


「うにゃ!! 全速で突っ込め、あたいがやっつけてやんぞ」


 ラグと栄二を乗せたボートが速度を上げる。

 秀樹がボートを曳いている魚人に振り向く、


「岸に着けてくれ、俺は地上にいるダンゴムシみたいな奴らをやる」

「奴らは力は無いが素早いです。我らもお供します」


 右側の岸に着けるとボートを曳いていた三人の魚人が護衛に付いてくれた。

 突っ込んでいくボートの上で栄二が大声を出す。


「ラグさん、空気玉を使って、水の中でも息が出来るからラグさんなら無敵になれるよ」

「おおぅ、そうだった。ツネにも言われたぞ、戦う時は空気玉を付けろって言われたぞ」


 ラグが慌てて空気玉の首輪を付けた。

 付けてから一時間は水中だろうと真空だろうと呼吸が出来るアイテムだ。


「にゃひひっ、んじゃ、行ってくるぞ」

「行ってくるって…… 」


 栄二が止める間もなくラグがボートから飛び出した。


「わあぁ~、ラグさんダメだよ、自分から水に入っちゃ……恒夫に怒られるよ」


 慌てる栄二の目の前でラグの姿が水中に消えていった。

 ボートの周りで護衛として付いていた12名の魚人のリーダーが栄二に振り向く、


「お任せ下さい、ラグ隊長は我らが守ります」


 言うが早いか12名の魚人たちも水中に消えていった。


「どうしよう……取り敢えず岸に着けてよ、右側の岸だよ」


 船を曳いている魚人に頼んで栄二が近くの岸に上がる。


「君たちは船を守ってくれ、隊長の乗る船だからね」


 付いてこようとした三人の魚人に言うと栄二が影マントを取り出した。


「僕に護衛は必要無い、姿を消せば見つからないからね、甲殻類たちは陸上では鼻が利かないって事だから僕は大丈夫だ」


 影マントを羽織って姿を消した栄二を見て魚人が驚く、


「おお、魔法ですか? これは凄い、それなら安心です。我らは船を守ります」

「頼んだよ、戦いに加わらなくてもいいからね、船を守って逃げるんだよ、ラグ隊長の大事な船だからね」

「了解しました。船は命に代えて守ります」


 魚人たちと別れて姿を消した栄二が水路の右の道を駆け出した。

 秀樹が右に降りたのを確認していたので合流するつもりだ。



 大きな鋏で魚人を掴んだカニ人間が勝ち誇った笑いをあげる。


「カニニニニッ、真っ二つにしてやる」


 笑っていたカニ人間が掴んでいた魚人を放すと悲鳴を上げた。


「グゲェーッ 」


 前のめりに倒れるカニ人間の上に水中から飛び出したラグが立った。


「大丈夫か? 」

「ラグ隊長……ありがとうございます」


 カニに挟まれていた魚人が礼を言うとラグがニッと可愛い笑みで返す。


「お前らみんにゃ、あたいの大事な部下だからにゃ」


 倒したカニ人間を足場にしてトンッと跳ぶと傍で魚人に襲い掛かっているカニ人間に蹴りを食らわす。


「カミナリキィ~~ック! 」

「フゴッ! 」


 大きな甲羅を凹ませてカニ人間が泡を吹いて倒れていく、ラグは水路の壁を蹴ってまた宙を舞う、


「ヒュンヒュンキィ~ック! 」


 右にいたカニ人間にキックを食らわすとその反動で左に跳んで続けざまにパンチを繰り出す。


「キツツキパァ~ンチ! 」


 左にいたカニ人間が甲羅をボコボコにされて泡を吹いて沈んでいった。


「にゃっひっひっひっひっ、にゃんだたいした事にゃいぞ」


 余裕に笑うラグの左右からカニ人間が襲い掛かる。


「グリグリパァ~ンチ、ヒュンヒュンキィ~ック! 」


 左のカニをパンチで倒すと同時に右のカニにキックを食らわす。


