【53】
キキには報酬の話を伝えにきた。
ゼロスは死んでしまったが
約束通りの報酬は支払われる、と。
これには参加メンバー全員の同意が必要だったが、
みんな快く応じてくれた。
しかもマコトは自分の報酬も上乗せして渡すつもりだった。
今回の目的は報酬ではなく潮の救出。
金はあり過ぎて困るものでもないが
固執もしていない。
しかも無事に救出できただけではなく
デスペナについて何か知っているかもしれない
聖天騎士団との渡りもついた。
成果としては存分に満足している。
少しくらい情で行動しても良いだろうと考えていた。
「結構な額が支払われると思う」
「そうですか…。それは…ありがとうございます…」
ゼロスを失った事実を受け入れられないのか
キキは相槌をうちながらも、どこか上の空だ。
「…ところで他のメンバーは?」
ギルドの本拠地でありながら
この二人以外、人の気配がしない。
キキはひどく打ちひしがれている。
出来れば、ギルドの参謀的な人物にも
同席して欲しいところだった。
「…他にはいません」
「…え?いないってどういうことだ?」
キキは取り込まれた際の状況を
簡単に説明した。
「…なんてこった」
「そ、そんな…」
マコトとユウゴは驚いた。
ゼロスはそんな窮状をおくびにも出さなかった。
それと同時に、あの太っ腹な勧誘は
これが原因だったのかと納得もした。
ギルドに大事なものは、
立派な建物でも高価な装備でもなく”仲間”だ。
それが《ソード&ローゼズ》には圧倒的に不足していた。
散財してでも、仲間を増やす必要があったのだ。
そんな中、唯一無二であったであろう戦力の喪失。
ギルドの未来どころか、日々の生活すら危うい。
「…もし困ったことがあれば、ココに連絡するといい」
「…」
マコトは《魔具屋ー塩猫ー》の場所が書かれたメモを渡した。
今回の件でギルドメンバーを失った《ソード&ローゼズ》には
最大限の厚遇を約束する、と
街最大のギルド《やっぱり猫好き同盟》の
ギルドマスターである潮から言質をとってある。
「…」
「おい、ユウゴ。…行くぞ」
「あ…うん」
ユウゴが何か言いかけていたが、
マコトは、面倒な事態になる前に
辞去することにした。
キキは律義な人だった。
立ち上がるのも億劫なはずなのに
エイジを伴いわざわざ軒先まで見送ってくれた。
「ではこれで…」
「この度はどうもありがとうございました」
「モンスターのおにいちゃんっ!バイバイ!」
「うん…バイバイ」
エイジが元気に手を振ってくる。
「あの…」
立ち去ろうとしたが
キキに呼び止められた。
「…なにか?」
「…レイジくん、いや…勇者ゼロスは活躍しましたか?」
「「…」」
マコトとユウゴは返答に困った。
そもそも、それほど困難な作戦ではなかった。
ゼロスが死んだのも、イレギュラーによるものだ。
「キキねえちゃん!にいちゃんは強いに決まってるじゃん。なんでそんなこと聞くの?」
「エイジくん…」
キキ達が満足する答えを
言おうとしたその時だった。
「おーい!”子供”が逃げたぁっ!捕まえてくれぇー!」
またか、と思いマコトとユウゴが声の方を見やると
小走りでこちらに向かってくる”子供”がいた。
「おっと…逃げるのはここまでだ」
マコトは”子供”を迎えるように
受け止めた。
「ちょっと、放して!」
”子供”はジタバタと抵抗しているが
マコトは顔を上げない。
「…ぁぁぁ」
その”子供”はゼロスだった。
ユウゴはまともに見ることが出来ない。
「…レイジくん。戻ってきてくれたのね…」
キキが、いつもエイジに見せている表情をたたえ
そばまでやってきた。
「おねえちゃんはボクと遊んでくれるの?」
出発した時と変わらない姿。
いつもギルドのみんなを和ませてくれている笑顔。
キキはついに泣き崩れてしまった。




