【7】
「キミ達、ちょっといいかぃ?」
今日の目的であるアイテムショップに向かう途中、男に声を掛けられた。
「ん?何かご用?」
マコトが気軽に応じる。
街は戦闘不可区域のため、基本的に警戒はしていない。
「突然すまない。ボクはこういう者だ」
そう言うなり名刺を渡してきた。
「め、名刺?……あ、どうも…」
恭しく受け取った。
「勇者ゼロス…」
(仰々しい名前だ……)
「…勇者?」
「それはまぁ……自称だ」
「…あっそ」
照れているようだ。
こちらも自己紹介した。
「で、その勇者さんが何の用?」
「キミ達二人はギルドに所属していないだろ?」
ユウゴはプレイヤーと認識されていない。
「ああ。……ギルドの誘いか?」
「そうだ。フリーのようなので声を掛けさせてもらった」
「…どうしてわかったんだ?」
「………そんな事も知らないのかぃ?!」
純粋に驚いているだけのようだが、どこか鼻に付く。
「あ、ああ。ぜ、是非教えてくれるかな?」
「これだ」
ゼロスは手の甲をこちらに見せた。
剣に薔薇が絡み付いたタトゥーが彫られている。
「へぇ。ギルドに入るとその趣味の悪いタトゥーを彫られるのか?」
「な…なんだって!?」
「お、おい…やめろタケ。スマンな、ゼロス。こいつは思ったことをすぐ口にする癖があるんだ」
「そ、そうなんだぁ…ふーん。キミもそう思ってるってこと?」
「と、とんでもない!カッコいいマークだよ!」
「ふふふ。だろぉ?《ソード&ローゼズ》のギルドマークだ」
(名前もダサい……)
「ギルドに入ると、身体の一部にギルドマークが入るんだ」
ニヤけた面で自分の手の甲を見つめている。
「…それは初耳だ」
ゲーム時代にそのようなシステムはなかった。
取り込まれてからの世相には疎い。
「しかし、強そうな召喚獣だね?」
ゼロスはユウゴを指差した。
「……」
「キミ達がうちのギルドにくれば即戦力間違いなしだ」
「それはどうも」
「しかも今なら☆4装備一式を支給するぞ!!」
「へー」
「ん?反応が鈍いね…」
「…いやいや。なかなか太っ腹なギルドさんだと思ってね」
「ここウェルネ=デザイアには最強のギルドがあるからさ…」
「ああ。《やっぱり猫好き同盟》だろ?」
「その通り。|《ソード&ローゼズ》(うち)みたいな新参はこうでもしないと人が来てくれないんだ」
「だろうね…」
「ギルマスも頼れる人だし、みんな良い奴ばっかりだ。…どうかな?」
マコトはタケとユウゴを見る。
タケは微かに首を縦に振った。
ユウゴは正面を見据えたままだ。
「…すまないが遠慮しておくよ」
「理由を聞かせてくれるか?」
「理由か……」
交渉事はリーダーマコトの役目。ユウゴは物言わぬ召喚獣。
「だってさぁ…。面倒くさいじゃん?」
「……め……面倒くさい?」
「ああ、面倒くさい。今のこの状況って異常だろ?」
「そうだよ、異常だ!非常事態だ!だからこそみんなで助け合って………」
「…それだよ。それが面倒なんだ」
「……え」
「正直、自分達のことで手一杯なんだ。この世界で生きる術を確立しなきゃいけない」
「そ、それはみんな同じだ」
「他人を気にする余裕が無いんだ。俺達は担いたくないし、担われたくもない」
「……そんな」
「スマンね……」
「…く」
ここまであっさりと断られると思っていなかったのか不満げな表情だ。
「ま、まぁそういうことなら仕方ない。もし気が変わったらそれの裏に書いてあるコードに連絡してくれ」
名刺の裏にはメールアドレスのような英数字の羅列が書いている。
「わかった」
一応、こちらのコードも教えた。
コードの登録が終わるとゼロスは去って行った。
この日、住処に帰ると、
タトゥーを入れるか否か、皆で真剣に議論し合った。
目的のアイテムショップに着くまでに、
同じようなやり取りを三回もさせられる羽目になったからだった。