「ガニィ~~、ガヒィ~~ 」


 左右のカニ人間が泡を吹いて倒れていく、ボチャッと音を立てて水中に落ちたラグの背にカニ人間の鋭い鋏が音も無く突っ込んでくる。


「にゃ! 」


 ラグは直ぐに気付いたが水中なので動きが一瞬遅れる。

 しかもパンチとキックを出した後で体勢を立て直す暇も無い。


 鋭い鋏がラグを貫こうとしたその時、魚人が水中から現われた。


「うにゃ!! お前! 」


 ラグの目の前で魚人の腹にカニの鋏が突き刺さる。


「ぐぅ……隊長ご無事で………… 」


 苦しそうに呻きながら魚人が言った。

 ラグが一番始めに助けた魚人だ。


「お前……あたいを助けて…… 」

「気になさらずに……隊長と戦えて誇りに思います」


 引き攣った顔で笑うと魚人が沈んでいった。


「おい、お前…… 」


 助けようとしたラグの後ろからカニ人間が襲い掛かる。

 大きな鋏を身体を捻って避けたラグがカニ人間にパンチを食らわす。


「キツツキパァ~ンチ! 」


 目にも留まらぬ連続パンチを受けてカニ人間が仰向けに倒れる。

 倒れたカニ人間の上でラグの姿が変化していく、


「あたいを助けて……ごめんにゃ、あたいが本気を出してたら……ごめんにゃ」


 沈んでいった魚人に謝るラグの頬や手足に毛が生えている。

 全力を出した獣化モードでは無い、猫30%人間70%といった姿だ。

 理性的に戦える姿である。


「お前ら覚悟しろ! 全部蟹チャーハンにしてやるからにゃ」


 叫ぶと周りにいたカニ人間たちに飛び掛かっていく、速い、普段でも速いが更に倍以上のスピードだ。

 それだけではない殴られたカニ人間の甲羅が破裂するように割れて大穴が空いている。

 今まで数発殴って倒していたのが一発で甲羅を破壊していた。

 神に貰った怪力能力だ。

 獣化してスピードを増して怪力能力も使っている。

 ラグが本気で怒っていた。


 次々とカニ人間を倒すラグを見て魚人たちから喝采が湧く、


「凄ぇな、あれがラグの本当の力か」


 大男の魚人ログマも目を丸くして驚いている。


「お前ら、ラグ隊長に負けるな、残ったカニどもを1匹残らずぶっ殺せ」


 ログマにこたえるように魚人たちが一斉にカニ人間たちに襲い掛かる。


 不意を衝かれて劣勢になっていたのが逆転した。

 元々数が多い上に士気が高まった魚人の前では甲殻類人間たちも敵わない。


「カヘェェ~~、逃げろ~~ 」


 カニ人間たちが逃げ出すが水中はもちろん陸上でも魚人の方が素早いので直ぐに追い付かれて倒されていく、


「フクロウ切り! 」


 固まって逃げるカニ人間にラグがサッと両手を振った。


「ガッ! 」


 低い呻きをあげて5匹のカニ人間が硬い甲羅を切られて上下に分かれて沈んでいった。


「凄ぇな、流石隊長だ」


 感心するログマを見てラグがニッと嬉しそうに笑う、


「にゅははははっ、フクロウ切りは気を飛ばして切るからにゃ、逃げても無駄だぞ」

「カニどもは殆ど片付いた。後は上にいるフナムシどもだ」

「ふにゃむし? ダンゴムシみたいにゃ奴らか? 」


 子猫のように首を傾げるラグにログマが説明する。


「そうだ。陸上に住む奴らだ。甲羅も柔らかくて弱いが素早いからさっきみたいに矢を放たれたりすれば厄介だ。見張りや偵察をしているのがフナムシだ。奴らに見つかったという事は敵の本隊に我らが来たと知らせが行っているはずだ。カニどもは門番みたいなものだ。本隊が来るまで敵を防ぐのが役割だがラグ隊長があっと言う間にやっつけたからな、その間に進めるだけ進もう」


