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【57】

「い、いや…ちょっと待ってくれ。実はもう当てはあるんだ」


《ソード&ローゼズ》に入ろうと思っている、と言っても皆ポカンとしている。

以前ゼロスから渡されていた名刺をマコトが見せると

先ほどまでの熱がみるみると引いていった。


「ああ、彼の…」


イザナギが麦酒を一口煽った。


「責任を感じてるのか?」


店の喧騒と酒の匂いが漂う。


「それも多少あるか…な」


《ソード&ローゼズ》に入ろうとした経緯を

詳しく説明するつもりはない。


「けっ、このお人好しめ。長生き出来ねえぞ、そんなんじゃあ」


と卍丸が吐き捨てる。

口は汚いが根は良い奴なのだろう。


「ご忠告どうも」


「フン…」


場が白け、そろそろという空気になる。

一応のまとめ役であるイザナギが()めようとした時だった。


「まぁ、こんな状況だ。もし困ったことがあれば―」


『カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!』


街全体に鐘が鳴り響いた。

皆がはっと顔を見合わせている。


「なんだっ?!」


一人わけがわからないマコトだが

尋常な事態ではないというのはわかる。

イザナギ達は瞬く間に外へと飛び出してしまった。

他の客達もそわそわとしている。


「何か来たみたいね」


「えっ?」


千早はゆっくりと席を立ち出口へと向かう。

マコトとリチャードも後に続いた。


店の外に出ると街の雰囲気は一変していた。

鐘の音に急かされるように

右へ左へとプレイヤー達が慌ただしく動いている。

そんな中、千早は特に急ぐ素振りもなく

どこかへと向かう。


「この鐘は(やぐら)からの知らせ。ソルティキャットさんが(さら)われたあとにリチャード達の《カーペンター組合》が作ってくれたのよ」


「急造でしたので納得のデキではありませんが…」


リチャードは本当に納得がいっていないのか

はたまた危険が迫ってるためか表情が少し強張っていた。


「本当なら街全体を高い壁で囲みたかったんです」


「全体に壁?それは大袈裟過ぎじゃないか?」


「いやいや、そんなことはありませんよ。壁の幅は…そうですね、五メートルは欲しいところです。そこに詰所などを造ってやれば簡易の生活空間ができる。雇用も生まれる。見てみたいとは思いませんか?自分が造った所で実際に人が営んでいる様子を」


「…リチャード?」


リチャードが涎を垂らさんばかりに

恍惚とした表情をしている。


「そして街の四角には見張りの塔が必須!そう『断罪の塔』とでも名付けましょうか。人々から畏れの象徴となれば…いや、ちょっと待って下さい!四本なので『四神の塔』も捨てがたい!朱雀の塔、白虎の塔みたいな?!そこに"ボス"を置いて…。あぁ…興奮してきました!早くみんなと煮詰めなければ!」


「(うん。こいつは"ヤバい奴"だな)」


そんなマコトの心の声が聞こえたのか

リチャードが急に真顔になる。


「そう言えば今日は《スワロウテイル》の当番では?」


「ええ。今日は私達の番よ。これを鳴らしているのはマイラでしょうね」


千早は櫓の方を見る。


「当番制なのか…ってマイラ?さっき帰ってきたところだぞ?!」


「だって今、他のメンバーが街にいないのよ。私は見張りなんて嫌だし…」


ペロッと舌を出す。


「(いや、可愛いけども…酷い)」





[老魔女の(ほうき)]

《☆1》

効果:空を飛ぶことが出来る。速度は鈍重。

定員:1人

使用回数:無制限


COS(クロニクル・オブ・スカンディナビア)のサービスが始まって間もない頃、

まだ方向性が定まっていない時代。

このアイテムはあるアニメ映画とのコラボ企画で配られていたもので

期間内にログインすれば必ず貰えるものだった。

コラボアイテムにありがちではあるが、

これもご多分に漏れず

全くもって取るに足らないアイテムだった。

ゲームで空を飛べるといっても

そんなものは目新しくもなんともない。

アイテムの正しい使い方としては、毒沼や針山、

いわゆるトラップ床を回避するためだけのものだったが

それならば同じ効果で使い勝手の良いものが既に存在していた。

しかも当のアニメ映画自体、相当古く

記念に取っておこうというプレイヤーすらいない始末。

《老魔女の箒》は間違いなく誰しもが直ぐに処分したアイテムだった。

但しレア度が低いためゴールドとしての価値はなく

アイテムボックスの圧迫を避けるためだけに処分される。

そんな不遇のアイテムだった。

仮に現実世界で空を飛べるアイテムがあったなら、

しかも自分の力(魔法やスキル)ではなく無制限に飛べたならば

そのアドバンテージは計り知れない。

ゲームの世界が現実となり、そんなアイテムの価値が逆転した。

今この世界でこんなくだらないアイテムをまだ持っているのは

"魔女"に憧れているマイラを除いていない。

魔女関連のアイテムは彼女の大好物だった。

ちなみにそのマイラですら当のアニメ映画は知らなかったという。



魔女には空飛ぶ箒が欠かせない。

その魔女たる証に腰かけ、マイラは空の風を楽しんでいた。

自由に飛び回っているわけではなく

あまり離れ過ぎないよう櫓の位置は常に把握している。

"魔女っぽい帽子"が風で飛んでいかないよう

片手はしっかりと帽子を抑えている。

肉体的よりも精神的に疲れた作戦(クエスト)から帰ってきて早々、

ギルドマスターの千早から見張りをするよう頼まれたのだった。


「一言くらい(ねぎら)いの言葉があっても良いのに、それも言わずにさらに働けですってぇ?!あの子は可愛い顔して言うことがえげつないのよっ!」


愚痴を叫ぶことでストレスを発散していた。

空を飛んでいるので誰かに聞かれる心配はない。


「しかも他の子達はダンジョンで狩りの真っ最中っ?!うちのマスターは人使いが荒すぎ…ん?」


本来なら街の周りには何もない。

多少の草木はあるものの

三百六十度、不純物のない地平線が広がっているはずだった。

非現実的な空を埋め尽くさんばかりの星々、

その東の空に違和感があった。


「…煙?」


目を凝らすと土煙が夜空を(けが)していた。

地平線に隠れ、まだその正体はわからない。

マイラはさらに高度を上げ、地上に焦点を合わせた。


「ちょ…、なにあ…れ」


それはおよそ数百からなる騎馬隊だった。

馬にまで鎧を着せた騎士を先頭に、

巨大な矢じりの如く、その方向は街に向けられていた。

本物の大軍など見たことがなかったマイラは

離れているにも関わらず

その迫力に圧され、箒から落ちそうになる。


「か、か…鐘、鳴らさないと…」


そこをなんとか堪え、見張り番としての役割を果たした。



偶々(たまたま)、見張りの担当がマイラで

偶々、空を飛んで(遊んで)いた。

距離がある中で発見できたのは幸運だった。



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