第十話「カジノ」
秀樹と栄二が町を歩き回っていた頃、恒夫は情報集めもせずにカジノで遊んでいた。
「次は赤に全部だ」
恒夫が隠すようにシャツの中に手を入れてイカサマサイコロを振った。
ルーレット卓に座る恒夫の前にコインの山が出来ている。
ルーレットで一番確率が高い赤か黒を当てるゲームをしていた。
親の総取り以外なら勝率は2分の1だ。それがイカサマサイコロによって勝率70%以上になっていた。
ルーレットが赤に止まり賭けたコインが倍になって戻ってくる。
「よし、次も赤だ。赤にコイン三十枚だ」
今度はイカサマサイコロを振らない、案の定黒に止まってコインが持っていかれる。
「くっそう、負けた。コイン三十枚もやられた。まぐれ当たりもここまでかな」
さも悔しそうに騒ぐがコイン三十枚など先ほど勝ったコインの3分の1ほどである。
負けた時は大声で騒いで負けたとアピールして勝った時は黙ってコインを自分のカゴに仕舞う、コインが一定の量貯まると直ぐに換金して手元にコインの山を作らない、大勝ちしている事を周りに悟られないようにしているのだ。
イカサマサイコロを使っているからイカサマだとばれる事は無いが用心は怠らない。
ふらっと入った男が大勝していれば地元のワルに目をつけられる事もあるだろう、不良との付き合い方を知っている恒夫はこういう事には頭が回る。
ルーレットを回すディーラーが変わった。
これで三人目だ。
相手はプロである一流のプロなら赤黒はもちろん好きな数字を出す事ができるのがルーレットだ。
それが一番簡単な赤黒で何度もミスをして恒夫に勝ちを持っていかれている。
店側としてはディーラーがしくじったようにしか見えないので変わらせられたのだ。
「さてと……今日はこの辺で帰るとするか」
コインの詰まったカゴを持って立ち上がる。
換金された金を受け取って恒夫がカジノから出ていく、ゲーム開始前に貰った金が倍になっていた。
町にカジノはもう一軒ある。
次の店ではこれを倍にするつもりだ。
4倍にして分ければ秀樹や栄二の金も倍になる計算だ。
「イカサマサイコロの効果を確かめるだけだったんだがこの調子なら剣や防具も直ぐに揃えられそうだな、あとは荷物運びも雇いたいところだが雇ってもいいのかヘカロさんに聞かないとな……獣人の可愛い奴隷なんか栄二が喜びそうだぞ、俺は狼か狐のお姉様がいいな……どこで奴隷売っているのか次の店で聞いておかないとな」
金持ちが周りにはべらせている女の中に獣人が居た。
そのどれもが奴隷らしく首輪を付けていた。
栄二が人外好きだと知っている恒夫は荷物運びをさせるためにも獣人女の奴隷を買おうと考えている。
恒夫は二軒目のカジノに行く前に服を買って身なりを整えた。
背広のような服を着る恒夫はとても高校生に見えない、薄い頭に老け顔の恒夫はまさに小さいおっさんだ。
二軒目のカジノでもイカサマサイコロを使って大勝ちした恒夫はその金を持ってVIPルームへと入った。
一般客の入れない金持ち専用のカジノがそこにある。
恒夫が身なりを整えたのはVIPルームに入るためだ。
恒夫の姿と金貨の入った袋を見てVIPルームのマネージャーは快く部屋へと入れてくれた。
一通り部屋の中を歩き回った恒夫はカードゲームをしている金持ちの前に座った。
獣人女を連れている金持ちから奴隷の事を聞くつもりである。
金持ちが遊んでいたゲームはハイ&ローだ。
ルールは簡単、カードをシャッフルしてそのまま重ねてテーブルの上に置く、始めの一枚を捲って次のカードが前のカードより大きいか小さいかを当てるゲームだ。
参加者全てが大小のどちらか一方に片寄った場合はそのゲームは無効となりカードを捲って結果を見た後で次のカードへと進む。
恒夫が座った卓は金持ちと一騎打ちをする二人専用の卓である。
恒夫が座る前は店のディーラーが相手をしていた。
旨くカードを操って勝ち負けを操作して気持ち良く遊ばせて金持ちが気分を悪くしない範囲で負けさせて金を取るという巧妙な手口で稼いでいる。
「勝負お願いします」
テーブルに金色のコインを積み上げて恒夫がペコッと頭を下げた。
一般客用の銀色のコインとは色が違う、レートも30倍も上だ。
恒夫は一般客用のカジノで勝った分の半分を金色の金貨に換えてゲームに挑んだ。
全て負けても当初の計画通り秀樹と栄二と自分の持ち金が倍となる分は残してある。
金持ちが恒夫をジロッと見た。
「ん? 見ない顔だな、どこから来た? 」
「ええ田舎から出てきて……今日はツキがあるみたいで下で大勝ちしまして一度VIPへ入りたいと思っていたものですから…… 」