 後ろにいた魚人がボートを曳いてきた。


「ラグ隊長お乗り下さい」

「うにゃ? 栄二と秀樹は何処行ったんだ? 」

「御二人はフナムシどもを倒しに行きました」

「二人だけでか? 」

「護衛に三人付いてます」


 顔を顰めるラグにログマが話し掛ける。


「援護に行くか? 」


 ラグが振り向いた。


「ふにゃむしは弱いんだにゃ? 」

「フナムシどもなら秀樹と栄二の魔法なら余裕だろう」


 頷くログマを見てラグが続ける。


「ふにゃむしは二人に任せるぞ、秀樹と栄二なら大丈夫だぞ、にゃんたってあたいの仲間だからにゃ、本隊は先に進むぞ」


 空気玉を首から外すとラグがボートに飛び乗った。

 空気玉は一日一時間だけしか使えない、先程の戦いで二十分程使ったので残り四十分だ。


「了解しました」


 ログマがこたえると近くの魚人に命じる。


「十二人上がって秀樹と栄二の援護に行け、我らはこのまま進む、フナムシを倒したら合流するように伝えろ」


 部下の魚人が敬礼すると直ぐに12名選んで岸に上がっていった。


「うにゃ? お前優しいにゃ」

「ラグには部下を助けて貰った。お前たちは本当に信じられる。我らも仲間は見捨てない」


 ボートの上にいるラグと水中から顔を出すログマが互いの顔を見てニッと笑った。




 地上では秀樹と栄二がフナムシ人間と戦っていた。


「くそっ、ちょこまか動きやがって」


 秀樹が魔法の杖を向けるとサッと蜘蛛の子を散らすように逃げていく、炎魔法で半分近くは倒したがまだ30匹ほどが残っていた。

 秀樹が魔法を使うとわかると不用意に近付くのを止めて魔法の杖を向けると直ぐに逃げるような戦法をとりだした。

 素早いだけが取り柄のような種族なので魔法を放つ前に逃げられてしまう。


 反対側の通路から矢が飛んでくる。


「フナムシどもが! 秀樹さん怪我はありませんか? 」


 飛んできた矢を三人の魚人が剣を使って払ってくれた。


「大丈夫だ。ありがとう」


 矢には毒が塗ってあり死にはしないが身体が痺れて動けなくなるのだ。

 近くで爆音が聞こえた。

 誰かが戦っているらしい。


「他に誰か上がったのかな? 」


 駆け付けようとした秀樹の直ぐ右で声が聞こえた。


「やっと追い付いたよ、僕だよ秀樹」

「なんだ。栄二かよ、脅かすな、影マントだな」

「うん、これなら僕一人でも平気だからね」


 見えない相手と話す秀樹に魚人が不思議そうに声を掛ける。


「声からして栄二さんだと思いますが……誰と話しているんです? 」


 怪訝な顔で訊く魚人を見て秀樹が思わず吹き出しそうになる。


「当たりだ。僕だよ栄二だよ」


 影マントを脱いで栄二が顔を見せた。


「凄い、姿を消す魔法ですか? それなら甲殻類どもも気づきもしないでしょう」


 驚く魚人たちを見て栄二が楽しそうに笑うと続ける。


「フナムシは逃げ足が速いね、魔法銃じゃ倒せないよ、だから作戦があるんだ」


 栄二が秀樹と三人の魚人に何やら耳打ちした。



 暫くしてフナムシ人間たちがまた襲ってくる。

 フナムシとカニは本隊が駆け付けるまで出来るだけ敵を引き留めておくのが役割だ。

 相手が強いからといって逃げると処罰されるので必死で攻撃するしかないのだ。


「フナナナナッ、直ぐに本隊がやって来る。もう少しだけ頑張れ」


 リーダーらしきフナムシ人間が部下に発破を掛ける。


「くそっ、数が多い、このままじゃダメだ。撤退する」


 大声で言うと秀樹は魚人を連れて逃げ出した。


「フナナナッ、追え、逃がすな、だが不用意に近付くな、離れて矢を放て」


 一定間隔を開けてフナムシたちが秀樹を追った。


「くそっ、これでも喰らえ」


 秀樹が逃げながら魔法の杖を向けるとフナムシたちはサッと散って避ける。

 前に向き直って秀樹が逃げると直ぐに集まってきて追いかける。

 魔法から逃げるために一定の距離を保っているのだ。

 残り30匹のフナムシ人間に秀樹が押されていた。


「フナナナナッ、この先は……お前たち左右に散って建物の影から矢を放て」


