【51】
「マスター…"アレ"も殺しますか?」
吹き飛んだ相棒を気にする素振りも見せず
脱兎の如く逃げ出した男は
まだ見える位置にいた。
シャルロットの射程範囲内ではあったが
無断でユウゴの側を離れるわけにはいかない。
「…放っておいていいよ」
ユウゴは、ゼロスの仇を討ったことで多少の落ち着きを取り戻していた。
先制攻撃を喰らって、わずかに浮き足立った感覚がある。
他に仲間がいないとも限らない。
少し時間が欲しかった。
逃げたいのであれば
こちらにとってはむしろ好都合。
「では戻ります」
「…ありがとう」
シャルロットは名残惜しそうな顔を見せつつ
再び中空へと消え去った。
「ユウゴ…」
辺りは静けさを取り戻している。
マコトがユウゴのそばまで来ていた。
「マコちん…。オレ、ミスっちゃったよ…」
ユウゴは泣き笑いの表情をしている。
「…」
マコトは掛ける言葉が見つからない。
ユウゴに責任がないのはわかっている。
全くの部外者が、遠い距離から魔法を撃ってくるなんて
想定外もいいところだ。
ただ、ユウゴであれば防ぐことができたのも事実。
おそらく自らの油断を後悔していることだろう。
今は何を言っても気休めにしかならない。
まずは目的を優先させる。
「気持ちはわかるが悲しむのはあとだ」
「…」
「もうすぐ夜が明ける。とりあえずウェルネ=デザイアに戻ろう」
「…うん、わかってる」
ユウゴは俯きながらマコトの後に続く。
砦へと戻ったマコトはサラに詰め寄る。
「一つ聞いておきたいんだが…」
「…な、なによ?」
まだ若干、怖れているようだったが
構わずに話を進める。
「聖天騎士団は何がしたいんだ?」
「何が…したい?」
「ああー」
街の人々と敵対したいのか。
それとも友好的な関係を築きたいのか。
「…え?」
サラは一瞬、何を言われているのかわからなかった。
自分達の任務は”ウロ”を連れ帰ることだけだ。
それ以上でも以下でもない。
「な、何でそういう話になるのよっ?」
「当たり前だろうがっ!」
「…っ」
サラは、勢いに気押されてビクッとしてしまう。
マコトの眼には怒りが宿っていた。
「”子供”達を連れて行くのもそうだが、街の人を連行するって一体どういうことだっ!」
ゼロスを殺されたことでマコトも苛立っていた。
直接は関わっていそうにはなかったが
原因を作ったのはサラ達、聖天騎士団である。
「そ、それは…」
サラは事情を話せる範囲で説明した。
目的は”ウロ”を本部へ連れ帰ること。
その際、潮があまりに反抗的だったため
業務妨害の罪で拘束した、と。
「そもそも"ウロ"は騎士団の管轄よ!部外者にどうこう言われる筋合いはないわっ!」
元来、気の強い性格のサラも負けじと言い返す。
するとマコトの眼がすうっと細くなった。
「"ウロ"って呼んでんのかこっちでは…」
「…こっち?」
「…いや、何でもない」
この作戦は"子供"達と潮を連れ帰ることが最優先ではあったが
もう一つ目的があった。
「それ…これからは止めてくれないか?」
「…は?」
マコトは表情を崩した。
「お前達が"ウロ"と呼んでいるのは、俺達の…知り合いなんだ」
"仲間"と呼ぶ資格はマコト達にはない。
「知り合い?一体、何の冗談…」
サラは笑い飛ばそうとしたが
マコトは微笑みながらも真剣だった。
「ほ…本当なの?"ウロ"と知り合いだなんて…」
「…」
"ウロ"は成体として自然発生するもの。
人格は幼児から小児の者が多く、
騎士団にある施設で教育を施せば
単純労働には最適の"奴隷"となる。
という認識しかない。
まさか"ウロ"になる以前の人格があるなんて
考えたこともなかった。
「そ、そんなこと急に言われても…」
騎士団の貴重な財源である"ウロ"の放棄。
そんなことをサラに決める権限はない。
「とりあえず君には一緒に来てもらう」
「え…。ど、どこに?」
「ウェルネ=デザイアだ。大丈夫、手荒な真似はしない」
「な、なに勝手に決めてんのよっ!」
「君の"上"の人と話をつける。おそらく君では話にならないだろう」
「…っ」
ムッとしたが図星だった。
「とりあえず、ぐっすりと眠っている"頼れる"団員達には上手いこと言ってくれ」
「断るわっ!」
「…はぁ。それは残念だ」
諦めたと思ったのだが、次の言葉を聞いて耳を疑う。
「…じゃあ不本意だが皆殺しにさせてもらう」
「なっ…」
マコトは微笑みをたたえたまま告げる。
「俺達の存在を知った君達を生かしておくのは危険だろ?」
先ほどの騎士団員を装った者達との戦闘を見ていた。
襲ってきた者達もさることながら
返り討ちにした方も桁違いの強さだった。
皆殺しっていうのも誇張でもなんでもなく
おそらく易々とやってのけるのだろう。
「さぁ、どうする?」
「わ、わかった…。わかったわよ、行けばいいんでしょ」
突然、マイラが警告を発した。
物凄いスピードで近寄ってくる影がある。
しかも二体、と。
今度こそは、と飛び出したユウゴだったが、
それは桜と銀次だった。
二人とも血に塗れて”黒”かった。
今回の作戦。
目的を達すれば大人数での移動になるはずだったにも関わらず
パルムもシリウスもそこの段取りがすっぽりと抜けていた。
「…」
シリウスを問い質すと無言を貫かれてしまった。
ここでごちゃごちゃと詰めると、
執事キャラが崩壊しそうだったので
自重しておいた。
仕方なく、マコトはストレージからアイテムを取り出す。
[積乱金斗雲の笛]
《☆8 皇家の財宝級》
効果:空を飛ぶ雲を呼ぶことができる
使用回数:無制限
定員:無制限
但し乗員数に反比例して雲の進行速度が下がる
一行は、陸路とは大きく趣きの異なる
空からの景色を満喫した。
皆それぞれ思うところはあったが会話は全くない。
聞こえてくるのは
”子供”がはしゃいでいる声だけだった。




