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【56】


時は少し遡り

《ソード&ローゼズ》からの帰り道。

街の中心からは遠く、人の目はない。

マコトとモンスター(ユウゴ)は既に始まっている会合へと向かっていた。


「マコちん」


ユウゴがぽつりと呟き、歩みを止めた。


「ん?」


「…あそこにしよう」


「…」


何の話かはすぐにわかった。

マコトもまさにそのことを考えているところだったからだ。


道のへりに腰を下ろし一旦、頭の中を整理する。




これからは街を拠点にと思っていたマコト達は

自分達のギルドを立ち上げるか、

それともどこか既存のギルドに入るか皆で検討していた。


ギルドに所属することで得られるメリットは多い。

中でも一番の目的は"金"だった。

実はマコト達の懐事情は少々具合が悪い。

この世界(ゲーム)では、アイテムを換金し、

お金を稼ぐ方法が主流となっている。

それはモンスターが落とす素材であったり、

ダンジョンにある宝箱であったり。

ごく一部の特殊モンスターを除き

直接ゴールドがドロップすることは稀だった。

前々からの蓄えもありそれなりの金はある。

マコト達にとってモンスターを倒すことは苦ではなく

売れば金になるアイテムは腐るほどあった。

しかし驚いたことに、

手持ちのアイテムが売れなかったのだ。

これは完全に想定外、というか考えが甘かった。



以前この街に来た際、

目についた武器屋に入ってみた。

特に目的があったわけではなく

市場調査、という名のただの冷やかしだった。

その店では買い取りもしていたので

試しに頼んでみると、


「はい、ありがとうございます!ではお預かり致しますね」


応対したのは

"ウケ"を意識したスマイル満点の女の子だった。

肩まである黒い髪は少しウェーブがかっていて

人を疑うことを知らなそうな澄んだ碧い眼、

それよりも顔とのバランスが全然合っていない

大きな眼鏡が印象を強くしている。

服装は白を基調とした品の良い仕立てで

店に置かれている無骨な武器とのギャップが可笑しい。

こちらのアイテムを丁寧に扱っている様子から店のレベルは窺えた。


異変はしばらくすると起こる。

始めは嬉々として鑑定していた女の子だったが

途中から手が震え始め、


「す、すいません…お客様。少々お待ちを…」


言うやいなや突然、そそくさと奥へ引っ込んでしまった。

しばらくすると上役であろう者を数人連れ立って出てきた。

彼らは挨拶もそこそこに

舐め回すようにアイテムを見ている。

ヒソヒソと何かを相談し始めると

それから数十分は待たされただろうか。

店主と名乗った男がやがて意を決したように、


「お、お待たせして申し訳御座いませんでした。こちらの査定額なのですが…420万ゴールドになります」


「へぇ、そりゃ凄ぇ!」


こちらの物価にはまだ疎かったが、

金額のインパクトは十分だった。


「じゃあそれで」


売ることを同意したつもりだった。

それは偶然持っていた☆7の余剰装備で、

いくらで売れても何の問題もなかった。


「その…」


「ん?だからその額でいいよ。買い取ってくれ」


店主は何とも言えない表情をしている。


「…これは買い取れません」


「ふぇ?」


まさかの買い取り拒否に

つい間抜けな声が出てしまった。


理由は訊けば簡単に教えてくれた。


「店にはこれほどの物を買うゴールドもなければ、売る当てもありません」


「…」



マコトもそれなりに社会生活を送ってきた。

物を仕入れて、利益をのせて売る。

それが商売の基本だというのはわかっている。

店主の話は理解できた。

物価は知らないが、小さくない金額だというのはわかる。

理解はできたが納得はできなかった。

新しい装備を手にいれたら古い装備は売却する。

ゲームでは何の気なしにやっていたルーティンが

この世界では気軽にできない。


この人達にとってはここが現実で

自分達にとっても今はここが現実だということを