 リーダーの命令でフナムシたちは三つに分かれた。

 今追っているリーダーと左右の三つだ。


「くそっ、行き止まりだ」


 袋小路に入った秀樹と魚人が振り返る。

 同時に矢が飛んで来た。


「秀樹さん後ろへ」


 三人の魚人が前に出て剣を使って矢を払い落とす。


「ハラペーニョファイヤー 」


 秀樹が魔法の杖を振る。低級魔法の炎が飛んでいくがフナムシたちは既に逃げていない。

 炎が収まるとまた矢が飛んでくる。それを魚人たちが必死で払ってくれた。


「成る程ね、左右と正面から攻撃してるのか」


 少し離れた建物の屋根の上から声がした。姿は見えない、栄二だ。

 影マントで姿を消した栄二が付近で一番高い建物の上から様子を見ていた。


「じゃあ始めるか」


 栄二が魔法銃を構えた。


「先ずは一番遠い右にいる奴らだ」


 ポンッと軽快な音を立てて魔法銃から弾が飛んでいく、栄二は直ぐに弾を入れ替えると続けて撃った。


 袋小路に入った秀樹たちを建物に隠れて右から攻撃していたフナムシたちの前方に魔法の弾が着弾する。


「フヒッ! 」


 数人のフナムシが炎に包まれた。

 炎魔法のヒ弾だ。


 残りのフナムシが逃げようとしたその時、直ぐ後ろにも炎が上がる。

 前後から迫る炎によって狭い通路の真ん中へとフナムシたちが集まった。


「仕上げだ」


 栄二が三発目を撃った。


「フビッ! フギャギャギャ~~ 」


 集まったところへ着弾して炎が上がって10匹いたフナムシどもが全滅だ。


「どうした? 何があった? 」


 フナムシ人間のリーダーが大声で呼ぶが右で攻撃していた部下からは返事はない。


「次は左だ」


 栄二が同じように攻撃して左にいた10匹も倒した。

 次々と部下がやられてフナムシのリーダーが狼狽えて叫ぶ、


「何が起きている! 報告しろ! 」


 そこへ前から秀樹が突っ込んでくる。


「タバスコファイヤー 」


 炎を見てフナムシどもが大慌てで逃げるが中級魔法の炎は低級魔法の比ではないくらいに大きい、逃げ遅れた半分の5匹が炎に包まれた。


「フヒヒッ……くそっ、何が起きた」


 必死で壁によじ登ったフナムシのリーダーに魚人が上から剣を突き刺した。


「お前らなど秀樹さんと栄二さんに敵うわけがない、仲間の仇だ死ね! 」

「フヒヒィ~~ 」


 頭を貫かれてフナムシのリーダーが息絶えた。

 残りのフナムシも魚人たちが次々と倒した。

 一対一ではフナムシなど魚人には敵わない、しかも相手は逃げるのに必死で魚人が近付くのさえ気が付いていなかった。


 高い建物の上から見ていた栄二が大声を出す。


「もういないみたいだよ、僕たちの勝ちだ」

「助かったぜ栄二、お前の作戦勝ちだぜ」


 下で秀樹が手を振った。

 追い詰められた振りをして罠に嵌めたのだ。


「あれは? 魚人がやって来るよ」


 狭い道を走ってくる12名の魚人を栄二が見つけた。


「何かあったのかな? 」


 影マントを脱ぐと不安気な顔をして栄二が建物から降りてきた。

 秀樹を見つけて魚人たちが駆け寄ってくる。


「秀樹さん、栄二さんも無事で何よりです。フナムシどもを倒したのですね流石です」

「何かあったのか? 」


 笑顔の魚人たちに秀樹が訊いた。


「はい、カニどもは倒しました。ラグ隊長は先に行くとの事です。秀樹さんたちは後から追いかけてこいとの事です。ボートは近くの岸に止めてあります。我らが護衛に付きます」

「了解だ。じゃあ早く行こうぜ」


 秀樹と栄二が近くの岸へと向かう、


「僕でも簡単に倒せるんじゃ、ギリーさんやビギさんなら百人相手でも余裕だね」

「まぁな、でも油断するなよ、矢に当たってたら痺れて一時間は動けなくなるらしいからな」


 軽口を叩く栄二を秀樹が窘める。

 フナムシは甲殻類人間の中でもっとも弱いと聞いていたので油断はしない。

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