【54】
報酬の山分けも滞りなく終わり
会合はお開きとなった。
潮は、今回の後処理が山積みで
マコト達が着く前、
お礼もそこそこに帰ってしまったそうだ。
ユウゴも潮がいないとわかると
会合が終わるなりさっさと帰ってしまった。
マコトを含む主だったメンバーは
街の酒場へと繰り出している。
煙と喧騒、そして様々な食べ物の匂いが入り混じった、
何事からも解放されたかのような空間。
現実の居酒屋にいるのではないかと錯覚する。
「へぇ…こっちの世界にもあったのか、それ」
イザナギ達が豪快に口に流し込んでいる飲み物は
麦酒だった。
「ガハハ!凄いだろ!でも始めの頃はなかったんだぞ、これ」
「なかった?」
「あるギルドが作り出した」
「どうやって?」
「…それはわからん。奴らの企業秘密だそうだ」
「…奴ら?」
「《やっぱり猫好同盟》だよ」
マコトの疑問に答えてくれた卍丸は
唐揚げを頬張っている。
「ハハ、そりゃあ凄い」
マコトは嬉しかった。
潮達のモノ作りに賭ける情熱は
こちらの世界でも健在だった。
「なんでも、ギルマスのソルティキャットが開発班に無理難題吹っかけたそうだ」
「…あの人らしいわ」
「ただねぇ…。ちょっとこれ見てみ」
JJがメニューを見せてきた。
麦酒を指差している。
「ブブッ!」
飲んでいた水を思わず吹き出した。
「い、19,800ゴールド?!なんだこの値段っ?!」
COSの売値は
売り手が自由に決めることが出来る。
とは言っても、レア物を除いては
常識的な価格設定にするのが通例だった。
「これじゃあ暴動が起きるだろっ?!嗜好品がこの値段じゃ…」
「ガハハ!まぁ普通はそうなるだろうな!」
マコトの反応を見てイザナギが楽しそうにしている。
「当然だろっ」
つい語気が強くなってしまったのも
《やっぱり猫好同盟》が心配だったからだ。
「アイテムの価格が軒並み高騰したのはご存知?」
少し離れたところから
千早が会話に加わってきた。
相変わらず良い声だった。
「ああ…そういう話は聞いている」
「ふーん、その程度なの?…本当に不思議ね。貴方といい、さっきのモンスターくんといい、一体今までどこにいたのかしら?」
皆が談笑しながらも、
こちらに聞き耳を立てているのがわかる。
自分達のことはまだ何一つ話していなかった。
「…まぁまぁ、それはまたにしよう」
マコトは話の続きを促した。
千早も、興味があって聞いたのだろうが、
答えが返ってくるとは期待していない表情だった。
特に気にすることなく続けた。
「今、この街でそういう商売をしている人はほとんどいないの」
「へぇ、そいつは意外だ」
手持ちのアイテムには限りがある。
安定供給の保障がない以上、
取れるときに取っておかないと
痛い目を見るのは自分だ。
「…潰されたのよ」
「潰された?!そいつは物騒な話だな」
「フフフ、勘違いしないで。貴方が思っているような方法じゃないわ」
「じゃあどうやって?」
「客を全て取り込んだのよ」
「なんじゃそりゃ…。それが出来たら苦労しないだろ」
千早が麦酒を一口含む。
「貴方も買い物するなら、より安い店で買うでしょ?」
「そりゃそうさ。答えるまでもない」
「そのお店はね、他のお店が値段を上げるなか、逆に値段を下げたのよ」
「はぁっ?そんなこと長続きしないだろ」
「普通はそう思うわよねぇ?」
千早は苦笑には実感が籠もっていた。
「話の流れから察するに、それをやってのけたのが《やっぱり猫好同盟》ってことか?」
「ええ、そうよ」
「で…キミも潰された側だと」
「フフフ、否定はしないわ…」
千早はさらに麦酒を
あおった。
「ちなみに、私だけじゃなくて、ここにいる全員がやられたわ」
「ガハハ!」「…フンッ」「あはは…」
いつの間にか他の皆も
マコトと千早の話に聞き入っていた。
「言い訳じゃないが…」
イザナギが話を引き継いだ。
「俺たち中小ギルドなら値上げは当然だったと、今でも思う」
「同感だ…」
マコトでもそうする。
「幸か不幸か、この街には、バスター率いる巨大ギルドがあった。おそらくCOSの中でも一二を争うギルドが…」
「…」
「物量を武器に、その荒技をやってのけたって訳さ」
なぜか悲愴感のない、さっぱりとした表情だった。
「みんな感謝しているのよ」
「感謝?」
「ええ。《やっぱり猫好同盟》はこんな訳のわからない世界で先導をきってくれた」
「…まぁそういうことだ。あれがあったおかげで比較的安定した生活が出来てることは間違いない」
「あのまま物価の高騰が続いてたらって思うとゾッとするし」
珍しくJJが神妙な面持ちだ。
「《やっぱり猫好同盟》にしてみれば、”損して得とれ”を地でいったかたちだが、恨みに思う気持ちは全くない」
「へぇ…」
それぞれの闘いがあったんだな、
とマコトは思った。
「それにしても高くないか、それ」
卍丸が四杯目を頼むところだった。
「「「高いっ!」」」
皆の声が揃ったところで
それは爆笑に変わった。