痛感した出来事だった。


とりあえずは売却を諦め、帰るしかなかった。


何か売れるものはないかと住処(すみか)で調べてはみたが

やはり売却に適した物が無かった。

ゲーム時代の無双プレイが仇になってしまったかたちだ。


ユウゴと行動を共にするようになってからというもの

アイテムを入手する機会が激増した。

アイテムを保管できる数が有限な以上、

価値の低い物から処分をせざるを得ない。

調べてみると☆6以下のアイテムが一つもなかったのだ。

再度、手持ちで一番ランクの低い☆6の武器を持って

武器屋に行ってみたが結果は同じだった。

違ったのは、応対が最初から店主だったことだけだ。



そもそも、手持ちのアイテムを売って金銭を得る行為自体、

先行きが不安なことこの上ないが、

それすらも出来なくなってしまった。

マコト達にとって収入源を確保することは急務だった。



あとはギルドに所属することによりできる横の広がり。

何もわからないこの世界において

他のプレイヤー達と交流が持てるのは力強かった。

新鮮な情報も手に入り、行動の幅も広がるだろう。



ただギルドに入ること、新たに作ること、

それぞれに問題があった。


ギルドを新たに作るには面倒な手続きを踏まなければいけない。

ギルドの発足を正式に認めてもらうためは

ウェルネ=デザイアよりもさらに上の存在。

この街を含め、周辺一帯を治めている”マーグ国”の承認が必要だった。

ゲーム時代なら、ワンクリックで済んだ手続きだったのだが

こちらの世界ではそうはいかず

実際にマーグ国へ赴き、

様々な役所を通さないといけないらしい。

それだけで数週間は掛かりそうだ。



そしてさらに面倒なのが、

既に在るギルドに入れてもらうことだ。

一見、簡単に見えるこの方法だが、

確かに今回の件で繋がりの出来たギルドに頼めば

マコト達なら問題なく入れてもらえるだろう。

ただその場合、ギルドマスターの許可が必要になる。

当然、許可をもらう為には信頼を得ないといけない。

つまりは根掘り葉掘りと

いらぬことを聞かれるのはわかりきっている。

"絶対に知られていけない秘密"があるマコト達にとって

自分達よりも上の存在が出来る状況は好ましくない。


面倒というか、嫌な事しかなかった。

どうすることが自分達にとって

得策なのかまさに悩んでいるところだった。



ユウゴからの提案は、

キキに《ソード&ローゼズ》の状況を聞かされたときに

頭に浮かんだ考えではあった。


「ただなぁ…」


キキやエイジ、さらには"子供"状態のゼロス。

問題は少なくない。


「フフ、アレのこと?」


「アレ…?」


ユウゴの言う"アレ"とはギルドマークのことだった。


「あ、ああ…アレね」


それについては頭の片隅にもなかった。


「タケとミカりんにはオレから説明するよ」


「…ん」


何か勘違いしているようだが

ユウゴの決意は固そうだ。


ギルドを立ち上げる手間が掛からない。

規則(ルール)に縛られることもない。

古参メンバーとの軋轢も考えなくてすむ。

間違いなく好条件だった。


「よし、わかった!俺的にはオーケーだ」


ユウゴが嬉しそうな表情(かお)をする。


「でもタケはなんて言うかな?あいつは性能(スペック)よりも見た目重視だから"アレ"は嫌がるかもな。ミカりんは気にもしないだろうが」


「確かに…」


「あいつらの説得は任せるぞ。そんなに悪い話じゃないから難しくはないだろうよ。…”アレ”以外はな」


マコトはイタズラな笑みを見せた。


「プッ…よっぽど嫌なんだね、マコちんも」


「…そりゃそうさ」


正直、そんなことよりも

キキやエイジ少年のことの方が悩ましい問題ではあったが

ゼロスがやられて以来、

久しぶりに笑っているユウゴを見てしまっては

本当のことは口にできなかった。

むしろユウゴにしてみれば

そちらの方が本命であろうということもわかっていた。


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