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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
第二章 神様のゲーム
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第十一話「大人の階段」

 道にある影が薄く長くなり夕日が落ちる時刻までたっぷり楽しんだ恒夫がカジノから出て行くと後ろからガシッと両肩を掴まれた。


「おい恒夫、お前何をしていた? その服は何だ? 」


 逃げようと身構えた恒夫の耳に聞き覚えのある声が聞こえる。

 首を回して後ろを見ると怖い顔をした秀樹と栄二が立っていた。


「あっ、えへへへへっ、バレちゃった」


 カジノの用心棒か金を狙う強盗かと思っていた恒夫の顔が安堵に緩む、

 離してやれというように秀樹の腕をポンッと叩いて栄二が口を開く、


「まったくこんな事だろうと思ったよ、そんな服まで着て……それで勝ったのか? 」

「おう勝ったぞ、秀樹と栄二にも分けてやるからな、晩飯は豪華にいこうぜ」


 ニッと悪ガキのように笑う恒夫を見て秀樹が溜息をついた。


「仕方ない……始めから当てにしてないからまあいいか」


 秀樹が恒夫の肩を掴んでいた手を離す。

 ギャンブルに勝ったことよりも豪華な飯が食べられるという一言で怒りを収めた様子だ。

 二人とも小さいおっさんのような背広姿には口を出さない、よれよれシャツにジャージ姿よりマシだからである。


 恒夫が稼いだ金を使って高級店で夕食を取りながらお互いの情報を交換し合った。


 秀樹と栄二の話によるとこの世界には人間と魔族と獣人とエルフが暮らしていて普通の動物や魔物などがいる。

 獣人やエルフと人間は比較的仲がよくお互い争いはしない、魔族はもちろんゴブリンやオークなどは人間の敵である。

 簡単に言うと勇者のいる魔法の世界というゲームや物語の設定と殆ど同じだ。


 次に恒夫がカジノで得た情報を話した。

 金持ちのダラムから聞いた話である。

 魔剣や盾や鎧などアイテムの値段などダラムをおだてて聞き出した情報だが実際に店に行った秀樹たちには余り役に立たなかった。

 だが獣人の奴隷の話に栄二が食いついた。

 荷物運びやボディガードに獣人女の奴隷を買おうという恒夫の話に即賛成だ。

 そのために金が要るのでしばらくの間はギャンブルに行くのが俺の仕事だという恒夫の言い分も簡単に認めた。

 恒夫が遊びたいだけだという事に秀樹は気がついていたが剣や鎧など装備を揃える金もいるので渋々ながら認めた。


 明日の予定が決まった。

 恒夫はカジノで稼げるだけ稼ぐ、秀樹と栄二は更なる情報集めと、買う武器の品定めだ。

 次の日にサイコロを振って出た目によってはいきなり何かと戦う事も考えられるので武器はあったほうがいいとの判断である。


 話しが終わる頃には辺りは暗くなっていた。


「じゃあ今日はこれで終りだな、じゃあ俺はちょっと英気を養いに…… 」


 ニヤりと厭らしい笑みをした恒夫の両腕を秀樹と栄二がガシッと掴んで離さない。


「何が英気だ。エロい店に行くつもりだろうが! 行くなとは言わないが今日は宿に帰って情報の整理と作戦会議だ。明日カジノでたっぷり金を稼いだら許可してやる」

「そうだよ、まずはヘカロさんに獣人の奴隷を買って連れて行くのは可能か聞かないとね、エロい店には明日の夜三人で行こうよ」

「ああぁぁ~、離せよ、俺は女王様にビシバシしてもらいたいんだ。俺の長年の夢が直ぐそこでかなうんだ。昼間下見してるから……美人のお姉様がいる店ぇ~~ 」


 泣き叫ぶ恒夫を引きずって秀樹と栄二は宿へと戻っていった。



