【47】
桜は、戦いの高揚感に支配されつつも力は温存していた。
こちらの戦いぶりを観察している複数の視線を感じたからだ。
「鬱陶しいな。どこにいるんだ…」
攻撃を捌きながら、"観察者"への警戒は怠らなかった。
「師範、どうですか?」
「《覚醒者》だ。間違いない」
二人を見ている師範とその弟子達は"空"にいた。
地上では赤い"アリ"達がせっせと働いている。
「あの強さ……。私達、普通の"人間"ではありえない」
「どうしますか?」
「決まってるだろっ!」
言わなければわからないか、という勢いで弟子を怒鳴る。
「"見"だ…相性が悪い。あの"狂人"にやられるのがオチだ」
「で、ですね…」
人がアリに見える距離から見ているだけなのだが、
本当にアリでも殺しているかのように人間を殺している。
「"師匠"達が戻るのを待つ。クルスにおあつらえ向きの相手だ」
「確かに。あの劣等種にも、たまには役立ってもらわないといけませんね」
弟子は侮蔑の笑みを浮かべる。
「しかし、本当に凄いアイテムですね、これ」
別の弟子が、足元を一踏み、二踏みする。
「ああ、全くな。危険を犯して、《覚醒者》を殺した甲斐があった」
[積乱金斗雲の笛]
《☆8 皇家の財宝級》
効果:空を飛ぶ雲を呼ぶことができる
使用回数:無制限
定員:無制限。但し、乗員数に反比例して雲の進行速度が下がる
「あの時はお見事でしたね、師範」
「フフ、今はやめておけ」
師範はまんざらでもない様子だが、今もその《覚醒者》と対峙中だ。
「それにしても遅いですね、"大師匠"…」
ここから砦の方も見える範囲ではあるが、
距離も遠く、また雲が邪魔をしてはっきりと見えない。
「慎重な御方だからな。勝算がなければ……ん?」
砦から程よく離れたところで、何かが光った。
「クルスの《雷電》だ!仕掛ける気だぞ!」
師範と弟子達が身を乗り出す。
ゼロスの上半身を吹っ飛ばした攻撃が今にも撃ち出されそうだったが、
ユウゴは躊躇なく二人の元へと歩を進める。
「ちょっと、あなた!さっきと同じ魔法よ!気をつけ…」
マイラの忠告をマコトが止める。
「大丈夫だ」
「だって…」
先程の光景がフラッシュバックする。
「アイツ"ら"は強い」
「……"ら"?」
そして光が放たれた。
光の大玉は真っ直ぐに飛んでくる。
「おいっ!」
ユウゴが中空にそう呼び掛けると、突如、何者かが降り立った。
絶世の美貌だった。
潤った厚い唇。
幼さを感じさせる少し垂れた双眸。
引き締まった肢体に豊満な胸。
程よくウェーブのかかった艶やかな黒髪。
禍々しいまでに巨大な翼と、
体とのバランスが全く合っていない長い尻尾があってさえなお見惚れてしまう。
「"マスター"。お呼びですか?」
「見ればわかるだろ、シャルロット」
ユウゴの様子がいつもと違うことに違和感を覚えながらも
即座に状況を把握し、主の意向を汲み取る。
「直ちに処理致します」
シャルロットは胸が三倍になるほど息を大きく吸い込み、
飛んできた光の玉ごと一気に吹き返した。
自身の属性である火の付与を乗せるのはわすれない。
「……か、返されたっ?!あ、ヤバッ…ブヘェェッ」
魔法が反射されるのは想定の外だったのか、回避する余裕もなく、
放った魔法より遥かに強力になった攻撃を喰らった術者は跡形も残らず消え失せた。
「……え?」
横にいる男は一瞬の出来事に茫然としている。
「フン。マスターに手を出すとはこの身の程知らずめ。お前も消えろ」
シャルロットが続けて男に襲い掛かる。
しかし、男は踵を返し一目散に逃げ出した。




