第一話「覚醒夢?」
初めて投稿しました。
書き方や投稿の仕方は調べたつもりですが間違いなどありましたら御指摘して頂ければ幸いです。
何だここは?
俺はさっきまでベッドで眠っていた……いや眠りにつこうとしていたはずだ。
それが今いる場所は俺の部屋じゃなくて草原だ。
何の草か名前は知らないが50センチくらい、膝の辺りまでの草が一面に茂っている。
緩やかな高低のある広い空間に大小様々な草花が密集して生えていて時折り吹く風にサワサワと音を鳴らして揺れていた。
記憶には無い場所である。
小学生の頃に田舎で虫取りに駆け回った山々とも違う風景だ。
こんなに広い平野が手付かずのまま日本に残っているだろうか?
日本だとしたら北海道か東北辺りだろうか?
ドキュメンタリーや映画で見たような気もするが思い出せない、どこか異国のようでもある。
遠くに木々も見えるが1キロは離れているだろう、その草原の中に江藤秀樹は立っていた。
「なんで? ここどこなんだよ? 夢か? 」
自分の部屋で眠っていたはずがいきなりこんな場所へと来れる方法があるとすれば夢以外には無い、覚醒夢と言うものだろう、夢の中でこれは夢だと自覚がある夢のことである。
覚醒夢は何度か見た事があるがここまで頭がハッキリしている夢は初めてだ。
「よしっ! 」
気合を入れるように小さく叫ぶと秀樹は頭の中で念じ始めた。
ここが夢の世界なら自分の思い通りになるはずである。
覚醒夢を初めて見た時は幽体離脱や霊現象かと怖がって早く目が覚めるようにジタバタ暴れたものだが本やネットなどで調べて夢の中の世界では何でも自分の思い通りになると知ると楽しみになっていた。
今までに10回ほど覚醒夢を見て空を飛んだり建物を通り抜けたりすることは出来たが物を出す事は旨くいかなかった。
何度か挑戦してみて普段よく食べているチョコレートは一度出して食べることは出来たが他は成功していない、ましてや人間を出す事など無理だと思い始めていた。
それが今日は旨くいきそうなのだ。
今日こそ願いをかなえようと秀樹は一心に念じた。
「おっぱい……おっぱいねーちゃん、トールちゃんにルコアさんを…… 」
自分の思い通りになるのなら願いは一つだ。
好みの女を出してエロい事をするだけである。
健全な男子高校生なら誰しもが考える事だ。
ただ他の人と違う所が秀樹にはあった。
口に出して言った名前が全てアニメに登場する女の子たちである。
スポーツ刈の頭に背が高くガタイのいい身体をして勉強も運動もそこそこ出来る秀樹は一見すると爽やかなスポーツマンに見えるが実際の中身はかなり濃いオタである。
今でこそ筋肉の付いたガッシリした体つきをしているが小学校から中学二年までは太っていてデブの秀樹略して『デブキ』と呼ばれてからかわれていた。
中二の夏に観たアニメ映画に感化されて体を鍛え初めて高校二年になった今ではすっかり筋肉ムキムキのガテン系の見た目になっていた。
二重顎も無くなり頬もスッキリしてイケメンではないが不細工でもない普通の男子高校生に見えるが中身はオタのままである。
そんな秀樹がかなえたい夢といったらアニメヒロインとエロい事をしまくる欲望全開な願いしか無い。
「ニパちゃんやハイデマリーさんにひかりちゃんに芳佳ちゃんのおっぱいを……爆乳からちっぱいまで全てのおっぱいを俺に……おっぱいねーちゃんのハーレムをここに作るんだ」
エロい事を想像して下半身は元気いっぱいに膨らんでいる。
ハイテンションになった秀樹はいつの間にか大声で叫ぶように願っていた。
「 ……すまないが少しいいかな? 取り込み中のところ悪いと思うが…… 」
後ろから声が聞こえて秀樹がバッと振り返る。
直ぐ後ろに男が立っていた。パリっとした背広を着た長髪のイケメンだ。
「うわぁ~~っ、誰だお前!? 」
真っ赤な顔をした秀樹が飛び上がるようにして驚く、
誰もいないと思っていたところに男が現れたのだ。
それもアニメキャラの女を出そうと必死で念じて叫んでいたところである。
なんで男が……俺が出したのか?
おっぱい姉ちゃんではなく男が……ひょっとしてそっちの気があるのか?
自分の知らないところで男を欲しているのか?