 翌日、三人は朝から張り切っていた。

 特に栄二は大張り切りだ。

 天使ヘカロに連絡して聞いたところ獣人やエルフや魔物を連れてゲームをする事は可能だとの返事を貰ったからである。

 随伴者も町で買うアイテムと同じとみなされゲームで使う事はOKとの事だ。

 栄二は可愛い獣人を買おうと言って朝から浮かれていた。

 荷物運びとボディガードのための強い獣人にするという事をすっかり忘れている。


 朝食のあと恒夫が一人で別行動だ。

 秀樹と栄二は情報と武器を求めて町へと消えた。


「頑張って稼いでくれよ恒夫」

「頼りにしているよ、可愛い獣人を買うんだから一千万ギギルくらいは欲しいな」


 昨日と違って秀樹も栄二も優しく声をかける。


「一千万ギギル……おいおい欲張りすぎだぞ、一日じゃ無理だって、今日は五百万ギギルくらい目指してるんだからな」


 恒夫も楽しそうに笑ってこたえる。


 ギギルとはこの世界の通貨の単位だ。

 ゲーム参加者は生活費として始めに三十万ギギル貰っている。

 昨日恒夫がカジノで稼いで秀樹たちは六十万ギギルずつ持っていた。

 今泊まっている中の上くらいの宿が食事抜きの素泊まりで一人一泊三千ギギルである。

 ゲームは早ければ十五日以内、遅くとも三十日で終わるとの事だから三十万ギギルあれば宿や食費だけなら充分やっていけるがアイテムを買うとなると足りない金額だ。

 それをやりくりするのも勝負という事だ。


 獣人の奴隷は二百万ギギルくらいから買えるとの事である。

 自分好みの可愛い獣人女が欲しい栄二は倍以上の一千万ギギルあれば買えると考えて恒夫に頼んだ。

 恒夫は手持ちの六十万ギギルを10倍にするつもりだ。

 イカサマサイコロを使えば一日で可能だ。

 昨日も金持ちのダラムにわざと負けなければ六百万ギギルは稼いでいた。

 この町にカジノは二軒ある。

 両方のVIPルームに入って金持ちから巻き上げれば簡単な事である。



 昼食を取りながら秀樹と栄二が話し込んでいた。

 恒夫はいない、今日はカジノで食事を済ませるとの事だ。

 カジノのVIPルームでは豪華な食事が無料で食べられる。


 唐揚げに似ている揚げ物を食べていた栄二が箸を止めて口を開く、


「普通の剣が三万からで低級魔法の二割ほどの魔力を持つ魔剣が百五十万ギギルか……二割の力ってどれくらいなんだろうね? 」


 昨日はナナハとジェシーに遠慮して直ぐに出た武器屋だが今朝は朝から入り浸って色々話を聞いていたのだ。


 牛丼のような丼をかっ込んでいた秀樹がお茶を飲んで一息ついた。


「魔力の代わりに気力を使うから体力に自信がないと10回も使わずに倒れるって言ってたしな、値段もぼられてるような気がするし…… 」

「剣を持ってても使えなきゃ意味が無いからね、やっぱり魔法の銃を買うことにしようよ、あれなら気力も使わないし三十万だし……魔力の詰まった弾が一つ十万するけど…… 」


 ランニングコストの悪い武器に歯切れ悪く栄二が言った。


「そうだな、俺は魔法の杖があるからいいけど栄二と恒夫の分二つ買っとくか、銃が2丁に弾が10発で百六十万ギギル、いくら不死身だからって痛いのは出来るだけ避けたいから十万くらいの鎧も買って二百万程度に抑えるか……もっとも恒夫の稼ぎ次第だが」


 二人は食事も忘れて話に夢中だ。


 買おうとしている魔法の銃は中折れ式の1発ずつ撃つタイプで大きな弾には魔力が篭っていて低級魔法と同じ力がある。

 弾は炎魔法や電撃魔法などいろいろだ。

 エアーガンで遊んだ事のある秀樹たちにとっては剣よりも扱いやすいだろう、魔法の杖や魔剣のように魔力の代わりに気力などを使って疲れることも無い、但し魔剣と違って弾は一回使えば無くなるので金がかかるアイテムである。


