【50】
いつあの"化け物"に追い付かれるかわからない。
悪寒を背に負いながら、
ゴヨークは命の炎を燃やすかの如く走った。
「ブハァッ、ハァ、ハァ…」
気付けば砦から遥か遠い所まできていた。
そろそろ体力の限界に達しようとした時、
聞き慣れた声を耳にする。
「ゴヨーク様ぁぁぁっ!!」
「っ?」
それは遥か上空。
雲の上からだった。
「お、おおおっ、オルチっ!き、来てくれたかっ!…って遠いわ!降りてこい!」
オルチの乗った雲は、ゴヨークの心情とは裏腹に、のんびりとした速度で降下してくる。
「ぬかったわ…。騎士団員達の装備品を奪って帰るつもりだったが…」
オルチと孫弟子達はゴヨークに平伏している。
孫弟子の中には初めて"大師匠"であるゴヨークを見たという者も少なくない。
「それは災難で御座いました。我々も砦へと駆け付けるつもりでしたが、《覚醒者》とかち合いまして…」
オルチは《覚醒者》との邂逅を報告した。
ゴヨークは直接、《覚醒者》を見たことがなかった。
オルチ達から話を聞いていただけだった。
「すると砦にいた奴らも《覚醒者》ー」
「どうかしましたか?」
「…いや何でもない。ところで他の"奴ら"は?」
「もう着く頃だと思いますが」
「"バルボロッサ"は来るのか?」
「多分…としか言えませんね。いい加減な奴ですから」
ゴヨークが直接呼んだのはオルチだけで
あとの手配は全て任せていた。
「ところでクルスの奴はどこですか?」
「…あ、ああ」
ゴヨークは砦での出来事を大雑把に話した。
「…な、なんと。あのクルスが…」
オルチは驚いた。
弟子達は"劣等種"などと揶揄してはいたが
それは強さに対する憧れ、嫉妬の面があったことは否めない。
以前、《覚醒者》と対峙した時も、
先日のマーグリアでも大いに役立ってくれた。
オルチが報酬を切り出すと、
「貸しでいいっすよ!」と明るい笑顔で言っていた。
あれが最後の言葉だと思うと、若干、胸にくるものがある。
「…して、如何なさいますか、ゴヨーク様…」
「ううむ…」
オルチとバルボロッサはそれぞれ《覚醒者》を殺した実績がある。
二人が揃えばなんとかなりそうではあったが
クルスの死に様が頭をよぎった。
もし奴が《覚醒者》だったら
オルチだけでは心許ない。
「…帰る」
「ハッ、仰せの通りに」
オルチに異論はなかった。
「おい、お前ら。すぐに準備しろっ!」
オルチは自分の弟子達に帰り支度の指示をした。
「"アイツら"はどうしますか?」
一人の弟子がオルチに尋ねる。
オルチは、二人の《覚醒者》と戦わせたままの
雑兵達のことだとすぐにわかった。
「元々、"無縁"の輩だ。放っておけ」
「フフフ、わかりました」
「…しかし《覚醒者》の持つアイテムは価値が計り知れないな」
オルチはそう一人呟くと、自分の手元に目をやった。
[フレイヤの双眸【レプリカ】]
《☆8 皇家の財宝級》
効果:短時間、自分より低レベルの人間を操作することが出来る。
レベルの差が大きければ大きいほど、より高度な操作が出来る。
使用回数:無制限(但し、一定確率で破損する可能性あり)
「こんなアイテムがいくつもあれば、世界を支配するのも夢じゃない…」
「大師匠様。準備が整いました!」
オルチの弟子が、直接ゴヨークに報告する。
「ご苦労だった。…オルチは?」
周辺を見やるが姿が見えない。
「師範は先遣として既に出ております。大師匠様は安心してお発ち下さい」
「…わかった」