恒夫が態とオドオドした態度でこたえた。
「ふん! 田舎者か……まあいい、店のディーラー相手に飽きてきたところだからな」
明らかに見下して鼻で笑うと金持ちはゲームを受けてくれた。
カードゲームが始まった。
イカサマサイコロを使った恒夫が勝ち続けている。
ゲームが進み負け続けた金持ちが不機嫌になっていく、苛立ち周りにいた取り巻きに当り散らし始めた頃合いを見計らって恒夫が大勝負に出た。
「次は私が子だから掛け金を決められますよね? じゃあ今持っている全てを賭けます。受けてもらえますか? 」
金持ちがジロッと恒夫を睨む、
「なに、全部だと……おもしろい受けてやるわい」
流石金持ちである。
話しを聞いて周りに人だかりが出来た。
ゲームが始まる。
恒夫はイカサマサイコロを使わない。
「では大でお願いします」
「ふん、小で受けてやるわい」
周りを囲む見物人が見守る中でカードが捲られた。
「大です。恒夫様の勝ちです」
コインが恒夫の前に積み上げられた。
「次も全部賭けます。受けますか? 」
「なに……いいだろう、これだけ見物人が居るのに引き下がれるか」
恒夫が全てのコインを前に押し出す。
多すぎて掛け金を置く枠に収まりきらない。
周りで見ていた人々からさらに大きな喝采が沸いた。
他のゲームをしていた金持ちの何人かも見に来ていた。
これほど大きな勝負は久しぶりという事である。
ゲームが始まる。
恒夫は今度もイカサマサイコロを使わない。
「大でお願いします」
「大だと……いいのか? カードは9だぞ、どう考えても小の方が出る率は高いが……では小で受けよう」
金持ちが不思議な顔で言うのも当然だ。
カードはトランプと同じような物である。
コイン一枚の遊びならともかく大勝負では流して次のカードを捲るのが普通だ。
ディーラーがカードを捲った。
「11です。大です。恒夫様の勝ちです」
金持ちの顔が引き攣り、周りから拍手が起きた。
「次で私の子は終りです。全部賭けますから受けてください、流石に11じゃ勝負できませんから次のカードでお願いします」
恒夫の言葉に周りが静まり返った。
まさか次も全部賭けるなどとは誰も思っていない、金持ちでも躊躇するくらいの金額である。
「ふっふふふふっ、調子に乗るなよ田舎者が……ここで引き下がるともうここへは顔を出せんな、よかろう受けてやる」
見物人たちを見回して少し引き攣った顔で金持ちが勝負を受けた。
金持ちを伺っていたディーラーがカードを捲る。
7が出た。
カードは1から14までとカジノ店の総取りのババが一枚だ。
全部で四十五枚ある。
つまり同じ数字が三つある。
同じ数字も店側の取り分となる。
「7ですか、いい数字ですね、では大でお願いします」
恒夫は今度もイカサマサイコロを使わない。
「うむ、では小で受けよう」
金持ちもマジ顔になっていた。
全員が固唾を呑んで見守る中、ディーラーがカードを捲る。
「3です。小です。ダラム様の勝ちです」
「ふふっふははははっ、惜しかったな田舎者」
金持ちのダラムの機嫌が一瞬で良くなる。
大勝ちしたのだから当たり前だ。
見物人たちから喝采に混じって溜息混じりに『止めとけばよかったのに』という声も聞こえた。
「あーっ負けた負けた。今日はツイてると思ったんだけどな……流石に遊び慣れたダラム様にはかなわないな、あ~負けちまった」
恒夫が大袈裟に落ち込む振りをした。
「でも楽しかったですよ、ダラム様と勝負が出来て田舎者の記念になります」
「ふははははっ、わしも楽しかったぞ、恒夫とかいったな気に入ったぞ、またいつでも勝負に来い、今日は久しぶりに良い気分じゃわい」
大笑いするダラムを見て恒夫がニヤッと口元を歪める。
「ダラム様にそう言ってもらえると私も光栄ですよ、よろしければ少しお話でも聞かせてもらえませんか? 田舎に帰った時に土産になりますから…… 」
「そうだな少し腹も減ったし向こうで休むとするか、ついて来い恒夫」
VIPルームの横にある豪華な休憩室へと金持ちのダラムと恒夫が入った。
ダラムを煽てるように会話をしながら獣人や奴隷の事などを詳しく聞くことが出来た。
恒夫は始めから情報を得るためにVIPルームに行ったのだ。
だからイカサマサイコロを使わなかった。
わざと負けてダラムの気分を良くして話しを聞き易いようにしたのだ。
この町では獣人の奴隷は年に何度か奴隷商人がやってきて買うことが出来るとの事だ。
ここより大きな町では奴隷商人が店を構えていていつでも買える事も分かった。
他にもいくつかの情報を得てカジノで遊ぶつもりがいつの間にか情報集めも出来ていた。