 昼食を終えて秀樹と栄二はまた情報集めに町に出ていく、この世界の情報はある程度分かったので次は他のグループの動向を探る事にした。



 夕方になって昨日入った高級レストランで恒夫と合流する。

 高級店にしたのはカジノで稼いだというような景気のいい話しを気兼ねなく出来るからである。

 他のグループも来る事は無いだろうから情報が漏れる心配も無い、なんせ一人一万ギギルは使うのだ。


 満面の笑みの恒夫を見て二人は旨く行ったのが直ぐに分かった。


「一千万稼げたの? 」


 栄二が身を乗り出す。

 可愛い獣人を自分のものにすることしか考えていない顔だ。


「冗談言うなよ、一千万も稼げるはず無いだろ」

「いくら稼いだんだ? その顔なら予定の五百万は越えてるだろ」


 苦笑いする恒夫にニヤついた顔で秀樹も訊いた。


「へへへへっ、七百万ちょっとだ。夜も頑張れば一千万稼げるだろうけど、アイテム買いに行かないといけないし、エロい店にも行きたいからな、それに…… 」


 恒夫が言葉を濁した。

 この町にはもう来ないだろうとイカサマサイコロを使って容赦なく稼いだのだ。

 当然カジノからは目を付けられているだろう、また店に行けば監視されるはずである。

 下手をすればイカサマサイコロを使っているのがバレるおそれもある。


 恒夫の報告が終わり、秀樹たちが話しをする。

 武器や薬などのアイテムの話しに恒夫も興味津々の顔で聞いていた。

 三人とも程度は違うがオタクなので魔法や武器などの話には食いつきがいい。

 低級魔法の二割の威力しか出せずに気力を多く必要とする魔剣を買うことについては恒夫も即反対した。


 魔法の銃については恒夫も賛成して実物を早く見てみたいと興奮気味に話す。


「中折れ式か、連発じゃなくて単発式ってのがネックだな、早く撃てるように練習するしかないな、普通の弾も撃てるなら沢山買って練習しようぜ」

「そうだな連射できる普通の銃もあった方がいいな、マシンガンも買っておくか」


 恒夫の意見に納得した様子で秀樹が運ばれてきた料理を食べ始めた。

 先に食べながら聞いていた栄二が口の中のものをお茶で流し込む、


「じゃあ僕たちは剣じゃなくて銃を主要な武器として使うことに決定だね、勇者もいないんだし剣にこだわる必要も無いよ、剣は獣人かエルフの剣士をどこかで雇うよ」

「だな、魔剣の代わりに魔法の銃を使おうぜ、余裕があれば自衛用にそこそこの威力の魔剣を調達しておこう、剣士を雇うのは賛成だ。俺がカジノで稼ぐから金は心配無いぜ」


 フライドポテトのようなものを摘まんで口に放り込む恒夫を秀樹が見つめる。


「まさかイカサマサイコロがこんなに役に立つなんて考えてなかったぜ、恒夫がただ遊びたいだけだと思ってたぞ」

「本当だよ中津たちなんて一人三十万ギギルしか持ってないもんね、魔法の弾三つ買ったら無くなるからね、こんな店で食事も出来ないだろうし…… 」


 どうにか旨くいきそうだと秀樹と栄二が安心顔で恒夫をからかう、いつものオタ三人組がそこにいた。

 一人じゃ無理だが恒夫と栄二と一緒ならこのゲームに勝てるかもしれないと秀樹は思い始めていた。


 並べられた料理を秀樹と恒夫がかっ込むようにして食べ終わる。

 待ちきれない様子で栄二が立ち上がった。


「じゃあ早く買いに行こうよ、20の刻までって言ってたから今19の刻だから間に合うよ」


 秀樹たちは武器屋に行って魔法の銃を2丁と魔法の詰まった弾を10発に普通の弾を50発買った。

 これに十万ギギルの鎧を三人分と薬を少しにアサルトライフルのような連射できる普通の銃を2丁とその弾を買った。

 鎧は魔法を防ぐ事は出来ないが物理的な攻撃は防げる軽くて丈夫なものである。


 全部で二百万ほど使った。

 恒夫が稼いできた七百万から二百万引いて予定通り五百万ギギル残った。

 これでどうにか獣人の奴隷が買えるはずである。

 足らなければ各自が持つ六十万から出せばどうにかなるだろう、大きな町ならカジノも複数あって恒夫が稼ぐ事も出来る。



 宿に戻って金と武器を部屋に隠すように仕舞うと三人がニヤッと顔を見合わせた。


「さてと行くか? 」

「ほらよ、一人五万ギギルあればどんな店でも遊べるぜ、ボッタクリの店でもな」


 腰を上げる秀樹と立ったまま緊張した顔をしている栄二に恒夫が金貨を配る。


「初めてだから緊張しまくりだよ、秀樹も初めてだろ? 」

「ああ、夢の中とはいえ緊張するよな、恒夫はどうなんだ? 」


 栄二と秀樹が見つめる先で恒夫がいつものとぼけ顔で口を開く、


「ん? 俺はもう済んでるぞ、中学の時に不良の高校生に童貞食われた。あの頃はまだ髪もそれなりにあって結構可愛いとか言われてたからな」


 恒夫の薄い頭を秀樹がペシッと叩いた。


「流石老け顔でハゲてるだけあって経験も早いんだな」

「ハゲと経験は関係あるか! 中学の時に数回しただけだ。今はすっかりハゲ上がってビッチにもモテないからな」


 怒鳴る恒夫の腕を秀樹がむんずと掴む、


「じゃあ経験者の恒夫先生に従って行くとしますか」


 秀樹はニヤッと厭らしい笑みをすると恒夫の腕を引っ張って部屋を出ていく、栄二は緊張した顔のまま黙って二人に続いた。


 その日の夜、秀樹と栄二は大人への階段を一歩登った。

 夢の中の世界だが……。

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