潜在的に俺はゲイだというのか……。
自身の出した考えに青い顔をした秀樹がバッと頭を上げた。
「チェンジだ! 俺はおっぱいのデカい姉ちゃんを指名したはずだ。男じゃ無い、断固チェンジを要求する」
「チェンジ……何を勘違いしている。私はそういう者ではない」
秀樹の顔が怪訝に変わる。
イケメン男が顔色も変えずに話しを続ける。
「自己紹介がまだだったな、私は天使だ。ヘカロ・ヨハネウスという、今日は神様の使いとして江藤秀樹くんの前に現れたんだよ」
「天使? くそっ惜しい、天使が出せるならアニメキャラの一人や二人出せるだろうに……やっぱりチェンジだ。天使でもいいけど男じゃなくて巨乳の天使にしてくれ」
「まだ勘違いしているようだな、確かにここは夢の世界だが秀樹くんの夢ではない、神様が作った夢の世界だ。だから秀樹くんの自由にはならない」
秀樹がまじまじと天使ヘカロを見つめる。
「俺の夢じゃ無い? じゃあおっぱい姉ちゃんは? 俺のハーレムは? 」
「出てくるわけがない、ハーレムなぞ、それこそ低俗な夢だ」
「願いはかなわないのか……じゃあさっさと起きるかな」
スッと目を逸らした秀樹にヘカロが少し慌てた様子で続ける。
「待ってくれ、話しを聞いてからにしてくれ、もっとも聞き終るまで目は覚めんがね」
秀樹がまた怪訝な目を向ける。
「話? 夢なんだろ聞くだけ無駄だ」
「確かに夢だが現実になると言ったらどうする? 」
「現実になる? マジか! 」
身を乗り出して訊き返す秀樹の態度に天使ヘカロがフッと口元を歪めた。
「そうだ現実になる。願いがかなうと言った方がいいな、神様のゲームに参加して勝てば願いを一つかなえてもらえる。といっても世界征服など大きな事は無理だが女を数十人集めてハーレムを作ることくらいなら可能だよ」
「神様のゲーム? 何だそれ? 」
疑うように首を傾げる秀樹の前でヘカロが口元に笑みを湛えて話し出す。
「簡単に言うと双六だ。サイコロを振って出た目のマスに進み、そのマスに設定されているイベントをこなして宝玉を三つ集めて先にゴールした者が勝ちとなる」
「双六か……一番になった奴だけが願いをかなえてもらえるんだな」
「そういう事だ。三人でグループを組んでもらう、一番になったグループの三人に一つずつ願いをかなえるという事だ。グループで三つの願いがかなう」
「三人一組か、メンバーはどうやって決めるんだ? 」
悩むように訊く秀樹の前でヘカロが大丈夫だと言うように肩に掛かる長髪を手で払った。
「もう決めてある。秀樹くんは野方栄二くんと城道恒夫くんの三人のグループだ」
秀樹の顔色がさっと変わる。
「ちょっ!! 栄二はともかく恒夫はどうにかならないか? 確かに仲は良いがあいつはヘンタイでヤバい、メンバーチェンジできないのか? 健司や田中じゃダメなのか? 」
「無理だな、神様が決めたメンバーだ。秀樹くんが選べるのはゲームに参加するかしないかだけだ。べつに参加しなくてもペナルティは無いから気楽に決めるといい」
「ちょっと考えさせてくれ」
「では十分だけ時間をやろう」
天使ヘカロの前で秀樹が腕を組んで考え込む、夢の中の話だと言う事をすっかり忘れている。それほど意識がハッキリしていた。
ゲームに勝てば願いがかなう……、
億万長者になる事もおっぱい姉ちゃんのハーレムも……いや待てよ。
イケメンになれば姉ちゃんは向こうから寄ってくるし金だって稼ぐ事が出来る。
なにより俺をキモオタと見下していた女どもを見返せる。
ゲームに参加するのは問題無いとして恒夫が問題だな、
あのハゲだけは何考えてるのか分からんからな……。
真剣な表情で考えていた秀樹が組んでいた腕を下ろしてヘカロに向き直った。
「参加するよ、栄二もいるなら恒夫はどうにかなるだろう」
「そうか安心した。代わりの者を探すとなると仕事が増えて面倒だからな」
「それでこれからどうすればいいんだ? 」
「今日はこれで終りだ。後日改めて連絡する。今日はもう起きていい、では失礼する」
言い終ると天使ヘカロは翼を広げて大空高く飛んで消えていった。
同時に秀樹の目が覚める。
「うっうぅ~ん、ここは? 俺の部屋か………… 」
布団の中で寝返りを打って部屋を見回す。
壁にはアニメのポスターが3枚貼ってあり本棚には漫画とフィギュアが並んでいる。
机の上には最近買ったお気に入りのフィギュアが置いてあってベッド横の小さなテーブルの上に作りかけのプラモが箱ごと置いてある。
確かに自分の部屋だ。
さっき見た夢を思い出しながら枕元の時計を見た。
「やっぱ夢か……そうだよな変な夢見たぜ、もう六時半か二度寝すると起きられないな、早いけど起きてネットでもしながら飯食うか」
夢の内容は全て覚えていた。
こまでハッキリと覚えている夢は初めてだが全部ただの夢だと思ったのか気にする事も無く普段通りに起きた。